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一攫千金の町
扉の奥には?
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「“遥か地平の彼方におわすお方の御名において、我らがこれなる遺跡に秘められしものを得るため、辿るべき道を示し給え”」
レフの祈りの言葉が終わると、地面にまっすぐ立てて指で軽く支えていただけの杖が、ふらふらと揺れ始めた。
右と左、少し迷うように揺れたあと、いきなりぱたりと右側へ向けて倒れる。
どう見てもただの棒倒しなのに、レフは「こっちだね」と自信満々に杖の倒れた右の通路を指差した。
エルヴィラがぽかんと呆気に取られているうちに、「じゃ、右へ行こう」とまた皆が進み始める。
「神術って、そんなことまでわかるのか」
「結構初歩の神術でね、“吉凶占い”って呼ばれてるんだよ。今みたいに簡単なことなら占える神術で、こういう探索ではよく使うんだ」
「なるほど」
レフがにこにこと説明してくれる。
「戦いの場で使われるような神術しか知らなかった。そういう神術もあるんだな」
「ヴィンは戦神の信者なの? それとも太陽神かな。鎧の紋章ってそれだよね」
「私の家は代々戦神を奉じている。この太陽は、お世話になった太陽神の神官殿を讃えてだ。私に道を示してくれた、とても素敵な方だったんだ」
「へえ。そういうの、いいね」
うんうんと頷きながらナイエの指示に注意しつつ、また進み始める。
やはり先行するグループがきれいに掃除をしていったのか、危険な魔物などに遭遇することなく進むことができた。
時折、罠を解除した跡があったりすることからも、それは明らかだった。
「風と旅の神がこっちがいいと言ったのって、安全だからかな」
「それもあるとは思うけど、この遺跡に隠されたものが何かを知るのに必要なものもこっちにあるはずなんだよね」
安全なのは良いが、相変わらずここがなんなのかわからないままなのだ。
期待する宝らしい宝もない。
全部先行するグループが持って行ってしまったのだろうか。
そんなことを考えてると、「待った」とアライトが声を上げた。
「この先、なんかあるぞ」
「何か?」
ナイエの肩から降りたアライトは、すぐに人型を取る。ガリガリと地面を引っ掻くように、見えた範囲の見取り図を描き、その中のひとつの扉を指して「この先から、血臭がした」と付け加える。
「――血臭」
アールの呟きに、アライトが頷く。
「何の血かまではわからんけど、誰か死んでるんじゃないかってくらいの血臭だよ」
ずっと閉ざされていた遺跡だから、こんな奥まで生き物が入り込んでいるとは考え難い。いるとしたら魔物だろうか。
「魔法生物とか、あとは、長虫みたいに地下を掘り進める魔物ならいてもおかしくないね。
先行グループじゃなくて、そういう魔物を倒した跡ならいいんだけど」
ミケの言葉に、コリーンも「そうね」と返す。
「まずは偵察してくるよ、俺とアライトで。だからバックアップを頼む」
「じゃあ、まずは、夜目の利くヴィンとレフがナイエのすぐ後ろに付いてくれ。私とミーケルとコリーンはもう少し後ろに下がっていよう」
アールの指示で体勢を整え、問題の扉を調べに行くナイエをじっと見守る。
何かに不意を打たれてもアライトが付いているのだし、と考えながらエルヴィラはじっと見守った。
しばらく扉をじっくりと観察したり触ってみたり、耳を押し当てて中を探ってみたり……ひと通り調べ終わったところで、ナイエが戻ってきた。
「俺が調べた限りじゃ、特に何も見つからない。ただ、扉を開けて入った跡はあるけれど、出て行った跡はない」
「血臭の他に、少し腐臭もあったぞ。あと、あの中は結構広いと思う。はっきりしないけど、奥に何か潜んでるんじゃねえかな」
ナイエとアライトの報告を受けて、アールがじっと考え込む。
「ナイエ、扉は普通に開けられる?」
「ああ。鍵や閂はない。外側に開く扉だよ」
「なら、私が扉を開けるから、レフとヴィンとナイエはバックアップを頼む。コリーンとミーケルは少し後ろに」
「わかった」
全員が武器と魔法を準備し終えたのを確認して、アールはゆっくりと扉を開いた。
エルヴィラは目を眇め、部屋の中を見透かすように隙間からじっと見つめる。あちこちへ視線を巡らせ、中にじっと潜むものは何か見極めようとして――
部屋の奥の暗がりで、何か大きなものがゆらりと動くことに気付いた。
「いる。でかい、奥――扉から離れて!」
腐臭が強くなり、奥に潜んだものの目がカッと赤く光る。大きく吸い込む音に続いて、真っ黒な煙のようなガスが襲いかかった。
「し、瘴気の、息……」
かろうじて直撃は免れたレフが呟き、即座にこの瘴気から身を守るための神術の詠唱を始めた。
開けられた扉の影からもう一度エルヴィラが中を覗き込む。
「でかい……竜? しかも、腐ってる」
その言葉に、ミーケルも走り寄って扉の奥を覗き込む。
灯りがどうにか届くあたりに、ところどころ骨が見えるほどに肉が腐り落ちた竜が、ゆっくりと立ち上がるところだった。大きさは、竜の時のアライトの倍くらいではないだろうか。
「屍竜王? それともただの屍竜?」
「屍竜王にしては、あんまり知性を感じないね。ただの屍竜じゃないかな。それにしても大きいけどね」
コリーンの言葉に、ミーケルが応える。
屍竜王と屍竜がどうちがうか、エルヴィラにはよくわからない。だが、あの“瘴気の息”とやらを受けても、自分はあまり堪えてないのだ。なら、ここはエルヴィラの出番であることに間違いない。
「――くく、戦神の猛き御名と天空輝ける太陽、詩人のリュートにかけて、このエルヴィラ・カーリスが“でかぶつ”の相手をしてくれようじゃないか」
*****
■屍竜
言葉のとおり、ドラゴンの死骸で作ったゾンビ。
もとがドラゴンなので硬いしタフだしでかいし臭いしで、倒すのが死ぬほど面倒くさい。
ついでにもとのドラゴンの種類に応じて変な耐性まで持ってたりする。
瘴気のガスをブハーッと吐いてくるので食らうと気持ち悪くなって動けなくなったりダメージどかんと食らったりいろいろ大変なことになる。
だがしかし、悪魔とかそっちに偏ってる人ならちょっと耐性がある。
■屍竜王
ただのゾンビに見えて、実は魔法的に不死生物にバージョンアップしたドラゴン先生。
ゾンビなんてお呼びじゃないほど強いし、そんなバージョンアップを果たすくらいなので魔法とかバンバン使う。
たいていの場合、悪な生き物を手下に集めてラスボス業を営んでたりする。
いずれにしろ、閉鎖空間でアンデッドと戦闘するのは罰ゲームだと思います。
換気重要。
レフの祈りの言葉が終わると、地面にまっすぐ立てて指で軽く支えていただけの杖が、ふらふらと揺れ始めた。
右と左、少し迷うように揺れたあと、いきなりぱたりと右側へ向けて倒れる。
どう見てもただの棒倒しなのに、レフは「こっちだね」と自信満々に杖の倒れた右の通路を指差した。
エルヴィラがぽかんと呆気に取られているうちに、「じゃ、右へ行こう」とまた皆が進み始める。
「神術って、そんなことまでわかるのか」
「結構初歩の神術でね、“吉凶占い”って呼ばれてるんだよ。今みたいに簡単なことなら占える神術で、こういう探索ではよく使うんだ」
「なるほど」
レフがにこにこと説明してくれる。
「戦いの場で使われるような神術しか知らなかった。そういう神術もあるんだな」
「ヴィンは戦神の信者なの? それとも太陽神かな。鎧の紋章ってそれだよね」
「私の家は代々戦神を奉じている。この太陽は、お世話になった太陽神の神官殿を讃えてだ。私に道を示してくれた、とても素敵な方だったんだ」
「へえ。そういうの、いいね」
うんうんと頷きながらナイエの指示に注意しつつ、また進み始める。
やはり先行するグループがきれいに掃除をしていったのか、危険な魔物などに遭遇することなく進むことができた。
時折、罠を解除した跡があったりすることからも、それは明らかだった。
「風と旅の神がこっちがいいと言ったのって、安全だからかな」
「それもあるとは思うけど、この遺跡に隠されたものが何かを知るのに必要なものもこっちにあるはずなんだよね」
安全なのは良いが、相変わらずここがなんなのかわからないままなのだ。
期待する宝らしい宝もない。
全部先行するグループが持って行ってしまったのだろうか。
そんなことを考えてると、「待った」とアライトが声を上げた。
「この先、なんかあるぞ」
「何か?」
ナイエの肩から降りたアライトは、すぐに人型を取る。ガリガリと地面を引っ掻くように、見えた範囲の見取り図を描き、その中のひとつの扉を指して「この先から、血臭がした」と付け加える。
「――血臭」
アールの呟きに、アライトが頷く。
「何の血かまではわからんけど、誰か死んでるんじゃないかってくらいの血臭だよ」
ずっと閉ざされていた遺跡だから、こんな奥まで生き物が入り込んでいるとは考え難い。いるとしたら魔物だろうか。
「魔法生物とか、あとは、長虫みたいに地下を掘り進める魔物ならいてもおかしくないね。
先行グループじゃなくて、そういう魔物を倒した跡ならいいんだけど」
ミケの言葉に、コリーンも「そうね」と返す。
「まずは偵察してくるよ、俺とアライトで。だからバックアップを頼む」
「じゃあ、まずは、夜目の利くヴィンとレフがナイエのすぐ後ろに付いてくれ。私とミーケルとコリーンはもう少し後ろに下がっていよう」
アールの指示で体勢を整え、問題の扉を調べに行くナイエをじっと見守る。
何かに不意を打たれてもアライトが付いているのだし、と考えながらエルヴィラはじっと見守った。
しばらく扉をじっくりと観察したり触ってみたり、耳を押し当てて中を探ってみたり……ひと通り調べ終わったところで、ナイエが戻ってきた。
「俺が調べた限りじゃ、特に何も見つからない。ただ、扉を開けて入った跡はあるけれど、出て行った跡はない」
「血臭の他に、少し腐臭もあったぞ。あと、あの中は結構広いと思う。はっきりしないけど、奥に何か潜んでるんじゃねえかな」
ナイエとアライトの報告を受けて、アールがじっと考え込む。
「ナイエ、扉は普通に開けられる?」
「ああ。鍵や閂はない。外側に開く扉だよ」
「なら、私が扉を開けるから、レフとヴィンとナイエはバックアップを頼む。コリーンとミーケルは少し後ろに」
「わかった」
全員が武器と魔法を準備し終えたのを確認して、アールはゆっくりと扉を開いた。
エルヴィラは目を眇め、部屋の中を見透かすように隙間からじっと見つめる。あちこちへ視線を巡らせ、中にじっと潜むものは何か見極めようとして――
部屋の奥の暗がりで、何か大きなものがゆらりと動くことに気付いた。
「いる。でかい、奥――扉から離れて!」
腐臭が強くなり、奥に潜んだものの目がカッと赤く光る。大きく吸い込む音に続いて、真っ黒な煙のようなガスが襲いかかった。
「し、瘴気の、息……」
かろうじて直撃は免れたレフが呟き、即座にこの瘴気から身を守るための神術の詠唱を始めた。
開けられた扉の影からもう一度エルヴィラが中を覗き込む。
「でかい……竜? しかも、腐ってる」
その言葉に、ミーケルも走り寄って扉の奥を覗き込む。
灯りがどうにか届くあたりに、ところどころ骨が見えるほどに肉が腐り落ちた竜が、ゆっくりと立ち上がるところだった。大きさは、竜の時のアライトの倍くらいではないだろうか。
「屍竜王? それともただの屍竜?」
「屍竜王にしては、あんまり知性を感じないね。ただの屍竜じゃないかな。それにしても大きいけどね」
コリーンの言葉に、ミーケルが応える。
屍竜王と屍竜がどうちがうか、エルヴィラにはよくわからない。だが、あの“瘴気の息”とやらを受けても、自分はあまり堪えてないのだ。なら、ここはエルヴィラの出番であることに間違いない。
「――くく、戦神の猛き御名と天空輝ける太陽、詩人のリュートにかけて、このエルヴィラ・カーリスが“でかぶつ”の相手をしてくれようじゃないか」
*****
■屍竜
言葉のとおり、ドラゴンの死骸で作ったゾンビ。
もとがドラゴンなので硬いしタフだしでかいし臭いしで、倒すのが死ぬほど面倒くさい。
ついでにもとのドラゴンの種類に応じて変な耐性まで持ってたりする。
瘴気のガスをブハーッと吐いてくるので食らうと気持ち悪くなって動けなくなったりダメージどかんと食らったりいろいろ大変なことになる。
だがしかし、悪魔とかそっちに偏ってる人ならちょっと耐性がある。
■屍竜王
ただのゾンビに見えて、実は魔法的に不死生物にバージョンアップしたドラゴン先生。
ゾンビなんてお呼びじゃないほど強いし、そんなバージョンアップを果たすくらいなので魔法とかバンバン使う。
たいていの場合、悪な生き物を手下に集めてラスボス業を営んでたりする。
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