クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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三首竜の町

今回のお仕事は

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 ミーケルが演奏を依頼された園遊会ガーデンパーティーは、この国の公爵家の主催である。

 公爵家といっても“大災害”以前の大昔に臣籍に下った王族の血筋で、今では王家の血もすっかり薄まってしまっているらしい。
 ただ、今の王家の姫君と公爵家嫡男の婚約が噂されており、有力な貴族であることには間違いない。
 園遊会にも王弟と王太子が招待されているとのことで、警備も相当に厳重だ。

 おそらくは、ミーケルや自分のことも調べられた上で、依頼したのだろうとエルヴィラは考えていた。
 重要人物の揃った園遊会なのだ。
 さすがに正体不明で得体の知れない吟遊詩人を呼ぶわけにはいかないだろう。実績その他をきっちり調べられた上での依頼と考える方が納得できる。
 そうは言っても、アライトを連れていることまでは知られていないだろうが。

 前日のうちに公爵家の屋敷へと赴き、翌日の演目やら警備やら何やらとうるさいくらいの注文を聞き、打ち合わせを済ませた。
 そのままその日は公爵家に留まり、翌日は最終確認だ。

 エルヴィラも、さすがに場所が場所で招待客が招待客の場であるからと、少し念入りに身支度を整えなければならなかった。高貴なひとびとを迎える以上、ただの護衛であっても服装や身形には注意せねばならないのだ。
 こうして着飾ると、都でほんの数ヶ月だけ仕えていた侯爵家の姫様のことも思い出す。今となっては、ものすごく遠い過去のことのようだ。

「あんた、意外にこういうの慣れてるんだな」
「あたりまえだ。私の実家は戦神教会の司祭と騎士を出してる家系で、貴族の護衛だってやるんだ。行儀作法はひと通りやってるぞ」
「その割に乱暴だけどな」

 ぺちっと服の上から叩くと、「いてっ」と小さな悲鳴が上がる。

 アライトはエルヴィラの上着の内ポケットに目立たず潜めるよう、今日は小さな蛇の姿だ。アライト曰く、蛇なら服の隙間を通って腕に巻きついたりもできるし、潜むには都合がいいのだそうだ。

「蛇はいいけど、ご令嬢やご婦人には絶対見つかるなよ。大騒ぎになるから」
「わかってるよ」

 もぞもぞとポケットの中で姿勢を取り直しながら、アライトは返事をした。


 * * *


 和やかに、穏やかに、園遊会は始まった。

 園遊会では、打ち合わせ通りの演目のほかに、貴族を相手にさまざまな話題や情報を提供することも吟遊詩人ミーケルの重要な仕事となる。

 もちろん、貴族たちだってきちんとした筋からの情報収集もやっている。
 だが、吟遊詩人は独自の伝手を持っているし、さまざまな地域を旅する間に、いろいろなことを見聞きいている。
 彼らのもたらす極つまらないはずの噂話が、何か大きな事件の前触れであることもあるのだから、馬鹿にはできない。

 会場の隅に控えたミーケルの周りには、演奏の合間にも、そういった噂話を聞こうとご婦人たちが多く集まっていた。
 もちろん、ミーケルの容姿目当てのご婦人やご令嬢も多い。
 あくまでもにこやかに――ミーケルとご令嬢方が談笑するさまはとてもおもしろくないが、これも仕事なのだとエルヴィラはぐっと我慢をする。
 終わったらまたいちゃいちゃしてもらおう、なんて考えながら。



 そろそろ秋が深まる時期で、日が傾くのも早い。海から少し冷たい風が吹き始め、そろそろ宴もお開きだろうと、招待客が少しずつ帰り始める。

 ――と、エルヴィラのポケットの中で寝ていたらしいアライトが、急にもぞもぞと動いて、「ん?」と声を上げた。
 顔を前に向けたまま、エルヴィラは小さく「どうした?」と声をかける。

「なんか、今――」
「きゃあ!」

 アライトが言葉を続けようとしたところに甲高い悲鳴が上がった。
 反射的にそちらを見ると、まるで庭園の奥から湧き上がったかのようにマントを頭からすっぽりと目深に被った人影が、わらわらと現れるところだった。

「アライト、行け!」
「うぇ!? ちょっとおおおお!?」

 エルヴィラは咄嗟にポケットに手を突っ込んで、渾身の力でアライトを投げつけた。いちばん間近にいたマント姿に、びたんと音を立てて命中する。

「投げるとかひっでえよ! 竜使い荒過ぎ!」

 文句を言いながらも、人型に姿を変えたアライトが立ち上がる。

「ミケ!」
「僕は大丈夫だよ。後ろは任せて」

 リュートを抱えて立ち上がるミーケルに頷いて、エルヴィラもご令嬢方を庇うように走り、剣を構えた。

 エルヴィラとアライトは客人たちを守ること優先に動く。賊の捕縛は後回しだ。上級貴族の夫人や子女が多くいるこの場で、怪我人を出してしまっては非常にまずい。

 おまけに、王弟や王太子のような王族もいる場である。
 賊の侵入を許しただけで既にまずいのに、これ以上のことがあったりしたら、雇い主の公爵閣下は蟄居程度で済まなくなってしまうだろう。
 とばっちりがミーケルにまで来ることになったら――。

 警備兵の数はそれなりにいるが、賊の数も多かった。

「アライト、お前竜なんだからなんかすごいブレスとかないのか」
「竜に戻らなきゃ無理だっての! このうえ竜まで現れたら収拾つかなくなるけどいいのかよ?」
「よくない!」
「じゃがんばれよ。竜を鯖折りしようって騎士なんだろ」

 むうっと顔を顰めて、エルヴィラは蓄積していた諸々の不満を賊に叩きつけ始める。
 容赦なく斬り飛ばし殴り飛ばし蹴り飛ばしながら、ままならないのは全部貴様らのせいだなどという低い声が聞こえて、アライトは思わず「御愁傷様」と呟いた。



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