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一攫千金の町
見縊らないでくれるかな
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そこからのアールの説明は、エルヴィラの頭にさっぱり入ってこなかった。
隣にピタリとくっつくように座ったミーケルのことばかりが気になって、話にまったく集中できなかったのだ。
どうしよう。
どうしてミーケルがここにいるんだろう。
そればかりが頭の中をぐるぐる回る。
ミーケルは絶対怒ってる。なにしろ、止められたのに思いきり殴り倒した挙句、振り切って行方をくらませたんだから。
だらだら冷や汗を流しながら悶々と考えているうちに、いつの間にか仕事の説明も終わっていた。
アールの「出発は明後日の朝の鐘に合わせてだ」という言葉に我に返って、エルヴィラは焦る。とりあえず必死にこくこくと頷き返して、細かいことは後々アライトに確認すればいいことにした。
そのアライトは、エルヴィラのフードの奥に気配を殺して引っ込んだままだ。だが、話くらいは聞いていたはずだ。
「それじゃ、また後で」
地図をしまうアールと彼のチームに軽く会釈をして、エルヴィラは立ち上がる。
ミーケルに捕まる前に、さっさと部屋を出てしまうのだ。
「あ、ヴィン」
だが、そのミーケルにがしっと肩を掴まれてしまった。
ごくりと喉を鳴らし、意を決して振り返ると、ミーケルがにっこりと笑って首を傾げていた。
「せっかく久しぶりなんだから、少し話でもどう?」
「あ、う……」
「うん、じゃ、行こうか。アールに皆、また後でね」
「あ、ああ。また」
にこやかに機嫌良く手を振り、エルヴィラをしっかりとつかんで歩き出すミーケルに、アールは微妙な笑顔を返した。
部屋を出るとすぐ、アライトもするりとフードを抜け出して、「話はふたりでゆっくりするといいよ!」と逃げてしまった。
孤立無援だ。孤立無援ってこのことか。
エルヴィラはまた汗を一筋垂らす。
「あ、あの、ミケ……」
「ああ、ゆっくり話ができるように部屋を取ってあるんだ。行こうか」
全部を言わせず、笑顔で腕をがっちりと掴んだまま、ミーケルは歩く。
「あの……その、なんで……」
「なんでって?」
「な、名前も、変えてた、のに」
は、と息を吐いて、ミーケルはエルヴィラを振り返った。そのままドンと壁に押しやって、囲うように腕をつく。
「あのね、僕は詩人だよ。詩人の情報収集能力を見縊らないで欲しいな」
「う――」
フードの奥、そのさらに奥の兜に隠れたエルヴィラの顔を探るように覗き込んで、ミーケルの唇が弧を描く。
「こんな邪魔な兜までしっかり被っちゃって。何を怖がってるのさ」
面甲を持ち上げて、エルヴィラの鼻を摘んだ。
「君は目立たないようにって考えてたのかもしれないけど、逆に悪目立ちしてたんだよ。特徴がひとり歩きしてたおかげで、すごくわかりやすかったね」
「そんな」
「さ、こんなとこで立ち話しててもしかたないだろう。おいで」
また、ぐいと腕を掴まれる。
エルヴィラはミーケルに引っぱられるがままに部屋へ連れ込まれた。
「さて、じゃあ」
ミーケルは笑みを消し、目を眇めてじっとエルヴィラを見つめる。
「まずは、鎧を脱いで貰おうか」
「え」
「え、じゃないよ。顔の見えない相手と話したって、おもしろくないだろう?」
有無を言わさず、エルヴィラの羽織っていたマントを剥ぎ取ると、ミーケルは鎧の留め金を外し始めた。
兜に、肩当に、胸当に……どんどん外されて無防備になっていく自分がとても心許なくて、エルヴィラはそっとミーケルの顔を見上げる。
ミーケルはとても不機嫌に見えて、いったいこれからどうなるのか、考えるだに怖くてたまらない。
「――ああもう。なんだよこの髪!
どうしてこんなに短くなってるんだよ、しかもめちゃくちゃ適当に切っただろう。ざんばらじゃないか!」
「だ、だって、兜かぶりっぱなしだから、長いと邪魔だし」
「君、ほんとうに馬鹿なんだね」
びくびくと怯えるエルヴィラに、ミーケルは手を伸ばした。
思わずぎゅっと目を瞑るエルヴィラの髪をさらりと掻き混ぜるように頭を撫でて、そっと抱き寄せる。
「――きちんと手入れをして、きれいに伸ばしていたじゃないか」
「だ、だって、黒くなっちゃった――」
「色なんて些細なことだろ? 黒なら僕と同じだって喜んでればいいのに、どうしてこういう時ばっかりそんな余計なことを考えるんだ」
「う――」
「ほら、手甲と腕当も外して、手袋も取って。
どれだけ付けっぱなしにしてれば気が済むんだよ」
ガチャガチャと少々乱暴に、また次々と留め金を外される。騎士服の上着も取られて下に着ていた鎖帷子も脱がされてしまう。
人前でこんなに薄着になったのは、久しぶりかもしれない。
どうしたらいいのか、ただもじもじするだけのエルヴィラの手を取って、ミーケルはその指先の、鉤のように曲がって尖った爪を、つうっと撫でた。
もう一度髪を梳くように、頭から頬へゆっくりと手を滑らせて、「よく見せてごらん」と引き寄せる。
「でも」
「でもじゃないよ」
「で、でも……」
いろいろと変わってしまったから。
そう告げようとした口は、塞がれてしまった。舌を差し込まれ、ちゅくちゅくと掻き回されて、ん、と声が漏れてしまう。
身体を這うミーケルの手があちこち解いて、あっという間に服を剥ぎ取っていく。
エルヴィラの身体に鱗が浮いたり尻尾が生えたりしたことを、まだミーケルは知らないはずだ。知られたら、どんな顔をされるだろう。
隣にピタリとくっつくように座ったミーケルのことばかりが気になって、話にまったく集中できなかったのだ。
どうしよう。
どうしてミーケルがここにいるんだろう。
そればかりが頭の中をぐるぐる回る。
ミーケルは絶対怒ってる。なにしろ、止められたのに思いきり殴り倒した挙句、振り切って行方をくらませたんだから。
だらだら冷や汗を流しながら悶々と考えているうちに、いつの間にか仕事の説明も終わっていた。
アールの「出発は明後日の朝の鐘に合わせてだ」という言葉に我に返って、エルヴィラは焦る。とりあえず必死にこくこくと頷き返して、細かいことは後々アライトに確認すればいいことにした。
そのアライトは、エルヴィラのフードの奥に気配を殺して引っ込んだままだ。だが、話くらいは聞いていたはずだ。
「それじゃ、また後で」
地図をしまうアールと彼のチームに軽く会釈をして、エルヴィラは立ち上がる。
ミーケルに捕まる前に、さっさと部屋を出てしまうのだ。
「あ、ヴィン」
だが、そのミーケルにがしっと肩を掴まれてしまった。
ごくりと喉を鳴らし、意を決して振り返ると、ミーケルがにっこりと笑って首を傾げていた。
「せっかく久しぶりなんだから、少し話でもどう?」
「あ、う……」
「うん、じゃ、行こうか。アールに皆、また後でね」
「あ、ああ。また」
にこやかに機嫌良く手を振り、エルヴィラをしっかりとつかんで歩き出すミーケルに、アールは微妙な笑顔を返した。
部屋を出るとすぐ、アライトもするりとフードを抜け出して、「話はふたりでゆっくりするといいよ!」と逃げてしまった。
孤立無援だ。孤立無援ってこのことか。
エルヴィラはまた汗を一筋垂らす。
「あ、あの、ミケ……」
「ああ、ゆっくり話ができるように部屋を取ってあるんだ。行こうか」
全部を言わせず、笑顔で腕をがっちりと掴んだまま、ミーケルは歩く。
「あの……その、なんで……」
「なんでって?」
「な、名前も、変えてた、のに」
は、と息を吐いて、ミーケルはエルヴィラを振り返った。そのままドンと壁に押しやって、囲うように腕をつく。
「あのね、僕は詩人だよ。詩人の情報収集能力を見縊らないで欲しいな」
「う――」
フードの奥、そのさらに奥の兜に隠れたエルヴィラの顔を探るように覗き込んで、ミーケルの唇が弧を描く。
「こんな邪魔な兜までしっかり被っちゃって。何を怖がってるのさ」
面甲を持ち上げて、エルヴィラの鼻を摘んだ。
「君は目立たないようにって考えてたのかもしれないけど、逆に悪目立ちしてたんだよ。特徴がひとり歩きしてたおかげで、すごくわかりやすかったね」
「そんな」
「さ、こんなとこで立ち話しててもしかたないだろう。おいで」
また、ぐいと腕を掴まれる。
エルヴィラはミーケルに引っぱられるがままに部屋へ連れ込まれた。
「さて、じゃあ」
ミーケルは笑みを消し、目を眇めてじっとエルヴィラを見つめる。
「まずは、鎧を脱いで貰おうか」
「え」
「え、じゃないよ。顔の見えない相手と話したって、おもしろくないだろう?」
有無を言わさず、エルヴィラの羽織っていたマントを剥ぎ取ると、ミーケルは鎧の留め金を外し始めた。
兜に、肩当に、胸当に……どんどん外されて無防備になっていく自分がとても心許なくて、エルヴィラはそっとミーケルの顔を見上げる。
ミーケルはとても不機嫌に見えて、いったいこれからどうなるのか、考えるだに怖くてたまらない。
「――ああもう。なんだよこの髪!
どうしてこんなに短くなってるんだよ、しかもめちゃくちゃ適当に切っただろう。ざんばらじゃないか!」
「だ、だって、兜かぶりっぱなしだから、長いと邪魔だし」
「君、ほんとうに馬鹿なんだね」
びくびくと怯えるエルヴィラに、ミーケルは手を伸ばした。
思わずぎゅっと目を瞑るエルヴィラの髪をさらりと掻き混ぜるように頭を撫でて、そっと抱き寄せる。
「――きちんと手入れをして、きれいに伸ばしていたじゃないか」
「だ、だって、黒くなっちゃった――」
「色なんて些細なことだろ? 黒なら僕と同じだって喜んでればいいのに、どうしてこういう時ばっかりそんな余計なことを考えるんだ」
「う――」
「ほら、手甲と腕当も外して、手袋も取って。
どれだけ付けっぱなしにしてれば気が済むんだよ」
ガチャガチャと少々乱暴に、また次々と留め金を外される。騎士服の上着も取られて下に着ていた鎖帷子も脱がされてしまう。
人前でこんなに薄着になったのは、久しぶりかもしれない。
どうしたらいいのか、ただもじもじするだけのエルヴィラの手を取って、ミーケルはその指先の、鉤のように曲がって尖った爪を、つうっと撫でた。
もう一度髪を梳くように、頭から頬へゆっくりと手を滑らせて、「よく見せてごらん」と引き寄せる。
「でも」
「でもじゃないよ」
「で、でも……」
いろいろと変わってしまったから。
そう告げようとした口は、塞がれてしまった。舌を差し込まれ、ちゅくちゅくと掻き回されて、ん、と声が漏れてしまう。
身体を這うミーケルの手があちこち解いて、あっという間に服を剥ぎ取っていく。
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