クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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三首竜の町

廃城の地下へ

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 城跡の地下に向かってぽっかりと開いた穴には、予想どおり邪信徒の残党が潜んでいた。すぐに騎士たちが前へと進み、掃討を開始する。

 その間を縫うようにして、アルフォンソ王太子を中心に据えて穴の中を下った。全員が“暗視”の魔法薬を飲んで、先んじた斥候の報告を確認しながら慎重に、だ。
 進めば進むほど増えると思っていた邪信徒の数は予想に反してどんどん減っていく。
 その代わり――

「瘴気、というものではないかと」

 各人に“不浄からの護り”の神術を掛けながら、ルイス高神官が述べる。

 この空間に漂うどことない息苦しさと気持ち悪さのせいで、全員の顔色は冴えないものとなっていた。
 特に、魔法の気配に敏感な魔術師フィデルの顔色はあまりいいとは言えない。

「やはり、地下には何かしら邪竜神の眷属に関わるものが封じられていたと見るほうがよさそうですね」

 穴はまだまだ続いているのに全員の足は重かった。
 エルヴィラは、ミーケルは大丈夫かとちらりと振り返った。少し後ろに、小さく手を振る姿が見えてホッとする。

 どうしてこんなに不安なんだろう。ここの雰囲気のせいだろうか。
 エルヴィラは、重たい足を無理やり前へと押し出した。



 全部いなくなったと思っていたのに、それでもやっぱり残っていた邪信徒を、打ち倒しながら穴を下る。
 足はどんどん重くなり、ほんとうはそれほど長くは経ってないはずなのに、とてつもなく長い時間歩き続けたようにも思える。

 それでも下り続けたおかげで、ようやく穴の底にたどり着いた。

 いったいどうやって、邪信徒たちはこんな短時間にここまでの穴を開けられたのか。
 その疑問は残っているけれど、ともかく底まではたどり着けた。

「何か、部屋になってるのか?」

 穴の奥、廃城の地下には古い古い空間があった。
 扉はあるけれど、完全に閉ざされてはいない。おそらくは、城が崩れた時に壁が歪んで、隙間ができたのだろう。
 途中からはっきりとわかるようになった瘴気は、その隙間から滲み出ていた。それに、根源に近づいたお陰か、瘴気もずっと強くなって全員を苛んでいた。
 ルイス高神官の神術がなければ、とても耐えられなかっただろう。

 エルヴィラは、その瘴気を振り切るかのように頭を振り、小さく咳払いをする。

「あるとしたらこの中のようだ――殿下、いかがしますか」

 ファビオ騎士団長が後ろを振り返り、アルフォンソ王太子に確認を取る。

 ――と、突然何かがずるりと伸ばされたことに、エルヴィラが気付いた。黒い蔓のようなものが己の背後に向かって、だ。
 エルヴィラはとっさに立ち塞がり、蔓へと掴みかかる。

「──エルヴィラ!?」

 ミーケルが声を上げる。
 しかし、反応を返すよりも早く蔓に絡め取られたエルヴィラは、扉の奥へと引きずり込まれてしまった。


 * * *


 引きずり込まれた空間は、“暗視”の魔法薬を使っていてすら見通せない、墨を流したような暗闇に閉ざされていた。
 空気はひどく澱んで、背中にのし掛かるようだ。立ち上がることすら困難に感じるほどに重い。
 いくら視線を動かしても何も見えず、何も聞こえない。

「ここは……なんだ?」

 ぽつりと呟いて、それから何かが自分を見ていることに気付いた。
 得体の知れない何かが自分を観察している。
 その気配にぞくりと肌が粟立ち、冷や汗が落ちる。

 ──不意に何かが、すっ、と目の前に現れた。

 いつの間にか鼻の触れそうな距離にまで顔を近づけて、じっとエルヴィラの目を覗き込んでいた。

「――」

 何かを呟いたようだが、言葉がわからない。
 けれど、きっとあまりよくないことだ。

 その顔が……彼女が目を細め、くっ、と笑う。まるで、獲物を見つけた猛獣のような笑みだった。

「な、なんなんだ、お前は」

 拘束を振り解こうとしても、身体が動かない。ごくりと唾を飲み込んで、けれど、臆するものかとエルヴィラはその顔を睨み返す。
 どこかで見た顔だ。
 どこで見た顔だったか……。


 * * *


 エルヴィラが引き摺り込まれたのは、扉の奥の闇だった。
 すぐにでも助けに行かなければとは思っても、そこに何が潜んでいるかわからない以上、無茶はできない。
 ルイス高神官がとにかく、浄化の祈りをと聖句を唱えようとしたとたん、がしゃりと金属の鳴る音がした。

「なんだ、あれ」

 竜の感覚を持ってしても、あそこになにが潜んでいるのかがわからないと言ったアライトが、声を上げた。
 闇の中から、がしゃりがしゃりと音が響き、漆黒の髪を揺らしながら片手に剣を持った人影が現れる。

「――エルヴィラ?」

 色が違う。けれど、身に付けた鎧は確かに、エルヴィラの、紋章の入ったもので――ミーケルは目を眇め、凍りついたように立ち竦んだ。
 俯向くように視線を下げていた人影は、顔を上げてにいっと笑みを浮かべ、いきなり地を蹴って飛ぶように走る。

「ぼさっとすんなよ!」

 ミーケルのポケットから飛び出したアライトが人型を取り、アルフォンソ王太子とミーケルを突き飛ばした。
 王太子の横にいた騎士がひとり避けきれず、まともに剣を食らって膝をつく。
 駆け抜けた人影が、ゆらりと揺れて振り向いた。

「……」

 くつくつと笑いながら何かを呟き、にい、と微笑む。

「エルヴィラ?」

 顔かたちも身につけたものも確かにエルヴィラなのに、その表情も色もまったく彼女とは似つかない。
 そのことが、思った以上の衝撃になっているのか――ミーケルは、今、すべきことが何ひとつ、歌うべき歌が何ひとつ浮かばないまま、ただ呆然としていた。
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