クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

文字の大きさ
91 / 152
歌う竜の町

よくわかった

しおりを挟む

※作者注:再度になりますが、ミーケルは根本的にクズ男です
*****

「で、どうしたんだ? その子は昨日ミケに抱きついてた子じゃないか。どうしてアライトと一緒なんだ」

 移動した食堂の片隅で茶と軽食をつつきながら、エルヴィラが尋ねた。
 不貞腐れてそっぽを向いたままの娘はイヴリンと名乗ったが、それ以上は口を噤んだままだった。

「昨日、兄さんとのやりとりを見かけて気になったんで、つけてたんだ」
「……お前、やっぱり変態だな」

 気が利くだろうとアライトが偉そうに述べた言葉を、エルヴィラは一刀両断にする。目を細めて睨みつけつつ、じっと見詰めながらだ。

「え? ちょっと待ってよ。危機管理意識が高いって言ってよ」
「いや、女の子の後をつけまわすやつは変態で十分だ。しかも乱暴にするとは、捨て置けない。首を折ったほうがいいか?」

 エルヴィラの低い呟きに、アライトは思わず自分の首を庇う。それから少しだけ目を泳がせて……強引に話題を戻してしまおうと決めた。

「ええとそれで、掻い摘んで要点だけ話すと、さっきエルヴィラがのしたチンピラは、この子の仕込みだ」
「なん……だと?」
「ふうん」

 おおかたそんなことだろうと思ったと漏らすミーケルに、エルヴィラがもう一度「なんだと?」と呟いた。

「まさか君、気づいてなかった? 昨日の今日なのに?」
「いや、だって……イヴリン、なんでそんなことをしたんだ」

 呆然としたままのエルヴィラが尋ねると、イヴリンはくっと眉を寄せる。

「どうだっていいじゃない。そんなの知ってどうしようって言うのよ」
「どうするかは理由を聞いてから決める」

 きっぱり答えるエルヴィラと、頬杖を突いておもしろそうに成り行きを眺めるアライトの目が合った。
 どうやら、彼はこれ以上何か口を出すつもりはないらしい。
 視線を戻すと、イヴリンはぐっと口を引き結びエルヴィラの視線を受け止めた。

 ……なんでアライトは、わざわざこの子を捕まえて、ここに連れて来たんだろう。

 ミーケルはすっかりイヴリンへの興味を失ったのか、つまらなそうにちらりと見るだけだ。まともに目も合わせようとしない。

 イヴリンは、そういうミーケルの態度を目の前にして、悔しさに唇を噛んだ。
 前は、あんなに……あんなに……そう考えて、ひくりと喉が震える。
 イヴリンは絶対に泣くもんかと、さらに唇を噛み締めた。
 泣くもんか。でも、やっぱり悔しくて仕方ない。

「――だって、去年、この町にいる間、あんなに優しかったのよ」

 ぽろりと、イヴリンの唇から言葉が零れ落ちる。

「デートだってたくさんしたし、一緒に美味しいものもいろいろ食べて、素敵な歌もたくさん聞かせてくれて……町を出るとき一緒に連れてって欲しいって頼んだら、またここに戻ってくるからって言ったのに……まさか、別な女の子を連れてて、私のことも覚えてないなんて、思わなかったのに――」

 一度零れれば、言葉は止まらなかった。
 次から次へと、イヴリンは話し続ける。

 エルヴィラは、それを神妙な顔で聞いているようだった。
 ミーケルは、ようやく心当たりを思い出したのかどうなのか、どこか不貞腐れたような表情で、明後日の方向へと目を逸らしたままで――



 そんなこと言ったっけ? 言ったような気もするし言ってないような気もするし。
 ――ああそうか。ここへはあともう一年くらい置いてから来ようと思っていたんだった。
 この辺りの女の子は、だいたい成人の歳を迎えたら一年くらいで結婚してしまうものだから、そう考えていたんだっけ。
 失敗した。



 概ねこういうことを思い出したミーケルは、どうしようかと考えていた。
 どうやって言いくるめてここを離れようかと。

「――つまり、ミケが悪いということか」
「え?」

 イヴリンの言い分をおおかた聞き終えて、エルヴィラがゆっくりと頷いた。
 ミーケルはぎょっとして思わず振り返る。

お前ミケがいい加減なことばかりしていたのはよくわかった。確かに、お前は私の時も自分のやったことをまったく覚えていなかったしな」

 呆然とするミーケルをじろりと睨むエルヴィラに、イヴリンは、あれ? と思う。
 こういう場合、そんなデタラメばっかり並べたって騙されないわ、と女が怒り出すところだと思っていた。イヴリン自身なら、たぶんそう言って怒ってただろう。

 もちろん、若干盛ってはいても、イヴリンとミーケルのことはだいたいこんな感じだったし、嘘は言ってない……はずだ。

「いや、ちょっと待って。君、僕のこと信用してないの?」
「誓いの後のことなら信用しているが、なにぶん、誓いの前のことだ。事実、誓いの前にお前が私にしたことを考えれば、イヴリンの話の信憑性は高い」
「え、そこの前後でそこまで?」

 エルヴィラはもう一度ゆっくりと頷いた。
 イヴリンは、慌てるミーケルと立ち上がるエルヴィラをぽかんと見つめていた。

「イヴリン、よくわかった。あなたはこの男の被害者だったのだな」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...