クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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三首竜の町

おもしろいと思ってるよ

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「やっぱりムカつく。騎竜にもならないし、ただ私がミケにくっつくのを邪魔してるだけじゃないか。役に立たない竜なんかいらん。帰れ。どこかに消えてしまえ」
「やだ」
「なんでだ」

 栗鼠は、また気まずげに目を逸らす。

「私とミケを邪魔するんだ、相応の理由がなければ許さん」

 僕は別に邪魔でもないけど、というミケの声をきれいに黙殺して、エルヴィラはじっと栗鼠を睨む。

「――怖いんだ」
「は?」
「あんたみたいな奴に、またひとりで遭っちゃったらと思うと怖いんだよ。だから、あんたにくっついて歩けばヤバイのに会っても安心かなって」

 なんだその理由はと、エルヴィラは呆れるあまりぽかんと栗鼠を凝視した。ミーケルはさらに吹き出しそうになるのを懸命に堪えている。

「別にあんたがそいつとつがうとかどうとかはどうでもいいし、邪魔するつもりもないからさ、少し付いて歩くくらい勘弁してくれよ」

 栗鼠を凝視したまま、ぱくりぱくりとエルヴィラは残っていた軽食を口に放り入れた。

「おかわりを買ってくる」

 そう言い残してカウンターに向かう。

 意味がわからない。
 まるで自分が竜の用心棒にでもされたみたいじゃないか。
 それ、逆じゃないのか。

 呆然としたままカウンターへ行き、あれこれと指差して皿いっぱいに並べた軽食と新しいワインを買って戻る。
 ミーケルと栗鼠のふたりは和やかに話をしているようだった。
 なんだか悔しい。

「なんで、ミケとクソ竜が仲良くなってるんだ」

 機嫌をすっかり斜めに傾けて、エルヴィラは口を尖らせる。

「ミケは竜のほうがいいんだ……どうせ私のほうが……私なんて無理やりやっとミケについて来れたのに、竜は……」

 ぶつぶつと文句を述べつつまた涙ぐむエルヴィラにミーケルは目を丸くして、それから「君はほんとうに馬鹿だなあ」と笑う。

「だって」

 またぱくぱくと食べだすエルヴィラの頭をぽんぽん叩いて、ミーケルは肩を竦め、「おいで」と引き寄せた。
 エルヴィラは引かれるままミーケルに寄りかかるように立つ。
 そのようすをじっと眺めて、栗鼠はひとつ頷いた。

「なあ兄さん。あんた、そいつのこと結構気に入ってるよな」
「えっ?」

 エルヴィラは、とたんにぱあっと顔を輝かせてミーケルを見上げた。栗鼠はそんなエルヴィラの皿からそっと肉を取り、「俺が見てたかぎりだけどな」と、もっともらしく頷きながら齧る。
 ミーケルは少しだけ栗鼠をじっと見てから、エルヴィラに視線を移した。

「まあ、おもしろいしね」
「な……ん、だと。ミケは私と一緒はおもしろいから私を好きだって言うのか」
「いやそこまでは言って……」

 ない、というミーケルの言葉も聞かず、エルヴィラは栗鼠に「お前、結構いい奴じゃないか。飲め」と酒を差し出す。満面の笑顔で。
 わかりやすいくらいに現金だ。
 頬を紅潮させてにへにへと笑いながら軽食を摘まみつつ、手のひらを返したように栗鼠にもどんどん食べていいぞと皿を差し出す。
 ちゃっかりとそれに乗った栗鼠も、もりもりと食べ始める。

 ミーケルがちらと見ると、満足した竜が笑うように栗鼠は目を細めて見返した。



 店を出ると、エルヴィラは真剣な顔で栗鼠に約束事を繰り返していた。

「いいか、宿の部屋に入るのは厳禁だ。部屋の中までついてきて私の邪魔をしたら、その場で即叩っ斬るからな」
「はいはい。俺もそこまで無神経じゃないし」

 なぜかミーケルをそっちのけに、いつの間にかエルヴィラとアライトの間には協定が結ばれていた。小動物の姿なら付いてきても構わないし、宿の部屋にまで入ってこないなら近くにいても構わない……という程度のものだが。

 ミーケルは少し呆れ気味に聞き流しつつ、いったいいつまでついて来る気なのだろうかと考える。

 じゃあなと手を振って、宿の前で栗鼠と別れる。どうするのかと念のため確認すると、鳥にでもなって、そこらの屋根の上で寝るつもりだという。
 見た目は小動物でも竜なのだし、心配はない……ということだろうか。

「ミケ!」

 部屋に入るなり、エルヴィラがぎゅうと引っ付いてきた。

「なんなの、いきなり」
「好きって言った」
「言ってないよ。おもしろいって言っただけだ」
「でっ、でも、前はそんなこと言わなかったし」

 ぎゅうぎゅうと締め付ける腕に力がこもる。その締め付けに息苦しくなって、ミーケルは少しだけアライトの気持ちが理解できた。

「ちょ、君、竜を鯖折りするほど馬鹿力なんだから加減してよ」

 その声で少しだけエルヴィラの腕が緩む。

「……いちゃいちゃしたい」

 引っ付いて顔を胸に埋め、匂いでも嗅いでいるかのようにすーはーすーはーと息をしながら、ぼそりとエルヴィラが呟く。
 そのようすがまるで動物のようで、ではこれはどちらかというと“懐いてる”ほうに入るんだろうか、などとミーケルは考える。

「君、どんだけ僕のことが好きなの。おかしくない?」
「おかしくない」

 ぐりぐり頭を擦り付けながら答えるエルヴィラは、やっぱり動物のようだ。

「……上、向いて」

 顔を上げたエルヴィラにキスをして、「しかたないから、いちゃいちゃしてあげるよ」と囁く。
 とたんににひゃっと笑うエルヴィラに、ミーケルもつられて笑ってしまった。
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