クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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地母神の町

では、どんな「責任」がお好み?

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 呆然と惚けたままのエルヴィラを鼻で笑うと、ミーケルは急いで残りの白ソーセージを平らげて席を立った。
 この面倒臭いだけの何の得にもならない相手からはさっさと離れるに限る。

 未だ座ったまま身じろぎもしないエルヴィラの頭にキスをして、「じゃ、またね」と微笑んでさっさと立ち去ってしまえばこちらのものだ。

 ――だが、ようやく我に返ったエルヴィラが、慌てて「待て!」と追い縋った。

 ミーケルは思わず舌打ちをして振り返り、いつものような営業用の微笑みを浮かべて首を傾げる。

「もう用は済んだんじゃないの?」
「何も済んでないっ! しかも、今、舌打ちしただろう! その態度はなんだ!」
「あまり喧嘩腰になるのは良くないと思うよ?」

 がっちりと上着を掴んだエルヴィラの手に、ミーケルの手が重なった。
 外されると思ってか、エルヴィラの手にますます力がこもる。

「な、な、な……こっ、この嘘吐き! 詐欺師!」
「人聞きが悪いこと言わないでよ。僕、何か君と約束とかしてたっけ? 今まで何か嘘吐いたりした?」

 あくまでもにっこりと柔らかく穏やかに、ミーケルは笑っている。
 そんな風に優しく諭されるように言われると、悪いのは自分のほうであるような気がしてしまって――

「う、それは……」

 言われてみればたしかに、ミーケルと何か約束した記憶はなかったし、彼が嘘を吐いた覚えもなかった。
 エルヴィラは困ったようにきょろりと視線を泳がせる。

「じゃあ、もういいよね?」
「あっ! だ、だめだ。やっぱりだめだ。お前には責任を取ってもらうんだ!」
「またそれ? 前にも聞いたよね。責任責任っていうけど、いったい僕にどうして欲しいのかって」

 溜息まじりの呆れた視線で見下ろされて、エルヴィラは慌ててしまう。

「それは、それは――」
「それは?」
「これから、考える」

 尻すぼまりに呟くエルヴィラに、ミーケルはふんと鼻を鳴らした。それからじろりと小馬鹿にするように目を細めて見やる。

「まったくもって話にならないね」

 口の端だけをつり上げて、笑うような形を作る。

「君、何がしたいの?」

 問われて、びくりとエルヴィラの肩が揺れた。

「そもそも、はじめてはじめてって騒ぐけど、君いくつなの。少なくとも十代の子供じゃないよね? いつまでも夢見てないで、もう少し大人になりなよ。
 それとも――」

 笑みの形にしたままの口を、ミーケルはエルヴィラの耳元に近づけた。

「僕が本当に大人にしてあげようか?」
「なっ! こっ、断る!」

 つい反射的に答えて、エルヴィラはすぐに我に返った。にやにやと笑うミーケルをもう一度見上げて、「それ以外の方法だ!」と続ける。

「別になんでもいいんだけど――じゃあ、どんな方法?」

 黙り込むエルヴィラに、やっぱりミーケルは呆れた吐息を漏らす。

 こういう面倒ごとなんてとっとと片付けて、早いとこお払い箱にしたい。
 公爵家の姫がいたあの場で、いちばん後腐れがなさそうなのを選んだはずが、とんだ見込み違いだった。
 人を見る目には自信があったはずなのに。

「最初に言っておくけど、お金なら無いからね」
「お、お金なんて……馬鹿にするな!」

 エルヴィラは唇を噛む。
 そんなものを欲しがってるように見えたのかと、悔しさのあまり腸(はらわた)が煮え繰り返りそうになる。

「そういうのが欲しいんじゃない! たっ、ただ――」
「ただ?」

 怪訝そうなミーケルを、エルヴィラはキッと睨み返した。

「ただ、ああいうのがはじめては、嫌だったんだ」
「ああいうのって?」

 ぶるぶると震える手を握り締める。
 こんな男に、自分の気持ちがわかるものか、と。

「は、はじめては、す、好きになったひとと、もっと、あんなんじゃなくて」
「ふうん?」
「も、もっと」

 じわりと涙が滲んで、くっ、と歯を食いしばる。
 よりにもよって、こんな男に、あんなムードもへったくれもない状況で、訳のわからないうちに奪われるなんて。

「もっと、もっと――」

 ミーケルはおもしろそうな表情でエルヴィラを眺めた。
 意外なことに、この女騎士は見た目より遥かにロマンティストだったらしい。

「じゃあ、やり直す?」
「へっ?」

 にっこり微笑んで、ミーケルがエルヴィラの肩を抱いた。
 まるで恋人にするように優しく抱き寄せて、耳元に甘く囁きを落とす。

「君の望むように――そうだね、この町なら大きな庭園が解放されていたはずだ。薔薇園やちょっとした森もある」

 さらりと頬を撫でて、滲んだ涙を指先で拭い、目尻にそっとキスを落とす。
 頭の後ろで結んだ髪を解いて優しく指で梳き、顎を軽く持ち上げる。

「ちょうど今は薔薇の季節だ。
 いちばん美しく咲いた薔薇と一緒に、君に極上のキスを捧げよう。
 ねえ、エルヴィラ。それでどうかな?」
「――そ、そんな」
「ん?」

 エルヴィラの顔を覗き込むようにして、ミーケルがふんわりと微笑んだ。
 まるで恋人に微笑んでいるようではないかと考えて、エルヴィラの顔がくしゃっと歪み、唇がわなわな震えだす。

「そんな……そんな、そんな偽物なんかでごまかされるか、クソがぁっ!」
「っぐ……!?」

 エルヴィラの右拳が、きれいにミーケルの鳩尾に入っていた。

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