クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

文字の大きさ
117 / 152
鹿角の町

わからないなら

しおりを挟む
「やっぱり、イヴリンはすごいな」
「もう、だから“すごい”はやめてよ」

 苦笑するイヴリンに、エルヴィラは「だって、すごいとしか言いようがないんだ」とやっぱり笑った。

「アライトはちょっとヘタレな竜だけど、イヴリンと一緒なら大丈夫だな」
「やだ、ひどい言い草だわ。アライトはあれで気は利くし、とっても優しいのよ」

 イヴリンの言葉に、むう、とエルヴィラは眉を寄せ、それからふと顔を上げた。

「そうだな。イヴリンは、最初からアライトの特別だったからな」
「何それ」
「だって、私を浚ったときの扱いはほんとうに酷かったんだぞ。ほとんど珍獣か金貨袋みたいだったんだ。なのに、イヴリンの時は最初からちゃんと丁寧にだいじに、女の子として扱ってたじゃないか」
「え?」
「だからきっと、イヴリンは最初からアライトの特別だったんだ」
「……やだ、ほんとに?」

 にこ、と笑うエルヴィラの言葉に、イヴリンの顔が赤くなる。

 条件がいいとかなんとか言い訳のようなことを言いつつ、結局イヴリンにとってもアライトが特別なんだとエルヴィラは思う。こういうのいいな、と。
 考えてみたら、どんな子が生まれるかもよくわからない異種族同士で子供を作るんだから、ちょっとやそっとの決心じゃないはずだ。
 やっぱりイヴリンはすごい。

「生まれた子が似るなら、絶対イヴリンだな。きっとすごい子になる。間違いない」
「ねえ、エルヴィラって私のことなんだと思ってるのよ」

 呆れたように吐息を漏らすイヴリンに、エルヴィラは、あは、と笑う。

「そりゃもちろん、イヴリンは最高にすごくていい女だって思ってるぞ。それで、私のいちばんの友達なんだ」
「もう……」

 観念したように、イヴリンは眉尻を下げて困った顔で笑みを浮かべる。

「エルヴィラにはかなわないわね」



 それからまだまだ、アライトは冬の間中忙しくあちこちを動き回っていた。

「なんせ、あんたらがいるうちに、全部済ませとかないとな」

 朝食をかき込みながら、アライトはそう言って頷く。

「なんでだ?」
「今なら、俺がいなくてもあんたらがイヴリンについててくれるからだよ。あんたらがこの町を出た後は、俺がイヴリンについてないといけないし」
「ずっとついてないといけないのか?」
「馬鹿だなエルヴィラ。ついてなきゃ護れないだろうが。巣を整えて妻子を護るのは、雄の役目なんだよ」
「むう……」

 ここでなんでアライトに馬鹿と言われなくてはならないのか。
 どうも納得がいかなかったが、彼の心意気はもっともだったので、「そうか」とエルヴィラも頷く。

「ならば、私がいる間は安心していいぞ。戦神の猛き御名と天空輝ける太陽、それにミケのリュートにかけて、イヴリンと子供はしっかり護ってやるからな」
「あんたのそういうところは信用してるんだ」

 にやっと笑むように目を細めるアライトに、エルヴィラは「任せろ」と胸を叩いた。むろん、言われなくてもここにいる間は護るつもりだったのだ。

「あ、そうだ」

 そういえば、とアライトが何か思い出したように、宙を見上げる。

「昨日、そばの森を飛んだ時に、良さそうな場所があったんだよ。静かで獣も多いし、小さいけど水場もあってな」
「そこを巣穴にするのか?」
「ああ。町も近いし、そこならイヴリンも気に入るんじゃないかと思うんだ。子供が育つまでは数年あるし、その間に整えようかと思ってる」

 穴を掘ったり職人を頼んだりといろいろ手を入れなければならないが、いい巣穴が作れそうだとアライトはご機嫌だ。
 やっぱり、イヴリンはアライトの特別なんだ。

「じゃあ、この町のあたりに本格的に住むことになるんだな」
「そうだな。あんまりあちこち渡り歩くのも落ち着かないし、イヴリンにも負担がかかるから。ここらで決まってよかったよ。
 それで、“一攫千金の町”に行った折には、ナイエに俺がここに落ち着いたこと、伝えてくれないか?」
「ああ、わかった」

 ナイエとはずいぶん気が合ってたようだし、そのうち彼らがこの町を訪ねてくるのかもしれない――そう考えるのは、とても楽しいことだ。

 じゃ、と言って席を立つアライトに手を振って、エルヴィラはのんびりと茶を頼む。
 ふうふうと冷ましながら飲んでいると、ミーケルがのんびりと起きてきた。

「ゆっくりだな。アライトはもう出かけたぞ」
「君らみたいに朝っぱらから働かなくてもいい身分なんだよ、僕は」

 まだ少し眠いのか、ふああと大きく欠伸をする。
 身分とか関係なくて、単に夜更かしをしてただけなのに。
 それから、ふと思いついてミーケルに尋ねてみた。

「なあ、ミケ。ミケにも特別があるのか?」

 特別? とミーケルは一瞬首を捻り、それからすぐに顔を顰め、胡乱な目でエルヴィラを見返す。

「……それを、君が、訊くの? 僕に?」

 やけにゆっくりと尋ね返すミーケルに、エルヴィラも小さく首を捻った。

「だって、気になるんだ」
「あのさ、ほんとうにわからないの?」
「何をだ?」

 わからないから訊いたのに、なぜそんな残念なものを見る顔になるのか……納得がいかないと顔を顰めるエルヴィラに向かって、ミーケルは大きく嘆息する。

「秘密」
「えっ」
「わからないなら、秘密」
「そんな! まさかほんとうにミケに特別がいるのか!?」

 目を眇めてにやっと笑い、「教えてくれ!」と縋るエルヴィラを放置してミーケルはそのまま朝食を食べ始めた。

 わからないなら、そのままずっと気にし続けてればいいのだ。
 アライトとイヴリンのことはあれだけわかるくせに、なぜ自分のことになるとこうなのか。

 背中に抱き付いて「ミケ、ミケ」と連呼するエルヴィラをちらりと見て、ミーケルはもうひとつ溜息を吐いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...