クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

文字の大きさ
83 / 152
一攫千金の町

【閑話】炊事当番

しおりを挟む
「最近野営が続いてるじゃないか」
「そうだな」
「さすがに温かいものが食べたくなるんだよ」
「うん、確かにな」

 もくもくと堅焼きのパンと干し肉と干しイチジクを齧りながら、ミーケルがしみじみと呟く。たった二日野宿が続いただけでこれだが、エルヴィラもいい加減慣れて今や生返事だ。
 アライトは適当に狩りをするからと出かけている。

「こういう時、竜っていいよね。新鮮な餌を獲って食べられるし」
「そうだな」
「君、僕の話聞いてないでしょう」
「ミケの話ならいつもちゃんと聞いてるぞ。
 でも、私が手を出していいのか? 教会騎士隊の設営訓練に参加したら、お前は天幕張って薪を集めたら何もしなくていいって遠ざけられたんだ。だから手を出さないほうがいいのかと自重していたのだが」
「……僕が悪かった」

 平然ととんでもない内容を返すエルヴィラに、そこまでか、と顔を若干青くしながらミーケルは引き下がる。
 これはとてもじゃないが、人並みの食事すら期待できなさそうだ。

 それにしても、たいていのものならつべこべ言ってないで食えと怒鳴られる戦神教会騎士隊の設営訓練で、いったい何をどうすればそこまで言われるようになるのだろうか。
 エルヴィラはいったい何を作ったのだ。

「だいたい、ミケは美味いもの食べるのは好きなくせに、作ることはしないのか」
「僕は食べるのが専門なんだ」
「なら、今も食べる専門らしく食べてればいいじゃないか」
「だから、食べてるだろう」

 だんだんと不機嫌になってくるミーケルに、エルヴィラは溜息を吐く。
 干し肉と干しイチジクの、何がそんなに不満なのか。草が浮いたスープなんて出そうものなら、どれだけ爆発するかわからないくらいだ。



「ただいま……って、なんでこんなに雰囲気悪いんだよ」

 ふんふんと鼻歌を歌いながら上機嫌に戻ってきたアライトに、竜も鼻歌を歌ったりするのかと、エルヴィラは変な感心を覚える。
 どうやら今日の狩りはうまくいったようだった。
 怪訝そうに首を傾げながらも栗鼠に変わって毛繕いを始めたアライトを、エルヴィラはじっと見つめる。

「なあ、アライト」
「なんだ?」
「お前、料理はできるか?」
「え? 簡単なものなら、なんとか、くらい、だけど……」
「よし!」

 いきなり笑顔で手を叩くエルヴィラに、あれ、もしかして間違った回答を言っちゃったかも? とアライトは冷や汗を垂らす。
 いったい何がよしなんだ?

「でかしたぞ、アライト。ではお前をこの隊の炊事兵に任命しよう」
「――待てよ! なんだよ、三人しかいないのに“この隊”ってどういうことだよ! それにどうして俺が炊事兵なんだよ!」

 焦って喚き散らす栗鼠をいきなり掴み上げ、エルヴィラは目の高さへと持ち上げる。

「いいかよく聞け」

 目を眇め、くっと手に力を入れるエルヴィラに、アライトはごくりと喉を鳴らす。これは逆らってはいけないときの雰囲気だ。

「干し肉と干しイチジクだけだと、ミケの機嫌が悪くなるんだ」
「そ、それがどうかしたのかよ。野営してるんだから、仕方ないだろ」
「ミケの機嫌が悪くなると、私といちゃいちゃしてくれなくなる」

 またちょっと手に力がこもり、アライトは嫌な汗をかく。

「いちゃいちゃしてくれないと、私はつい八つ当たりでお前の首を絞めたくなるかもしれない」
「……謹んで拝命いたします」
「よし」

 なんで俺こんなことになってるんだろう、と思いながら、次の野営からアライトが炊事を担当することになった。
 ついでに言うなら、獲物の調達までアライトだ。
 どうして付いてきちゃったんだろうな、と、アライトは最近ちょっと悩んでいる。
 鱗が剥げたりしたら、たぶんエルヴィラのせいだ。






*****

一攫千金の町
遺跡探索で一攫千金ヤッター!な冒険者たちが拠点として滞在する町。
雰囲気的には、ゴールドラッシュに沸くアメリカ西部開拓時代のならず者が集う町。
あとは、私が古のロートルTRPGゲーマーなので、ソードワールド(無印)時代のアレクラスト大陸のオランなんかもイメージしているけど、いかんせんそこまで大規模な遺跡があるわけじゃないので、どうしたって小規模である。
それに、冒険者が集うだけあって、治安と柄は良くない――とはいえ、善の神の司祭やら聖騎士やらも比較的多いので、目立った悪人より小悪党の方が多い。

町中の屋台の雰囲気は、門前町とかお祭りとかの露天商で。
屋台の焼き鳥って、なんであんなに美味いんだろうな。


■魔術の値段
魔術師にとってはとても常識ですが、高度で効果の劇的な魔術になればなるほど、その触媒も高価なものになります。
作中でナイエが頭を抱えているように、敵の致命的な打撃を吸収してくれる防御やら、魔法も物理も通さない障壁やらみたいな高位の魔術ともなると、呪文一発あたり金貨数十~数百かかる、なんてのもザラだったりします。「魔法は高い」と言われる所以です。
もちろん、神術であっても、高位の司祭でなければ使えないような奇跡(たとえば蘇生や再生など)には、神へ捧げる高価な供物が必須となるため、やはりとてもとても高価なものとなってます。

冒険者はドカンと稼いでドカンと使うか失敗して死ぬかのだいたい極端に別れるためか、金銭感覚のおかしくなってる者が多いです。
庶民が基本銅貨換算で暮らしているのに対し、金貨換算で収支を考える冒険者はたいへんに多いです。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...