クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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聖女の町

“解呪”は嫌だ

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 昨晩、発作的に“惚れ薬ラブ・ポーション”を飲み干して宿を飛び出したエルヴィラが戻ったのは、明け方近くになった頃だった。
 それまで当てもなくふらふらと、ひたすら町中を歩き回っていたらしい。

「長くて三ヶ月だね。君の魔法耐性を考えると」
「三ヶ月……」

 出迎えたのは、もちろん不機嫌極まりないミーケルだ。
 彼はエルヴィラの顔を見るなり「“解呪ディスペル”しに行こうか」と手を差し伸べた。
 この町の太陽神教会の教会長なら、面倒な魔法薬でも“解呪”ができるからと。

 だが、エルヴィラは“解呪”なんて絶対嫌だと言い張った。
 エルヴィラ自身にもよくわからないのだが、どうしても嫌なんだと突っぱねて、全力で拒否した。
 どうしても、なんとなく、嫌だったのだ。
 何がなんとなくでどうしてもなのかと訊かれても、エルヴィラにはそうとしか答えようがなかったのだが。

 “解呪”をするしないで太陽が高く昇るまで言い合ったが、エルヴィラは折れなかった。あまりの頑なさにとうとうミーケルが折れて、譲歩案を出すに至るほどに。

「君が今感じてるものは、すべて薬のせいだ。それはわかるよね」
「う――」
「だから、三ヶ月はまあ我慢してやろう。だけど三ヶ月を過ぎてもこのままだったら、僕は本気で姿を消すよ。
 正直を言えば、今すぐここから消えたいくらいだ。だけど、ああいう劇薬をうかつに君に渡してしまった責任はあるから、効果が現れている間だけは我慢してやる」

 不機嫌を露わにしたまま、ミーケルは淡々と告げる。エルヴィラは、ただただしょんぼりと頷くだけだ。
 確認でも何でもなく決定事項を伝えるだけの口調にも、エルヴィラは項垂れていた。

 薬のせいだとわかっていても、目の前のミーケルに不機嫌にされるのが辛い。拒絶されるのが辛い。
 もっと笑ってほしいし、抱きついたりしたい。
 好きだと言いたいし、ミーケルのことを知りたい。
 でも、そんなことすれば今度こそミーケルは本気で行方を眩ませてしまうだろう。そうなったらと考えるだけで、呼吸が苦しくなってしまう。

 これが、薬のせいの一時の気の迷いだなんてとても信じられない。
 自らしでかしたこととはいえ、エルヴィラはすっかり落ち込んでいた。

「それにしても、君って本当に馬鹿だろう?」

 ミーケルは心の底から呆れたという顔で、そう言った。

「振られてヤケになったからって自分から“惚れ薬”飲む馬鹿なんて、初めてみたよ。物語の中にも聞いたことないね。
 それに、だったらなんで僕が相手なのさ。もっと他にいるだろう? なんでよりによって僕なんだよ、面倒臭い」

 返す言葉もなく、エルヴィラはただ項垂れ続けるだけだ。言われてみればもっともなのだが、あの時はそれしか頭に浮かばなかった。

「これまでも散々、君には迷惑しているんだ。最初の最初が僕の判断ミスとはいえ、ここまで引っ張る羽目になるなんて、いい加減おかしいと思わないか?」
「ん……と、その……」
「ああ、弁解はいいよ。たぶん、腹立たしさが増すだけだと思うから」

 ピシャリと言われてエルヴィラは首を竦める。どうしたらいいのかわからない。いや、“解呪”をすればいいのはわかっているけど、どうしても嫌だ。
 しおしおと控えの間に引っ込んで、エルヴィラはベッドに潜り込んだ。


 * * *


「聖騎士サイラス殿、ちょっとお時間を戴けますか」

 少しだけ仮眠を取った後、ミーケルは太陽神教会のサイラスを訪ねた。

「吟遊詩人殿? 何かありましたか」
「いや、その、ですね……」

 はあ、とひとつ息を吐いて、ミーケルはなんと訊いたものかと考える。

「単刀直入に言って、僕の護衛騎士のことなんですが……昨日、いったい何があったのか、お聞きしたいと思いまして」

 サイラスは軽く瞠目する。
 わずかに眉根を寄せて、「ふむ……」と考え込んだ。
 ミーケルは、もう一度息を吐いた。

「だいたい想像はついてるんですが、実際どう言ってエルヴィラを断ったのかなと」
「少々率直に言いすぎてしまいましたか? “あなたは違う。それは本当の恋ではなく、騎士への憧れにすぎない”と告げたのですが」
「――ああ、なるほど」

 それでか、とミーケルは納得した。だからあんなことをしでかして、“解呪”を頑なに拒否しているのか、と。

 うわあ面倒臭い、とミーケルは心底から思ってしまう。

「ありがとうございます」
「お役に立てましたか?」
「ええ、まあ――」

 わかったところで面倒臭さが増しただけだった。
「あの子はいい騎士になりますよ。今はまだ少し幼いですが、もっといろいろなことを知って成長すればいい騎士になれます。
 ですから、よろしくお願いします、ミーケル殿」

 さらに面倒臭くなったが、顔には出さず、ミーケルは「ええ、確かにそうですね」と、あくまでもにこやかに頷いたのだった。


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