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一攫千金の町
【閑話】炊事当番
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「最近野営が続いてるじゃないか」
「そうだな」
「さすがに温かいものが食べたくなるんだよ」
「うん、確かにな」
もくもくと堅焼きのパンと干し肉と干しイチジクを齧りながら、ミーケルがしみじみと呟く。たった二日野宿が続いただけでこれだが、エルヴィラもいい加減慣れて今や生返事だ。
アライトは適当に狩りをするからと出かけている。
「こういう時、竜っていいよね。新鮮な餌を獲って食べられるし」
「そうだな」
「君、僕の話聞いてないでしょう」
「ミケの話ならいつもちゃんと聞いてるぞ。
でも、私が手を出していいのか? 教会騎士隊の設営訓練に参加したら、お前は天幕張って薪を集めたら何もしなくていいって遠ざけられたんだ。だから手を出さないほうがいいのかと自重していたのだが」
「……僕が悪かった」
平然ととんでもない内容を返すエルヴィラに、そこまでか、と顔を若干青くしながらミーケルは引き下がる。
これはとてもじゃないが、人並みの食事すら期待できなさそうだ。
それにしても、たいていのものならつべこべ言ってないで食えと怒鳴られる戦神教会騎士隊の設営訓練で、いったい何をどうすればそこまで言われるようになるのだろうか。
エルヴィラはいったい何を作ったのだ。
「だいたい、ミケは美味いもの食べるのは好きなくせに、作ることはしないのか」
「僕は食べるのが専門なんだ」
「なら、今も食べる専門らしく食べてればいいじゃないか」
「だから、食べてるだろう」
だんだんと不機嫌になってくるミーケルに、エルヴィラは溜息を吐く。
干し肉と干しイチジクの、何がそんなに不満なのか。草が浮いたスープなんて出そうものなら、どれだけ爆発するかわからないくらいだ。
「ただいま……って、なんでこんなに雰囲気悪いんだよ」
ふんふんと鼻歌を歌いながら上機嫌に戻ってきたアライトに、竜も鼻歌を歌ったりするのかと、エルヴィラは変な感心を覚える。
どうやら今日の狩りはうまくいったようだった。
怪訝そうに首を傾げながらも栗鼠に変わって毛繕いを始めたアライトを、エルヴィラはじっと見つめる。
「なあ、アライト」
「なんだ?」
「お前、料理はできるか?」
「え? 簡単なものなら、なんとか、くらい、だけど……」
「よし!」
いきなり笑顔で手を叩くエルヴィラに、あれ、もしかして間違った回答を言っちゃったかも? とアライトは冷や汗を垂らす。
いったい何がよしなんだ?
「でかしたぞ、アライト。ではお前をこの隊の炊事兵に任命しよう」
「――待てよ! なんだよ、三人しかいないのに“この隊”ってどういうことだよ! それにどうして俺が炊事兵なんだよ!」
焦って喚き散らす栗鼠をいきなり掴み上げ、エルヴィラは目の高さへと持ち上げる。
「いいかよく聞け」
目を眇め、くっと手に力を入れるエルヴィラに、アライトはごくりと喉を鳴らす。これは逆らってはいけないときの雰囲気だ。
「干し肉と干しイチジクだけだと、ミケの機嫌が悪くなるんだ」
「そ、それがどうかしたのかよ。野営してるんだから、仕方ないだろ」
「ミケの機嫌が悪くなると、私といちゃいちゃしてくれなくなる」
またちょっと手に力がこもり、アライトは嫌な汗をかく。
「いちゃいちゃしてくれないと、私はつい八つ当たりでお前の首を絞めたくなるかもしれない」
「……謹んで拝命いたします」
「よし」
なんで俺こんなことになってるんだろう、と思いながら、次の野営からアライトが炊事を担当することになった。
ついでに言うなら、獲物の調達までアライトだ。
どうして付いてきちゃったんだろうな、と、アライトは最近ちょっと悩んでいる。
鱗が剥げたりしたら、たぶんエルヴィラのせいだ。
*****
一攫千金の町
遺跡探索で一攫千金ヤッター!な冒険者たちが拠点として滞在する町。
雰囲気的には、ゴールドラッシュに沸くアメリカ西部開拓時代のならず者が集う町。
あとは、私が古のロートルTRPGゲーマーなので、ソードワールド(無印)時代のアレクラスト大陸のオランなんかもイメージしているけど、いかんせんそこまで大規模な遺跡があるわけじゃないので、どうしたって小規模である。
それに、冒険者が集うだけあって、治安と柄は良くない――とはいえ、善の神の司祭やら聖騎士やらも比較的多いので、目立った悪人より小悪党の方が多い。
町中の屋台の雰囲気は、門前町とかお祭りとかの露天商で。
屋台の焼き鳥って、なんであんなに美味いんだろうな。
■魔術の値段
魔術師にとってはとても常識ですが、高度で効果の劇的な魔術になればなるほど、その触媒も高価なものになります。
作中でナイエが頭を抱えているように、敵の致命的な打撃を吸収してくれる防御やら、魔法も物理も通さない障壁やらみたいな高位の魔術ともなると、呪文一発あたり金貨数十~数百かかる、なんてのもザラだったりします。「魔法は高い」と言われる所以です。
もちろん、神術であっても、高位の司祭でなければ使えないような奇跡(たとえば蘇生や再生など)には、神へ捧げる高価な供物が必須となるため、やはりとてもとても高価なものとなってます。
冒険者はドカンと稼いでドカンと使うか失敗して死ぬかのだいたい極端に別れるためか、金銭感覚のおかしくなってる者が多いです。
庶民が基本銅貨換算で暮らしているのに対し、金貨換算で収支を考える冒険者はたいへんに多いです。
「そうだな」
「さすがに温かいものが食べたくなるんだよ」
「うん、確かにな」
もくもくと堅焼きのパンと干し肉と干しイチジクを齧りながら、ミーケルがしみじみと呟く。たった二日野宿が続いただけでこれだが、エルヴィラもいい加減慣れて今や生返事だ。
アライトは適当に狩りをするからと出かけている。
「こういう時、竜っていいよね。新鮮な餌を獲って食べられるし」
「そうだな」
「君、僕の話聞いてないでしょう」
「ミケの話ならいつもちゃんと聞いてるぞ。
でも、私が手を出していいのか? 教会騎士隊の設営訓練に参加したら、お前は天幕張って薪を集めたら何もしなくていいって遠ざけられたんだ。だから手を出さないほうがいいのかと自重していたのだが」
「……僕が悪かった」
平然ととんでもない内容を返すエルヴィラに、そこまでか、と顔を若干青くしながらミーケルは引き下がる。
これはとてもじゃないが、人並みの食事すら期待できなさそうだ。
それにしても、たいていのものならつべこべ言ってないで食えと怒鳴られる戦神教会騎士隊の設営訓練で、いったい何をどうすればそこまで言われるようになるのだろうか。
エルヴィラはいったい何を作ったのだ。
「だいたい、ミケは美味いもの食べるのは好きなくせに、作ることはしないのか」
「僕は食べるのが専門なんだ」
「なら、今も食べる専門らしく食べてればいいじゃないか」
「だから、食べてるだろう」
だんだんと不機嫌になってくるミーケルに、エルヴィラは溜息を吐く。
干し肉と干しイチジクの、何がそんなに不満なのか。草が浮いたスープなんて出そうものなら、どれだけ爆発するかわからないくらいだ。
「ただいま……って、なんでこんなに雰囲気悪いんだよ」
ふんふんと鼻歌を歌いながら上機嫌に戻ってきたアライトに、竜も鼻歌を歌ったりするのかと、エルヴィラは変な感心を覚える。
どうやら今日の狩りはうまくいったようだった。
怪訝そうに首を傾げながらも栗鼠に変わって毛繕いを始めたアライトを、エルヴィラはじっと見つめる。
「なあ、アライト」
「なんだ?」
「お前、料理はできるか?」
「え? 簡単なものなら、なんとか、くらい、だけど……」
「よし!」
いきなり笑顔で手を叩くエルヴィラに、あれ、もしかして間違った回答を言っちゃったかも? とアライトは冷や汗を垂らす。
いったい何がよしなんだ?
「でかしたぞ、アライト。ではお前をこの隊の炊事兵に任命しよう」
「――待てよ! なんだよ、三人しかいないのに“この隊”ってどういうことだよ! それにどうして俺が炊事兵なんだよ!」
焦って喚き散らす栗鼠をいきなり掴み上げ、エルヴィラは目の高さへと持ち上げる。
「いいかよく聞け」
目を眇め、くっと手に力を入れるエルヴィラに、アライトはごくりと喉を鳴らす。これは逆らってはいけないときの雰囲気だ。
「干し肉と干しイチジクだけだと、ミケの機嫌が悪くなるんだ」
「そ、それがどうかしたのかよ。野営してるんだから、仕方ないだろ」
「ミケの機嫌が悪くなると、私といちゃいちゃしてくれなくなる」
またちょっと手に力がこもり、アライトは嫌な汗をかく。
「いちゃいちゃしてくれないと、私はつい八つ当たりでお前の首を絞めたくなるかもしれない」
「……謹んで拝命いたします」
「よし」
なんで俺こんなことになってるんだろう、と思いながら、次の野営からアライトが炊事を担当することになった。
ついでに言うなら、獲物の調達までアライトだ。
どうして付いてきちゃったんだろうな、と、アライトは最近ちょっと悩んでいる。
鱗が剥げたりしたら、たぶんエルヴィラのせいだ。
*****
一攫千金の町
遺跡探索で一攫千金ヤッター!な冒険者たちが拠点として滞在する町。
雰囲気的には、ゴールドラッシュに沸くアメリカ西部開拓時代のならず者が集う町。
あとは、私が古のロートルTRPGゲーマーなので、ソードワールド(無印)時代のアレクラスト大陸のオランなんかもイメージしているけど、いかんせんそこまで大規模な遺跡があるわけじゃないので、どうしたって小規模である。
それに、冒険者が集うだけあって、治安と柄は良くない――とはいえ、善の神の司祭やら聖騎士やらも比較的多いので、目立った悪人より小悪党の方が多い。
町中の屋台の雰囲気は、門前町とかお祭りとかの露天商で。
屋台の焼き鳥って、なんであんなに美味いんだろうな。
■魔術の値段
魔術師にとってはとても常識ですが、高度で効果の劇的な魔術になればなるほど、その触媒も高価なものになります。
作中でナイエが頭を抱えているように、敵の致命的な打撃を吸収してくれる防御やら、魔法も物理も通さない障壁やらみたいな高位の魔術ともなると、呪文一発あたり金貨数十~数百かかる、なんてのもザラだったりします。「魔法は高い」と言われる所以です。
もちろん、神術であっても、高位の司祭でなければ使えないような奇跡(たとえば蘇生や再生など)には、神へ捧げる高価な供物が必須となるため、やはりとてもとても高価なものとなってます。
冒険者はドカンと稼いでドカンと使うか失敗して死ぬかのだいたい極端に別れるためか、金銭感覚のおかしくなってる者が多いです。
庶民が基本銅貨換算で暮らしているのに対し、金貨換算で収支を考える冒険者はたいへんに多いです。
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