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歌う竜の町
よくわかった
しおりを挟む※作者注:再度になりますが、ミーケルは根本的にクズ男です
*****
「で、どうしたんだ? その子は昨日ミケに抱きついてた子じゃないか。どうしてアライトと一緒なんだ」
移動した食堂の片隅で茶と軽食をつつきながら、エルヴィラが尋ねた。
不貞腐れてそっぽを向いたままの娘はイヴリンと名乗ったが、それ以上は口を噤んだままだった。
「昨日、兄さんとのやりとりを見かけて気になったんで、つけてたんだ」
「……お前、やっぱり変態だな」
気が利くだろうとアライトが偉そうに述べた言葉を、エルヴィラは一刀両断にする。目を細めて睨みつけつつ、じっと見詰めながらだ。
「え? ちょっと待ってよ。危機管理意識が高いって言ってよ」
「いや、女の子の後をつけまわすやつは変態で十分だ。しかも乱暴にするとは、捨て置けない。首を折ったほうがいいか?」
エルヴィラの低い呟きに、アライトは思わず自分の首を庇う。それから少しだけ目を泳がせて……強引に話題を戻してしまおうと決めた。
「ええとそれで、掻い摘んで要点だけ話すと、さっきエルヴィラがのしたチンピラは、この子の仕込みだ」
「なん……だと?」
「ふうん」
おおかたそんなことだろうと思ったと漏らすミーケルに、エルヴィラがもう一度「なんだと?」と呟いた。
「まさか君、気づいてなかった? 昨日の今日なのに?」
「いや、だって……イヴリン、なんでそんなことをしたんだ」
呆然としたままのエルヴィラが尋ねると、イヴリンはくっと眉を寄せる。
「どうだっていいじゃない。そんなの知ってどうしようって言うのよ」
「どうするかは理由を聞いてから決める」
きっぱり答えるエルヴィラと、頬杖を突いておもしろそうに成り行きを眺めるアライトの目が合った。
どうやら、彼はこれ以上何か口を出すつもりはないらしい。
視線を戻すと、イヴリンはぐっと口を引き結びエルヴィラの視線を受け止めた。
……なんでアライトは、わざわざこの子を捕まえて、ここに連れて来たんだろう。
ミーケルはすっかりイヴリンへの興味を失ったのか、つまらなそうにちらりと見るだけだ。まともに目も合わせようとしない。
イヴリンは、そういうミーケルの態度を目の前にして、悔しさに唇を噛んだ。
前は、あんなに……あんなに……そう考えて、ひくりと喉が震える。
イヴリンは絶対に泣くもんかと、さらに唇を噛み締めた。
泣くもんか。でも、やっぱり悔しくて仕方ない。
「――だって、去年、この町にいる間、あんなに優しかったのよ」
ぽろりと、イヴリンの唇から言葉が零れ落ちる。
「デートだってたくさんしたし、一緒に美味しいものもいろいろ食べて、素敵な歌もたくさん聞かせてくれて……町を出るとき一緒に連れてって欲しいって頼んだら、またここに戻ってくるからって言ったのに……まさか、別な女の子を連れてて、私のことも覚えてないなんて、思わなかったのに――」
一度零れれば、言葉は止まらなかった。
次から次へと、イヴリンは話し続ける。
エルヴィラは、それを神妙な顔で聞いているようだった。
ミーケルは、ようやく心当たりを思い出したのかどうなのか、どこか不貞腐れたような表情で、明後日の方向へと目を逸らしたままで――
そんなこと言ったっけ? 言ったような気もするし言ってないような気もするし。
――ああそうか。ここへはあともう一年くらい置いてから来ようと思っていたんだった。
この辺りの女の子は、だいたい成人の歳を迎えたら一年くらいで結婚してしまうものだから、そう考えていたんだっけ。
失敗した。
概ねこういうことを思い出したミーケルは、どうしようかと考えていた。
どうやって言いくるめてここを離れようかと。
「――つまり、ミケが悪いということか」
「え?」
イヴリンの言い分をおおかた聞き終えて、エルヴィラがゆっくりと頷いた。
ミーケルはぎょっとして思わず振り返る。
「お前がいい加減なことばかりしていたのはよくわかった。確かに、お前は私の時も自分のやったことをまったく覚えていなかったしな」
呆然とするミーケルをじろりと睨むエルヴィラに、イヴリンは、あれ? と思う。
こういう場合、そんなデタラメばっかり並べたって騙されないわ、と女が怒り出すところだと思っていた。イヴリン自身なら、たぶんそう言って怒ってただろう。
もちろん、若干盛ってはいても、イヴリンとミーケルのことはだいたいこんな感じだったし、嘘は言ってない……はずだ。
「いや、ちょっと待って。君、僕のこと信用してないの?」
「誓いの後のことなら信用しているが、なにぶん、誓いの前のことだ。事実、誓いの前にお前が私にしたことを考えれば、イヴリンの話の信憑性は高い」
「え、そこの前後でそこまで?」
エルヴィラはもう一度ゆっくりと頷いた。
イヴリンは、慌てるミーケルと立ち上がるエルヴィラをぽかんと見つめていた。
「イヴリン、よくわかった。あなたはこの男の被害者だったのだな」
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