クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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三首竜の町

伝説と今と

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 “三首竜の町”の町の名前は、この町の城門に掲げられた紋章と王家の逸話に由来する。

 その昔……“大災害ディザスター”よりも遥かに昔、この付近に悪しき竜族の奉じる“邪竜神”の眷属、三首の竜が現れた。
 三首の竜は何頭もの悪しき竜族を従え、瞬く間にこの大陸の南半分を手中に納めてしまう。そのようすは、まるで南の善きものたちをすべて駆逐してしまうのではないかと思えるほどの勢いだった。

 そこに現れたのが、善き竜の守護者たる“皇竜神”の遣い、白金の竜だ。
 彼は聖なる戦乙女シルウィナとともにこの地に降り立つと、悲しみ嘆くだけだった人びとを叱咤し、バラバラだった善き種族や善き竜たちを纏め上げ、三首の竜に戦いを挑み……ついには三首の竜率いる悪しき竜族の軍勢を滅ぼし、勝利したのである。

「その聖なる戦乙女シルウィナと白金竜プラチナドラゴンの末裔が、この国を治めるゴーティア王家なんだ」
「へえ」

 広場の中央に置かれた“白金の竜と聖なる戦乙女の像”を見上げながらミーケルが話す伝説に、エルヴィラはひたすら感心するのみだった。
 ふふんと笑って、今日は小イタチの姿を取ったアライトが「その時袂を分かった悪しき竜族と善き竜族が、今言うところの悪竜善竜なんだぜ」と偉そうに続ける。

「ちなみに、俺ら青銅竜は、その時最初に白金の竜に付いた一族なんだ」
「意外だ。貴様を見てるととてもそうは思えない」
「ひでえ。こんなに善良な竜捕まえておいて」

 ミーケルの肩の上からアライトが顔を顰める。
 たぶん顰め面なのだろうが、小イタチの顰め面など威嚇してるのかなんなのかよくわからないとエルヴィラは考えた。

「まあともかく、そこからずっと、“大災害”まではこの国も安定してた。
 だけど、“大災害”では、王都とされてたこの町の王城のあたりの破壊がいちばん酷くてね。城の崩壊に巻き込まれた王家の直系の血筋は、すべて失われたと思われたんだ」

 言われて、海に張り出した高台を見る。
 昔はこの町いちばんの景観を誇っていた、美しかったはずの王城の大半は、高台の半分とともに無残に削り取られたようになくなっていた。

「それからが大変さ。国の貴族たちが覇権争いで荒れる荒れる。復興そっちのけでそんなことしてたから、もうこの国は終わるんじゃないかって諦められていた。
 けどね」

 ミーケルがふっと笑う。

「庶民に紛れていた王の庶子が、自分こそが正統な王の末裔だと名乗りを上げた。
 けれど、貴族たちは慌てながらももちろん証拠を見せろと迫る。髪や目の色なんて、いくらでも誤魔化せるしね。
 でも、城跡から見つけ出された“聖なる戦乙女の宝剣”が、彼の血筋が間違いなく王のものだと証明して、ようやく騒ぎが収まったんだ。
 それが、今の4代前の国王さ。
 だから、この国が建て直されてからまだそんなに経ってないんだ」
「宝剣なんてあるのか!」
「君が食いつくのはそこなんだ?」
「え、だって、復興がどうとかよくわからないし……大変そうだなとは思うけど」
「君らしいね」

 英雄譚の部分は頭に入るのに、貴族同士の争いやら町の復興やらは“大変そう”のひと言で終わるんだ、とからかわれて、エルヴィラは膨れる。

 ……それにしても、やっぱり竜の乗り手はかっこいいなと、エルヴィラはもう一度像を見上げた。
 自分だってすぐそばに手頃な竜がいるのだ。乗り手になるのはどうしても諦めきれない。どうやったらこの繊細ぶって面倒なことばかり言ってごねる竜を自分の騎竜にできるだろうかと考える。

「なんか悪寒みたいなのが来た」
「気のせいだろ。竜というのは、そんなに壊れやすい生き物じゃないはずだ」
「あんたが竜以上に乱暴すぎるんだろ」

 ミーケルの陰に隠れてエルヴィラを警戒するアライトに、少しイラッとする。

 自分だってミーケルにくっつきたいんだから、これ見よがしにべたべたするな。アライトが雄竜であるとかは関係ない。くっついていることが問題なのだ。

「今度は殺気が来るんだけど」
「役に立たない小動物の処遇について、少し考えただけだ」
「竜は小動物じゃねえよ!」
「なら“役に立たない”の部分は認めているんだな」

 広場の像の足元に場所を決めたミーケルが、呆れたように溜息を吐く。

「僕の耳元で喧嘩するの、やめてくれないかな」
「ほら、ミケもそう言ってる」
「言ってねえし!」
「どうでもいいけど、仕事の邪魔はしないでくれるかな」

 ぽろんぽろんとリュートの音合わせをしながらもう一度繰り返されて、ようやくふたりは黙った。エルヴィラはいつものようにミーケルの少し後ろに立ち、アライトは肩を降りて足元にうずくまる。

「明日は園遊会ガーデンパーティーにも呼ばれてるんだから、そこで今日みたいなのはやめてくれよ」
「わかってる」
「おう」

 ほんとうに大丈夫なのかな、と呟いて、ミーケルは歌を奏で始めた。

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