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水路の町
変態が、現れた!
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結局、日が暮れるまでどころか、翌朝までひと晩中ミーケルにくっついていちゃいちゃし倒して、エルヴィラはすっきり爽やかな気持ちで朝から剣の素振りをしていた。
昨日はクラーケンを倒して竜に褒められて、ミーケルとも存分にいちゃいちゃできて、すごくいい一日だった。
そのミーケルは、まだ眠いと言ってベッドに潜ったままだ。あとで朝食を持っていって、部屋で一緒に食べよう。
まるで新婚カップルみたいじゃないかと、またエルヴィラはにまにま笑う。
「――あ、ここに泊まってたんだ?」
いきなり声を掛けられて振り向くと、見たことのない男が手を振りながらエルヴィラを眺めていた。
琥珀に近い金の髪の、背の高い男だ。腰に剣も下げている。
手を止めて訝しげに見返すと、やたらにこにこと親しげに笑って近づいてくる。
「なあなあ、昨日クラーケンと一騎打ちしてただろ?」
「え? あ、ああ、確かにしてたな」
「名前なんていうの? 俺はアライト」
「エルヴィラだ。エルヴィラ・カーリス」
ふうん、と不躾なくらいにじろじろと、アライトはエルヴィラを眺めまわす。
「なんだ、ひとをじろじろと。失礼なやつだな」
「なあ、エルヴィラ。あんた、俺に乗り換える気ない?」
「……は?」
エルヴィラの眉間に皺がよる。
未だかつて、出会い頭にこんなことを言われた試しなどない。これがからかわれているということなのか。
考えて、エルヴィラの眉間の皺がますます深くなる。
「あの躊躇ない闘いっぷりがすっげえ見事で、見惚れちゃったんだよね。なんか忘れられなくてさ」
「何の話だ」
「だから、俺に乗り換えないかって誘ってるんだ」
「……乗り換えるって、つまり」
「あんたの相棒の詩人を止めて、俺にしないかって」
にい、と翠の目を笑うように細めて、アライトは手を差し出した。
こいつはいったい何を言い出しているのかと、エルヴィラは一瞬ぽかんとしてしまい……それからハッと気づいて、差し出された手をペシッと打とうと手を振り上げる。
「誰が乗り換えるかっ!」
が、打とうとした手を掴まれ、引き寄せられてしまった。すぐに振り解こうともがいても、びくともしない。
こいつ、何者だ。
「そんなこと言わないでさ、どう?」
「な、な、離せ!」
こいつできる。
風体からして戦士だろう。おそらく体術もなかなかのもののはずだ。押さえられたところを解こうとしても全然外れない。
冷や汗がエルヴィラの背を伝う。
このエルヴィラ・カーリスが、まさか襲われて拐かされる、だと?
「ねえ、どう?」
ぐっと顔を近づけられて、ひっと息を呑む。
これはもしかしなくてもいつか通った道ではないだろうか。
「――こ、このエルヴィラ・カーリスが、同じ手を何度も食らうかあッ!」
エルヴィラが思い切り頭を振ると、ゴスッ、と鈍い音がしてアライトが後ろに仰け反った。
その隙を見逃さず、容赦なく剣の柄を鳩尾に叩き込み、流れるように膝を払い、くの字に崩れ折れたところに肘を入れる。
「ま、マジか……容赦ねえ……」
げほ、と腹を押さえて膝をつくが、昏倒しないのはさすがというべきか。アライトはなおも踏み止まり、完全には崩れない。
「貴様のような不埒な輩に乗り換えるような尻軽とでも思ったか! このエルヴィラ・カーリスを侮るな!」
指を突き付け高らかに述べて、エルヴィラは脱兎の如く逃げ去った。
部屋へと飛び込んで、エルヴィラはそのまますぐにベッドに潜り込み、ミーケルに思い切りしがみついた。
「み、ミケ!」
「ん……何慌ててるの。落ち着きなよ」
ミーケルはまだ寝ぼけているのか、もぞもぞと身体の向きを変え、ぎゅうとしがみつくエルヴィラを抱え込むように抱き込む。
ぽんぽんと落ち着かせるように背を叩かれて、あ、これちょっといいかも、とエルヴィラはにひゃりと笑う。
「じゃなくて、変態だ、ミケ! 変態がいた!」
「んん……? もうちょっと寝させてよ。体力お化けの君と違うんだからさ」
ちゅ、と脳天にキスをされて、エルヴィラはやっぱりにひゃりと笑ってしまう。
じゃなくて。
「だから、変態が迫ってきたんだ、ミケ」
「……君に何かして生きていられる変態なんか、いないだろ?」
「ただの変態じゃなくて、できる変態だったんだ!」
「うん……わかったから、とりあえず寝ようか」
今度こそキスで口を塞がれて、エルヴィラはやっぱりにひゃりと笑い、つられて二度寝してしまった。
昨日はクラーケンを倒して竜に褒められて、ミーケルとも存分にいちゃいちゃできて、すごくいい一日だった。
そのミーケルは、まだ眠いと言ってベッドに潜ったままだ。あとで朝食を持っていって、部屋で一緒に食べよう。
まるで新婚カップルみたいじゃないかと、またエルヴィラはにまにま笑う。
「――あ、ここに泊まってたんだ?」
いきなり声を掛けられて振り向くと、見たことのない男が手を振りながらエルヴィラを眺めていた。
琥珀に近い金の髪の、背の高い男だ。腰に剣も下げている。
手を止めて訝しげに見返すと、やたらにこにこと親しげに笑って近づいてくる。
「なあなあ、昨日クラーケンと一騎打ちしてただろ?」
「え? あ、ああ、確かにしてたな」
「名前なんていうの? 俺はアライト」
「エルヴィラだ。エルヴィラ・カーリス」
ふうん、と不躾なくらいにじろじろと、アライトはエルヴィラを眺めまわす。
「なんだ、ひとをじろじろと。失礼なやつだな」
「なあ、エルヴィラ。あんた、俺に乗り換える気ない?」
「……は?」
エルヴィラの眉間に皺がよる。
未だかつて、出会い頭にこんなことを言われた試しなどない。これがからかわれているということなのか。
考えて、エルヴィラの眉間の皺がますます深くなる。
「あの躊躇ない闘いっぷりがすっげえ見事で、見惚れちゃったんだよね。なんか忘れられなくてさ」
「何の話だ」
「だから、俺に乗り換えないかって誘ってるんだ」
「……乗り換えるって、つまり」
「あんたの相棒の詩人を止めて、俺にしないかって」
にい、と翠の目を笑うように細めて、アライトは手を差し出した。
こいつはいったい何を言い出しているのかと、エルヴィラは一瞬ぽかんとしてしまい……それからハッと気づいて、差し出された手をペシッと打とうと手を振り上げる。
「誰が乗り換えるかっ!」
が、打とうとした手を掴まれ、引き寄せられてしまった。すぐに振り解こうともがいても、びくともしない。
こいつ、何者だ。
「そんなこと言わないでさ、どう?」
「な、な、離せ!」
こいつできる。
風体からして戦士だろう。おそらく体術もなかなかのもののはずだ。押さえられたところを解こうとしても全然外れない。
冷や汗がエルヴィラの背を伝う。
このエルヴィラ・カーリスが、まさか襲われて拐かされる、だと?
「ねえ、どう?」
ぐっと顔を近づけられて、ひっと息を呑む。
これはもしかしなくてもいつか通った道ではないだろうか。
「――こ、このエルヴィラ・カーリスが、同じ手を何度も食らうかあッ!」
エルヴィラが思い切り頭を振ると、ゴスッ、と鈍い音がしてアライトが後ろに仰け反った。
その隙を見逃さず、容赦なく剣の柄を鳩尾に叩き込み、流れるように膝を払い、くの字に崩れ折れたところに肘を入れる。
「ま、マジか……容赦ねえ……」
げほ、と腹を押さえて膝をつくが、昏倒しないのはさすがというべきか。アライトはなおも踏み止まり、完全には崩れない。
「貴様のような不埒な輩に乗り換えるような尻軽とでも思ったか! このエルヴィラ・カーリスを侮るな!」
指を突き付け高らかに述べて、エルヴィラは脱兎の如く逃げ去った。
部屋へと飛び込んで、エルヴィラはそのまますぐにベッドに潜り込み、ミーケルに思い切りしがみついた。
「み、ミケ!」
「ん……何慌ててるの。落ち着きなよ」
ミーケルはまだ寝ぼけているのか、もぞもぞと身体の向きを変え、ぎゅうとしがみつくエルヴィラを抱え込むように抱き込む。
ぽんぽんと落ち着かせるように背を叩かれて、あ、これちょっといいかも、とエルヴィラはにひゃりと笑う。
「じゃなくて、変態だ、ミケ! 変態がいた!」
「んん……? もうちょっと寝させてよ。体力お化けの君と違うんだからさ」
ちゅ、と脳天にキスをされて、エルヴィラはやっぱりにひゃりと笑ってしまう。
じゃなくて。
「だから、変態が迫ってきたんだ、ミケ」
「……君に何かして生きていられる変態なんか、いないだろ?」
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「うん……わかったから、とりあえず寝ようか」
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