クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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神竜の加護ある町

歌姫の手記

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 領主家に滞在して二日目。

 ミーケルは領主であるスレイド伯爵に呼ばれた。

「ずいぶんと昔、この町がヒューマノイドの軍勢から襲撃を受けたという話は、知っているだろう?」
「はい、もちろん」

 切り出された話は、この町に伝わるいちばん有名な伝説のことだった。その伝説に何かあるのだろうかと、ミーケルは内心首を捻る。
 けれど、伯爵の次の言葉は意外なものだった。

「実は、どうやらそのときの手記らしきものが出てきたんだ」
「手記……ですか?」
「正確には、記録の写しというべきだろうか。町に伝わる話とはだいぶ変わっているのだ。ミーケル殿は伝説への造詣も深いので、内容についての意見を聞きたい」
「意見ですか……書いたものが誰かは、明らかなのですか?」
「ああ。エイシャという署名があったらしい。だが、写したものなのか、書いた本人なのかはわからない」

 ミーケルは大きく瞠目する。
 まさか、ここに彼女の手記が残っていた?

「エイシャ……ですか?」
「知っているのかね?」
「歌姫と呼ばれるエイシャなら……伯爵殿、できれば、その記録を写させてはいただけないでしょうか」

 目を輝かせるミーケルに、スレイド伯爵は少し驚いたように目を瞠る。

「ふむ……かまわんが」
「ありがとうございます」



 部屋へ戻ってきたミーケルは、一冊の古びた書物を手にしていた。

「ミケ、それは何だ?」
「歌姫エイシャの手記の、たぶん写し。
 これについての意見を伯爵から求められたんだ。写本の許可も取った」

 ミーケルはそう答えて、とても嬉しそうに目を細める。
 やはり、同じ詩人の書き残したものを読む機会を得てうれしいのだろうか。喜ぶミーケルに、エルヴィラもなんとなく嬉しくなってしまう。

 さっそく長椅子に腰掛けて書物を開くミーケルの横に、エルヴィラも座った。

「ミケ、歌姫エイシャって、どんな詩人なんだ?」
「――“歌う竜の町”で、歌ったのはほんとうは竜じゃなくて、竜の背に乗った詩人の弟子だった、って話をしただろう?」
「ああ」
「その弟子というのが、歌姫エイシャなんだ」
「そうなのか!」

 エルヴィラも興味深げにミーケルの手許を覗き込んだ。年月により変色した羊皮紙に、色褪せて掠れたインクで綴られた古めかしい言葉が、その書物がずっと昔に書かれたものであることを感じさせる。
 ゆっくりとページを捲りながらミーケルは、ちらりとエルヴィラを見た。

「歌姫エイシャの名が広く知られるようになったのは、この町で起こった大きな戦いがきっかけなんだよ」

 歌うような調子でミーケルは語る。
 エルヴィラでも知っている、ヒューマノイドの軍勢との戦いだ。

「この町の南側の平原を埋め尽くすほどに集まった、邪竜神の司祭率いるたくさんのヒューマノイドに空を舞う赤竜……とても勝ち目はないと思えたときに、神竜と聖騎士が現れ、この町とひとびとのために一歩も引かずに戦い、勝利した。
 その彼らを助けるために歌姫エイシャも尽力したのだと、伝説に語られている」
「……すごいな」

 南から攻め上ってきた軍勢にとっても、ここから北に住むひとびとにとっても、この町はとても重要な場所になる。
 この町が落ちれば瞬く間に北のひとびとはヒューマノイドに蹂躙されるが、ここを守り切れればひとびとのほうにこそ勝機がある。
 きっと、激しい戦いだったのではないだろうか。

「歌姫は怯えるひとびとを励まし戦うものたちに勇気を与え、戦いの間ずっと、その歌と言葉で町を支えたんだそうだ」
「私が戦うときに歌う、ミケみたいに?」

 エルヴィラがそう尋ねると、ミーケルは「そうだよ」と笑った。

「そうか。なら、歌姫もたいした詩人だったんだな」
「どうして僕が基準になるのさ」
「だって、ミケはたいした詩人だからな」

 自慢げに述べるエルヴィラに苦笑しつつ、くしゃっと頭を撫でる。

「ともかく、そうやって頭角を現した歌姫だけど、詩人として活躍した期間はとても短かった。ほんの数年程度だったんだ」
「そうなのか。それでも、ここまで名を残すんだからすごいな」

 ひたすら感心するだけのエルヴィラに、やっぱりミーケルは苦笑する。

「僕に歌姫と同じことができるかって聞かれてもわからないけどね。
 たまたま訪れただけの町にそこまで思い入れを強くできるかなんて、そのときになってみなきゃなんとも言えない」
「私はミケならできると思うぞ」
「それは僕を買い被りすぎてるよ」

 そうかな、とエルヴィラは首を傾げる。

 ミーケルのことだから、なんだかんだとぶつくさ言いながらも、結局残るんじゃないだろうか。もしそうなったらもちろん自分も残って、ミーケルを守って戦うのだ。
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