クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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神竜の加護ある町

新たな同行者

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「イヴリンは、この変態竜のどこがいいんだ?」
「ちょっと! ひとの彼氏を変態とか呼ぶのやめてくれない? 私もミーケルのことタラシって呼ぶわよ」
「誰が彼氏だよ彼氏じゃねえよ!」
「タラシは事実だから仕方ないな」
「えっ、あんた頭おかしいんじゃないの?」
「ちょっと君たちうるさい。あと僕の呼び名を勝手に決めないで」

 “神竜の加護ある町”に到着した日の夕食の席は、とても賑やかだった。スープが運ばれてくるまでは。
 海で獲れた魚介とトマトをはじめとするさまざまな野菜を合わせ、じっくりと煮込んだ赤いスープだ。
 ひと口飲み込むだけで、魚介からの出汁と野菜の旨味が身体の内から染み込んで、芯から温めてくれる……そんなスープである。

「やだ、何これおいしい」
「これもすごいな!」

 ぎゃあぎゃあと大騒ぎだったイヴリンとエルヴィラも、スープを口にしたとたん、喋るほうより食べるほうに夢中になったくらいだ。



 “歌う竜の町”を出るとき、なぜかイヴリンまでが付いてきた。

 アライトのおまけなんだから、アライトが全部の面倒を見るなら構わないよとミーケルが言うと、イヴリンは「なら大丈夫ね」と勝手に答えてしまった。
 そのことに、エルヴィラは、アライトはもしや弱みでも握られたのかと首を傾げてしまう。竜の弱みってなんだろうかと。
 アライトではなくイヴリンが自信満々にそう答えるなんて、弱みを握られてイヴリンに逆らえなくなったからだとしか思えなかったのだ。

 実際のところは、イヴリンから「最後まで面倒みると言ったのだから、町に残るか連れて行くかどちらかを選べ」と迫られた結果、連れて行くことにしたようだが。

「なんだ、残れば良かったのに」
「あの町にも町の近くにも、俺の巣穴にできるような地形がないんだよ」

 水場も森もないところになんか住めるか、とぶつくさ言うアライトを、呆れたようにエルヴィラが一瞥する。

「好みのうるさい竜なんだな」
「仕方ないだろ。俺はそばにでっかい水場か森がないと絶対嫌なんだ」

 イヴリンを連れ歩く都合上、すっかり人型ばかりになったアライトが顔を顰める。巣穴のそばに水場か森というところは、青銅竜としてどうしても譲れないらしい。

 それにしても、旅の間、イヴリンに「足が痛いわ」と言われていそいそと竜に戻って背に乗せるアライトは、彼氏というよりもペットか従者のように思えた。
 だが、なんやかや文句を言いつつも、約束通り甲斐甲斐しくイヴリンの面倒を見ているのだ。アライトはあれで結構彼女のことを気に入ってるんだろう。
 だいたい、最初にエルヴィラを攫ったときの待遇とは雲泥の差ではないか。

 ――イヴリンにそのことを話すと、「アライトって素直じゃないのね、竜のくせに」とニヤニヤ笑っていた。
 あとでアライトに「何を言ったんだ」と文句を言われたけれど、事実なんだからエルヴィラに責任はないはずだ。

 イヴリンにも、アライトは竜だけど構わないのかと尋ねてみたら、「知らないの? 竜ってお金持ちなのよ」とすごく得意げに言い返された。

「強くてお金持ちで、人間の姿ならかっこいいんだから竜の時もたぶんかっこいいのよ。三高って大切なのよ」

 イヴリンにとってその三つが譲れないポイントだったのかと、エルヴィラは納得してしまう。すごくイヴリンらしくて。

「それにしても、よく親が許したな」
「アライトをちゃんと紹介したもの」

 イヴリンの言葉に、エルヴィラは愕然とした。

「なん……だと?」
「約束を盾にとって、親を説得してくれなきゃずっとここに残らなきゃいけないのよって言ったら、ちゃんと説得してくれたの」

 ふふふ、と笑うイヴリンは、エルヴィラの目にとても神々しく映る。

 なんて仕事が早いんだ。

 もうそこまで済ませているなんて、イヴリンはとてもできる女だということか。
 しかも外堀をアライト自らに埋めさせるとはなかなか以上の手腕ではないか。
 おまけに、アライト本人がどう考えてるかに関わらず、見事に詰んでいる。

「……さすがだな、イヴリン」
「当たり前よ」

 胸を張るイヴリンがほんとうに眩しい。彼女にはいろいろと学ばねばなるまい。

 エルヴィラはぐっと拳を握り締める。
 ミーケルは、また変なことを考えているなと、エルヴィラを見て溜息を吐いた。



 翌朝、のんびりと朝食を食べながら、ミーケルが「今夜は仕事に呼ばれてるから」と告げた。

「僕とエルヴィラは領主のところに呼ばれてるから、君たちは適当にしてて」
「ミーケルって、顔だけじゃなかったのね。いちおう」

 驚いた顔のイヴリンに、ミーケルが顔を顰める。けれど、何か返すより早く、エルヴィラが口を挟んだ。

「ミケは性格はともかく腕はいいぞ」
「それ、フォローになってないよね」
「そうか?」

 心底そう思うという表情のエルヴィラに、ミーケルは溜息を禁じ得ない。

「君は僕を何だと思ってるの」
「ミケはミケだ」
「……端的に、ありがとう」

 もういちど溜息を吐いて、ミーケルは続ける。

「ともかく、エルヴィラは僕の護衛だから連れて行くけど、君たちまでは連れて行けないから、適当にしててくれってこと」
「大丈夫よ。アライトがいるから」
「えっ」
「なんで驚くのよ」

 仲が良いのか悪いのか、またふたりでぎゃあぎゃあやり合い始める姿を見る限り、イヴリンとアライトの仲は良いほうなんだろう。
 賑やかなのは別に構わないけれど――それにしても、この先どうしたものかとミーケルは考える。
 正直、いろいろと面倒になっているのは確かだ。


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