クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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神竜の加護ある町

さらなる訪問者

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「いや、巣穴探しでこのあたり結構見てみたんだけどさ、あの亀裂はあまり良くないんで、知らせておいたほうがいいかと思ったんだ」
「良くないって?」
「ああ。あれ、どうも深過ぎるんだよ。聞いたことないか? 深く掘り過ぎて穴の底が“混沌の海”に繋がった、岩小人の鉱山の話」
「同じように、“混沌の海”に繋がってるんじゃないかってことか?」

 卓上に用意された菓子を齧りながら、アライトは頷く。

「俺だけならともかく、イヴリンがいるのにあの亀裂を無視してこのあたりに巣穴を構えるのは、ちょっとどうかなって思うくらい深いんだよ」

 呟きながら、 アライトは次の菓子に手を伸ばす。

「今繋がってるかって訊かれると微妙だけど、俺が少し潜ってみた限りじゃ、いつ繋がってもおかしくないくらいには深かったぞ。
 それに、あの深さは“深淵と恐怖の神”の領域にも通じるから、今すぐどうこうはなくても、備えておいて損はない。何が来てもおかしくないな」
「なるほど……領主の耳には入れといたほうがよさそうだね」

 神妙な顔で考え込むミーケルを、エルヴィラもじっと見つめる。

 三度目の災いは深海の底、亀裂の底を通して“混沌の海”からやってくるのだろうか。
 けれど、今回は警告を受けられるんだ。きっと十分に備えて、やっぱりこの町は守られるのではないか。

 エルヴィラは小さく拳を握ってそんなことを考える。

「あ、あと、エルヴィラ」
「ん?」

 毛皮についた食べカスを払いながら、アライトは思い出したように付け加える。

「町に、あんたを訪ねてきてるやつがいるぞ。前のお前みたいな赤毛の男で、戦神の司祭だったな」
「……なん、だと?」
「あんたのこと、兄さんとセットであちこち聞きまわってたからな。そのうちここに辿り着くんじゃないか?」

 ぐぐっと寄ったエルヴィラの眉間に、くっきりと皺が刻まれる。自分を探し回る赤毛の男で戦神の司祭といったら、ひとりしか思いつかない。
 ならば、対処は早いほうがいいのではないか。

「不意を打ち、厳重に縛り上げ、目を覚まさないうちに船に乗せて送り返すか」
「何、いきなり物騒なこと呟いてるんだよ。心当たりあるんだね?」

 眉を寄せたまま、エルヴィラはこくりと頷く。

「下の兄だと思う。何をしに来たかもだいたいわかる」

 上の兄が長く家を空けることはさすがに無理だ。だが、下の兄なら融通は利く。

 ――都を出る時、兄たちにはかなり止められたのだ。ミーケルをひとりで追いかけるなんて、無謀だと。
 けれど父は怒ってたし、母にもカタをつけるまで帰ってくるなと言われたし、自分なりに考えた結果ここにいるのだ。

 兄が来たということは、父と母の説得が終わったということかもしれない。
 何と言っても、家を出てからもう一年近く経つのだから、可能性は高い。出てくる時は黙っていた祖母も、口を出す頃合いだろう。
 エルヴィラはさらに眉を顰める。

「やはり不意打ちで沈めて船に乗せるのが、いちばん面倒が少ない気がする」
「だから、どうしてヴィーはそうやって短絡的なほうに行くのさ」

 むう、と口をへの字に曲げて、エルヴィラは顔を上げる。

「だって、兄上はたぶん私を連れ戻しに来たんだ。そのついでにミケも倒しておこうとか考えてるに決まってる」
「なら、帰るかい?」
「やだ。歌姫を知ってるひとのところに連れてってくれるんだろう?」

 絶対に離れないぞとばかりに、エルヴィラはがっしりと抱き付いた。

「だから帰らなくていい……それに、見目が変わっちゃったのに、帰ってどうするんだ。うちは司祭の家なんだぞ」
「馬鹿だなあ。見目が変わったってヴィーはヴィーなのに、そんなことを気にしてるのか。むしろ、この見目になっても変わってないことを誇るべきだよ」

 まったくもう、と言いながらミーケルはエルヴィラの髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。ミーケルに抱き付いたまま、エルヴィラもこくこくと頷く。
 身綺麗にし終わったアライトが小さく息を吐く。このままここにいてもあてられ続けるだけだし、もう用件は済んだ。

「まー、それはともかく、俺とイヴリンがその司祭になんか言うつもりはないけど、知らせておいたほうがいいとは思ったんだよ。
 そういうことだから、じゃ、あとはふたりで話し合っとけな」

 アライトはそれだけを言い残し、栗鼠のまま窓に駆け寄ると、さっさと外へと出て行ってしまった。



「で、どうして私に張り付いてるの?」

 イヴリンは目の前の男に顔を顰めてみせる。
 今朝になってアライトを見送った後、何故だかこの戦神の司祭が自分の目の前の席に座って朝食を食べ始めたのだ。
 そのままやたらと話しかけてきては、イヴリンをここに留めようとするのは、どういうことか。

「我が神に妹の行方の手掛かりを求めたところ、あなたに付いていれば難なく会えるとお応えくださったのですよ、お嬢さん」

 オーウェン・カーリスと名乗った男は、イヴリンが聞いてもいないのに、席に座るなりエルヴィラという名の妹を探しているのだと語った。
 顎のあたりで短く切り揃えたオレンジに近い赤毛に夏空を思わせる真っ青な目は、アライトの言葉によれば、確かに色が変わる前のエルヴィラによく似ているという。

「そんなこと私に言われたって、困るわよ」

 早くアライトが帰って来ないだろうかと考えながら、イヴリンはますます顔を顰めた。朝方、司祭には関わらないことにしようと話したばかりだったのに、どうしてこんなことになってるんだろう。

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