クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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神竜の加護ある町

兄と妹

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 少しだけイライラしながら何度も何度も食堂の入り口へと目をやっているうちに、ようやくアライトが戻ってきた。イヴリンはほっと息を吐いて、「もう、遅かったじゃない!」と声を上げる。

「ごめんごめん、ちょっと話が長引いて……って、これは?」

 すぐにイヴリンの目の前に座るオーウェンに気づき、アライトは目を眇めた。
 噂の司祭がなぜイヴリンと?

「これは、お嬢さんのお連れ様ですか。私はオーウェン・カーリス。戦神教会の司祭です。あなたはエルヴィラ・カーリスという騎士をご存知ではありませんか?」

 ストレートに尋ねられて、思わずぴくりとアライトの頬が引きつってしまう。
 しまったと思った時はすでに遅く、オーウェンにしっかりと確認されてしまった後だった。

「やはりご存知ですか。占術で我が神にお伺いを立ててよかった」

 破顔するオーウェンに、アライトはどう取り繕おうかと考えて、すぐに諦めた。ついさっき司祭に言うつもりはないと告げたばかりだったけれど、しかたない。

「知らねえよ……って言っても、納得しそうにない、よな?」
「はい、もちろん」

 にっこり頷くオーウェンに、アライトは「あーあ」と溜息を吐く。


 * * *


「お、オーウェン、兄上」
「――エルヴィラ、か」

 アライトが帰ってさほど経たずに、オーウェンが領主の屋敷を訪ねてきた。領主に頼んで部屋を用意してもらい、エルヴィラはそこで兄と顔を合わせた。
 あらかじめエルヴィラの容姿のことは聞いていたのだろうが……それでも信じられないという表情で、オーウェンは目を見開く。

「ああ……かわいいエルヴィラ。髪も目もこんなになってしまって……怖かったろう? もう大丈夫だ。私が来たからね」
「あ、あ、兄上、大丈夫だ。怖くなんてなかったし、別にこれで困ってもいないぞ」

 両手を広げて迫ったあげく腕ごと力任せにしっかりとエルヴィラを抱き竦めて、オーウェンは「強がらなくていいんだよ」と首を振る。
 よくがんばったね、などと頭も撫でながら。

「もう安心しなさい。大丈夫、ちゃんと元に戻るからね。
 私はもちろん、父上や祖母上も皆が都の大司教猊下にかけあってくれるよ。お前が“神の奇跡ミラクル”を受けて、元のお前に戻れるようにね。だから安心おし」

 オーウェンは優しく宥めるように言って、いつもそうしていたようにゆっくりとエルヴィラの背中をさする。

 ――どうしよう。

 エルヴィラは困った顔でおろおろと周りを見回した。
 前は普通のことだったのに、今はなんだか恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。

「あ、兄上、私は、も、もう、子供じゃないんだから……」
「ああ、わかってる。もうこんなに大きくなって、お前は立派な淑女レディになったな。
 だが久しぶりにようやく会えたんだから、少しくらい兄としての幸せを味わわせてくれてもいいだろう?
 さあ、いつものように甘えてくれないか、エルヴィラ」

 そう言って額に軽くキスをすると、オーウェンはよしよしとエルヴィラの頭を優しく撫でた。ついでに、病気やら怪我やら、何か不調はないかと尋ねては、片っ端から治癒の神術を掛けていく。

「……すげえな。さすが兄貴か。あのエルヴィラをここまで甘やかすとか」
「あのエルヴィラをまるで小さな女の子扱いってありえないわ」

 ここまで案内させられたアライトとイヴリンが感心のあまりかぽろりと呟いた。

 どうりであの口調やら行動やらのわりに妙に可愛く甘えてくるわけだと、ミーケルはなんとなく納得していた。
 ついでにいうと、どうしてエルヴィラがこうも女性としてのあれこれを頓着せずに育ってきたかにも納得した。

 なるほど、兄にこうして甘やかされて世話を焼かれて鍛えられていたからか。
 これもある意味英才教育なのかもしれない。
 下の兄がこれなら、上の兄はいったいどうだったのだろうか。

「それで、エルヴィラ? お前が都を出なければならなくなった原因の、吟遊詩人ミーケルというのはそいつだね?」

 ゆっくりとエルヴィラを撫でながら、オーウェンがミーケルをじろりと睨みつけた。ミーケルはそんなオーウェンに平然と微笑んで優雅な一礼を返す。

「──なるほど、肝は座っているようだ。
 だが、我が妹の名誉を穢した罪は重いぞ、吟遊詩人。貴様は行きずりのつもりだったのかもしれないが、我が妹が相手ではそうもいかぬと思い知れ」

 行きずりも何も、都でちょっとキスしただけでしつこく追いかけてきた挙句、人のことがっちり捕まえて離さないのはその妹のほうなんだけどな。

 ちょっとだけそんなことを脳裏に浮かべてから、ミーケルはどうしたものかなと首を傾げた。ついでに、さすがエルヴィラの兄である。顔はもちろん行動もそっくりだなとも考える。

「あ、兄上、待ってくれ。何をするつもりだ」

 慌てて取り縋るエルヴィラに、オーウェンは甘く優しく微笑んだ。

「安心しろ。殺しはせん。戦神は無益な殺生を戒めておられるからな。
 ただ、お前に要らぬちょっかいを掛けたことを後悔する程度に、少しお灸を据えるだけだよ。剣も鞘に入れたままだ」
「な、な、な……」

 上の兄ほどでなかろうが、オーウェンも戦神教会の司祭らしく鍛えているのだ。
 そのオーウェンに渾身の力で殴られでもしたら、細身のミーケルなんて、たとえやったのが鞘に入れたままの剣だろうが拳だろうが関係なく、イチコロの一撃でやられてしまうんじゃないのか。
 なにしろ、エルヴィラの拳でも一撃で沈むくらいひ弱なのだから。

「お、オーウェン兄上! たとえ峰打ちだろうが鞘打ちだろうが、ミケに手を出すなら私を倒してからだぞ。私はミケの護衛騎士なのだからな!」
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