クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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水路の町

囚われの女騎士

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 竜に連れて行かれた場所は、町から少し離れた海岸の岩場だった。
 その岩陰にひっそり隠すように、アライトの巣への入り口が開いていた。

「俺の巣穴へようこそ、エルヴィラ」

 そう言って、にいっと目を細める青銅色の竜にものすごく腹が立って、エルヴィラは固い鱗に覆われた前脚に拳を叩きつける。
 さらに腹が立つのは、痛いのは自分の拳だけで竜がますます笑うだけだということか。

「エルヴィラは可愛いなあ。そういう負けん気の強いところ、たまらないね」
「貴様のような変態竜に言われたところで嬉しくもなんともないわ!」

 そんな軽口を叩きつつ、アライトはエルヴィラを抱えたまま長いトンネルをくぐる。奥深く開けた大広間ホールへ到着すると、真ん中に積み上げた“竜の宝物”の山の上に、アライトは落ち着いた。
 それから、ぎりぎり歯ぎしりをしてアライトを罵倒し続けるエルヴィラを、笑いながらその山の上に置いた鳥籠のような檻の中に入れてしまう。

「なんだここは! 私をここに監禁するのか、クソ竜!」
「しばらくの間だけだよ。大丈夫、大切にするから」

 口の端を持ち上げ笑みのような形にしたアライトは、エルヴィラを覗き込んだ。

「何が大切にするだ! すでに大切に扱ってないくせに! 死ね!」
「エルヴィラは口が悪いな。まあ、クラーケンと一騎打ちしたあげく勝つんだから、そのくらいでないとな」

 エルヴィラの入った鳥籠をぐるりと囲うように丸くなって、竜は楽しそうに目を細める。

「ならば貴様もクラーケンのように殺してやろうか! このエルヴィラ・カーリスをそこらの犬猫のように扱った報いを必ず味わわせてやるぞ。後悔させてやる。後悔したままアケロン河三途の川を渡るがいい!」

 まるで呪いの言葉を吐くように低く唸るエルヴィラを、アライトはやっぱりおもしろそうに目を細めて眺めていた。



 巣で待ってる――と言われたって、その巣ってどこだよと、ミーケルは空を見上げた。いったいなんだってこんなことになってるのか。

 慌ててあちこち聞きまわってみれば、あの竜はこの町でなかなかの有名じんだった。有名なだけに、だいたいの巣穴の場所まで知れてる始末だ。竜のくせに油断しすぎなんじゃないか。
 しかも、魚人サハギンが来るたびに現れては、町の防衛戦を助けてくれる“善き竜”というが……善き竜が人を攫っていくってどういうことだと、ミーケルはキリキリ歯を食い縛る。

 自分が前回この町に来たのはだいたい二年くらい前で、あの竜が魚人の襲撃のたびに現れるようになったのが、ここ一年くらい……もうちょっと新しい情報を集めておくべきだった。

 あの身体の大きさと鱗の色合いからして、まだ若い竜だろう。
 たぶん、卵から孵って百年かそこらだ。そのくらいの年齢の成竜になったばかりのころは、自分の全能感に酔いしれて無茶をしがちだという話も聞いている。
 アライトと名乗るあの竜も、きっとこのあたりで自分に敵うものなどいないと驕っているのだろう。
 ミーケルの知る竜とは大違いだ。彼は「竜一頭にできることなど、たかが知れている」と語っていたのに。

 宿の部屋に置いたままのエルヴィラの鎧を無限袋にぽいぽいと入れながら、どうやってあの竜を言いくるめようかと考えた。

 青銅竜ブロンズドラゴンはどちらかと言えば名誉や義理を重んじる竜だ。
 むやみにエルヴィラに危害を加えるようなことはしないだろう……エルヴィラがおとなしくしていれば。無駄に煽って怒らせたら、その限りではないのが心配なところである。
 それに、好奇心も強く、戦いを好む性向も強い。アライトのように人間に紛れて傭兵稼業をやったりするものも多い。
 竜なだけに、プライドは高すぎるくらいに高いはずだ。こっちをたかが人間にしか過ぎないと侮ってもいるだろう。

 なら、“古の約定”に従い、決闘を持ちかけてみるか。

 はぁと溜息を吐いて、けれど決闘と言ったってどうすれば、と、また考える。

 ミーケルもそこそこ戦えはするが、所詮そこそこどまりだ。
 とてもじゃないが、エルヴィラのようにクラーケンと一騎打ちなんて無茶はできない。あの竜を相手に決闘なんて、それこそ戦士や騎士の仕事だろう。

「ああもう、まさか竜に目をつけられるなんて」

 思い返せば、海から戻ったエルヴィラが興奮して言ってたではないか。
 “竜に褒められた”と。
 そこで既に目をつけられていたということか。
 相手が青銅竜だなんて、よほどの戦いぶりだったんだろう。さすが脳筋と言うべきか。でなきゃ、クラーケンを一騎打ちで仕留めるなんて真似、できるわけがない。

 とにかく、自分の知る青銅竜の性質と、少し話して伺えたアライトの性格をかんがみて、どうにかしてエルヴィラを解放するよう、言いくるめる方法を考えなければ。
 大急ぎで荷物を整えて、ミーケルはアライトの巣穴へと向かう。

 太陽が地平に沈もうとする頃、ようやく巣穴の入り口を見つけて、ミーケルはひと息吐いた。じっと耳を澄ませると、吹き抜ける潮風に混じって微かに誰かの話す声が聞こえる。アライトとエルヴィラだろうか。
 なら、エルヴィラはまだ無事だということだろう。
 安堵にもう一度息を吐いて、ミーケルは穴の中へと足を踏み入れた。

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