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鹿角の町
わからないなら
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「やっぱり、イヴリンはすごいな」
「もう、だから“すごい”はやめてよ」
苦笑するイヴリンに、エルヴィラは「だって、すごいとしか言いようがないんだ」とやっぱり笑った。
「アライトはちょっとヘタレな竜だけど、イヴリンと一緒なら大丈夫だな」
「やだ、ひどい言い草だわ。アライトはあれで気は利くし、とっても優しいのよ」
イヴリンの言葉に、むう、とエルヴィラは眉を寄せ、それからふと顔を上げた。
「そうだな。イヴリンは、最初からアライトの特別だったからな」
「何それ」
「だって、私を浚ったときの扱いはほんとうに酷かったんだぞ。ほとんど珍獣か金貨袋みたいだったんだ。なのに、イヴリンの時は最初からちゃんと丁寧にだいじに、女の子として扱ってたじゃないか」
「え?」
「だからきっと、イヴリンは最初からアライトの特別だったんだ」
「……やだ、ほんとに?」
にこ、と笑うエルヴィラの言葉に、イヴリンの顔が赤くなる。
条件がいいとかなんとか言い訳のようなことを言いつつ、結局イヴリンにとってもアライトが特別なんだとエルヴィラは思う。こういうのいいな、と。
考えてみたら、どんな子が生まれるかもよくわからない異種族同士で子供を作るんだから、ちょっとやそっとの決心じゃないはずだ。
やっぱりイヴリンはすごい。
「生まれた子が似るなら、絶対イヴリンだな。きっとすごい子になる。間違いない」
「ねえ、エルヴィラって私のことなんだと思ってるのよ」
呆れたように吐息を漏らすイヴリンに、エルヴィラは、あは、と笑う。
「そりゃもちろん、イヴリンは最高にすごくていい女だって思ってるぞ。それで、私のいちばんの友達なんだ」
「もう……」
観念したように、イヴリンは眉尻を下げて困った顔で笑みを浮かべる。
「エルヴィラにはかなわないわね」
それからまだまだ、アライトは冬の間中忙しくあちこちを動き回っていた。
「なんせ、あんたらがいるうちに、全部済ませとかないとな」
朝食をかき込みながら、アライトはそう言って頷く。
「なんでだ?」
「今なら、俺がいなくてもあんたらがイヴリンについててくれるからだよ。あんたらがこの町を出た後は、俺がイヴリンについてないといけないし」
「ずっとついてないといけないのか?」
「馬鹿だなエルヴィラ。ついてなきゃ護れないだろうが。巣を整えて妻子を護るのは、雄の役目なんだよ」
「むう……」
ここでなんでアライトに馬鹿と言われなくてはならないのか。
どうも納得がいかなかったが、彼の心意気はもっともだったので、「そうか」とエルヴィラも頷く。
「ならば、私がいる間は安心していいぞ。戦神の猛き御名と天空輝ける太陽、それにミケのリュートにかけて、イヴリンと子供はしっかり護ってやるからな」
「あんたのそういうところは信用してるんだ」
にやっと笑むように目を細めるアライトに、エルヴィラは「任せろ」と胸を叩いた。むろん、言われなくてもここにいる間は護るつもりだったのだ。
「あ、そうだ」
そういえば、とアライトが何か思い出したように、宙を見上げる。
「昨日、そばの森を飛んだ時に、良さそうな場所があったんだよ。静かで獣も多いし、小さいけど水場もあってな」
「そこを巣穴にするのか?」
「ああ。町も近いし、そこならイヴリンも気に入るんじゃないかと思うんだ。子供が育つまでは数年あるし、その間に整えようかと思ってる」
穴を掘ったり職人を頼んだりといろいろ手を入れなければならないが、いい巣穴が作れそうだとアライトはご機嫌だ。
やっぱり、イヴリンはアライトの特別なんだ。
「じゃあ、この町のあたりに本格的に住むことになるんだな」
「そうだな。あんまりあちこち渡り歩くのも落ち着かないし、イヴリンにも負担がかかるから。ここらで決まってよかったよ。
それで、“一攫千金の町”に行った折には、ナイエに俺がここに落ち着いたこと、伝えてくれないか?」
「ああ、わかった」
ナイエとはずいぶん気が合ってたようだし、そのうち彼らがこの町を訪ねてくるのかもしれない――そう考えるのは、とても楽しいことだ。
じゃ、と言って席を立つアライトに手を振って、エルヴィラはのんびりと茶を頼む。
ふうふうと冷ましながら飲んでいると、ミーケルがのんびりと起きてきた。
「ゆっくりだな。アライトはもう出かけたぞ」
「君らみたいに朝っぱらから働かなくてもいい身分なんだよ、僕は」
まだ少し眠いのか、ふああと大きく欠伸をする。
身分とか関係なくて、単に夜更かしをしてただけなのに。
それから、ふと思いついてミーケルに尋ねてみた。
「なあ、ミケ。ミケにも特別があるのか?」
特別? とミーケルは一瞬首を捻り、それからすぐに顔を顰め、胡乱な目でエルヴィラを見返す。
「……それを、君が、訊くの? 僕に?」
やけにゆっくりと尋ね返すミーケルに、エルヴィラも小さく首を捻った。
「だって、気になるんだ」
「あのさ、ほんとうにわからないの?」
「何をだ?」
わからないから訊いたのに、なぜそんな残念なものを見る顔になるのか……納得がいかないと顔を顰めるエルヴィラに向かって、ミーケルは大きく嘆息する。
「秘密」
「えっ」
「わからないなら、秘密」
「そんな! まさかほんとうにミケに特別がいるのか!?」
目を眇めてにやっと笑い、「教えてくれ!」と縋るエルヴィラを放置してミーケルはそのまま朝食を食べ始めた。
わからないなら、そのままずっと気にし続けてればいいのだ。
アライトとイヴリンのことはあれだけわかるくせに、なぜ自分のことになるとこうなのか。
背中に抱き付いて「ミケ、ミケ」と連呼するエルヴィラをちらりと見て、ミーケルはもうひとつ溜息を吐いた。
「もう、だから“すごい”はやめてよ」
苦笑するイヴリンに、エルヴィラは「だって、すごいとしか言いようがないんだ」とやっぱり笑った。
「アライトはちょっとヘタレな竜だけど、イヴリンと一緒なら大丈夫だな」
「やだ、ひどい言い草だわ。アライトはあれで気は利くし、とっても優しいのよ」
イヴリンの言葉に、むう、とエルヴィラは眉を寄せ、それからふと顔を上げた。
「そうだな。イヴリンは、最初からアライトの特別だったからな」
「何それ」
「だって、私を浚ったときの扱いはほんとうに酷かったんだぞ。ほとんど珍獣か金貨袋みたいだったんだ。なのに、イヴリンの時は最初からちゃんと丁寧にだいじに、女の子として扱ってたじゃないか」
「え?」
「だからきっと、イヴリンは最初からアライトの特別だったんだ」
「……やだ、ほんとに?」
にこ、と笑うエルヴィラの言葉に、イヴリンの顔が赤くなる。
条件がいいとかなんとか言い訳のようなことを言いつつ、結局イヴリンにとってもアライトが特別なんだとエルヴィラは思う。こういうのいいな、と。
考えてみたら、どんな子が生まれるかもよくわからない異種族同士で子供を作るんだから、ちょっとやそっとの決心じゃないはずだ。
やっぱりイヴリンはすごい。
「生まれた子が似るなら、絶対イヴリンだな。きっとすごい子になる。間違いない」
「ねえ、エルヴィラって私のことなんだと思ってるのよ」
呆れたように吐息を漏らすイヴリンに、エルヴィラは、あは、と笑う。
「そりゃもちろん、イヴリンは最高にすごくていい女だって思ってるぞ。それで、私のいちばんの友達なんだ」
「もう……」
観念したように、イヴリンは眉尻を下げて困った顔で笑みを浮かべる。
「エルヴィラにはかなわないわね」
それからまだまだ、アライトは冬の間中忙しくあちこちを動き回っていた。
「なんせ、あんたらがいるうちに、全部済ませとかないとな」
朝食をかき込みながら、アライトはそう言って頷く。
「なんでだ?」
「今なら、俺がいなくてもあんたらがイヴリンについててくれるからだよ。あんたらがこの町を出た後は、俺がイヴリンについてないといけないし」
「ずっとついてないといけないのか?」
「馬鹿だなエルヴィラ。ついてなきゃ護れないだろうが。巣を整えて妻子を護るのは、雄の役目なんだよ」
「むう……」
ここでなんでアライトに馬鹿と言われなくてはならないのか。
どうも納得がいかなかったが、彼の心意気はもっともだったので、「そうか」とエルヴィラも頷く。
「ならば、私がいる間は安心していいぞ。戦神の猛き御名と天空輝ける太陽、それにミケのリュートにかけて、イヴリンと子供はしっかり護ってやるからな」
「あんたのそういうところは信用してるんだ」
にやっと笑むように目を細めるアライトに、エルヴィラは「任せろ」と胸を叩いた。むろん、言われなくてもここにいる間は護るつもりだったのだ。
「あ、そうだ」
そういえば、とアライトが何か思い出したように、宙を見上げる。
「昨日、そばの森を飛んだ時に、良さそうな場所があったんだよ。静かで獣も多いし、小さいけど水場もあってな」
「そこを巣穴にするのか?」
「ああ。町も近いし、そこならイヴリンも気に入るんじゃないかと思うんだ。子供が育つまでは数年あるし、その間に整えようかと思ってる」
穴を掘ったり職人を頼んだりといろいろ手を入れなければならないが、いい巣穴が作れそうだとアライトはご機嫌だ。
やっぱり、イヴリンはアライトの特別なんだ。
「じゃあ、この町のあたりに本格的に住むことになるんだな」
「そうだな。あんまりあちこち渡り歩くのも落ち着かないし、イヴリンにも負担がかかるから。ここらで決まってよかったよ。
それで、“一攫千金の町”に行った折には、ナイエに俺がここに落ち着いたこと、伝えてくれないか?」
「ああ、わかった」
ナイエとはずいぶん気が合ってたようだし、そのうち彼らがこの町を訪ねてくるのかもしれない――そう考えるのは、とても楽しいことだ。
じゃ、と言って席を立つアライトに手を振って、エルヴィラはのんびりと茶を頼む。
ふうふうと冷ましながら飲んでいると、ミーケルがのんびりと起きてきた。
「ゆっくりだな。アライトはもう出かけたぞ」
「君らみたいに朝っぱらから働かなくてもいい身分なんだよ、僕は」
まだ少し眠いのか、ふああと大きく欠伸をする。
身分とか関係なくて、単に夜更かしをしてただけなのに。
それから、ふと思いついてミーケルに尋ねてみた。
「なあ、ミケ。ミケにも特別があるのか?」
特別? とミーケルは一瞬首を捻り、それからすぐに顔を顰め、胡乱な目でエルヴィラを見返す。
「……それを、君が、訊くの? 僕に?」
やけにゆっくりと尋ね返すミーケルに、エルヴィラも小さく首を捻った。
「だって、気になるんだ」
「あのさ、ほんとうにわからないの?」
「何をだ?」
わからないから訊いたのに、なぜそんな残念なものを見る顔になるのか……納得がいかないと顔を顰めるエルヴィラに向かって、ミーケルは大きく嘆息する。
「秘密」
「えっ」
「わからないなら、秘密」
「そんな! まさかほんとうにミケに特別がいるのか!?」
目を眇めてにやっと笑い、「教えてくれ!」と縋るエルヴィラを放置してミーケルはそのまま朝食を食べ始めた。
わからないなら、そのままずっと気にし続けてればいいのだ。
アライトとイヴリンのことはあれだけわかるくせに、なぜ自分のことになるとこうなのか。
背中に抱き付いて「ミケ、ミケ」と連呼するエルヴィラをちらりと見て、ミーケルはもうひとつ溜息を吐いた。
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