クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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水路の町

「そいつが欲しいんだよね」

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 エルヴィラは警戒心も露わに睨みつけつつ、座りっぱなしでは不利になるからと立ち上がる。けれど、顔は見たくないから目を背けながらだ。ミーケルも立ち上がり、宥めるようにエルヴィラの背中をひとつ叩く。

「やあ、ここにいたんだ」
「出たな変態。貴様など呼んでない。帰れ。今すぐ消えろ」
「へんた……」

 アライトは目を見開き、両手をあげた。

「酷い言い草だ」
「酷くない。帰れ。せっかくミケとデートしてるのに邪魔するな変態」

 アライトは、毛を逆立てた猫のように威嚇するエルヴィラをおもしろそうに見ると、改めてミーケルに視線を向けた。

「なあヒョロい兄さん。この子はこう言ってるんだけど、兄さんはどうなの?」
「ん? そういうことになってるね」

 明らかに煽るような調子でにやにやと笑みを浮かべるアライトの言葉をどこ吹く風と受け流し、ミーケルはにっこり笑って答える。
 エルヴィラはちらりと見て、ミーケルは外向けの笑顔になってるな、と考える。

「兄さん、ものは相談だけどさ、俺と交代してくれない?」
「交代?」

 ミーケルは、さも驚いたように目を丸くする。頷くアライトをふうふうと威嚇する猫のように睨みつけながら、エルヴィラはミーケルにしがみついた。

「俺、そいつが欲しいんだよね。俺のものにしたいんだ」
「それはどういう意味でなのか、訊いてもいいかな?」

 挑発するようなアライトの言葉に、ミーケルの目が眇められる。

「言葉どおりだよ。彼女エルヴィラがあんたのものだって言うなら、力ずくで奪うのもやぶさかじゃないくらいだ」
「へえ?」

 思わず不安になったエルヴィラが見上げると、珍しくミーケルの目が座っているようにも見えた。

「力ずく、ねえ。ずいぶん自信があるんだ?」
「まあね。でなきゃこんなこと言わないに決まってるだろう?」
「君、相当な自信家だね」
「当たり前だ」

 ふたりの言葉にエルヴィラの眉根が寄り、くっきりと皺が刻まれた。

 話の雲行きが変ではないだろうか。
 ひとのことを、ひとを置いてきぼりにして、ふたりとも何を言いだしてるんだ?

 エルヴィラはずいと前に出る。

「まて、ふたりとも。ひとつ確認したい」

 顰め面のまま、エルヴィラが口を出す。

「変態、お前が私を欲しいというのは、つまり景品トロフィーか何かのような意味なのか? それとも、私という人間の心を自分に向けたいという意味か」

 アライトは眉を上げて、エルヴィラを見返した。

「ずいぶんと率直な物言いだな。さすがというか」

 アライトはふっと笑うように、口角を上げる。

「その両方だって言ったらどうする?」
「決まっている。どちらもお断りだ。ありえん。
 私は何かの景品などではないし、力ずくでどうにかされるような心の持ち主でもないからな」

 背を反らし、威張るように言い切るエルヴィラに、アライトは目を細める。
 ミーケルは、そんなアライトの表情が引っ掛かって、小さく首を傾げる。

「ほう?」
「何だ?」

 急に調子の変わったアライトの声に、エルヴィラは思わず一歩下がる。

「ほんとうに、お前自身はお前の言うような者なのかな? お前には、何があっても絶対に揺るがない自信があるって?」

 くくっと笑って、エルヴィラとの間を詰めるようにアライトが一歩前に歩み出る。
 そして、少し不安げに、怪訝そうに見上げるエルヴィラに手を伸ばし……。

「エルヴィラ・カーリス、そこまで言うなら、確かめてみようか」
「――なっ!?」
「エルヴィラ!」

 アライトの姿が歪んだと思ったら、エルヴィラは何か大きなものに掬い上げられるように掴まれ……空中にいた。

ドラゴン、だとっ!?」

 前足にしっかりと掴まれて、エルヴィラは身動きも取れない。

「ふっ、ざけるなっ! このクソ竜! 離せ! 離せったら離せ!」

 ポカポカと竜の腕を殴りつけ怒鳴り散らすエルヴィラをしっかりと掴んだまま、青銅色の竜ブロンズ・ドラゴン……アライトは、ばさりと翼をはばたかせる。
 ばさり、ばさりと宙へと舞い上がる。

「おい、待て!」
「吟遊詩人ミーケル、俺の巣で待ってるぞ!」

 わはは、と笑い声をあげながら、エルヴィラを掴んだ竜は、瞬く間に飛び去ってしまった。

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