クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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護森

捕まったのは

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「……すごいって、ヴィーはいつもそれだなあ」
「だって、すごいとしか言いようがない」

 ミーケルが呆れたように笑い、口を尖らせたエルヴィラがむうっと睨む。

「歌姫は、世界にあるきれいなもののことを歌ってたって、ミケが言ったんだ。この森はこんなにきれいだろう? “大災害”の前の“嵐の国”も、すごくきれいな国だったんじゃないのか? 歌姫は、きっと、だから王になったんだ」

 シェイファラルは目を瞠り……くつくつと大きな身体を震わせて笑い出す。く、く、とひとしきり笑い、エルヴィラの顔を覗き込んだ。

「さすが、歌姫の末裔すえの唯一となるだけある」
「……え? 唯一!?」

 シェイファラルの言葉に素っ頓狂な声を上げ、エルヴィラが振り返った。

「今さら? シェイファラルに紹介したときに、そう言ったじゃないか」

 ぽかんと呆れた顔のミーケルに言われて、エルヴィラは眉を顰める。

「……そう、だったか?」
「まさか聞いてなかった?」

 ますます呆れたように、ミーケルが瞠目する。

「え、き、聞いてたけど、ご先祖って、驚いたから……」
「ヴィーはいつも肝心なことを聞いてない気がするよ」

 呆れ顔のまま肩を竦められて、エルヴィラは思わず目を泳がせて……それから、もう一度さっきの言葉を思い出す。

「そ、そんなことない……そ、それより、ミケ、唯一って!」
「……何度言えばわかるのさ。唯一って言ったら、唯一だよ」

 ぶるぶる震えながら、エルヴィラがぎゅうっと抱きつく。

「ちょ、どうしたの」
「唯一って言った」

 抱きついたままぐりぐり頭を擦り付けるエルヴィラの背を撫でて、落ち着かせるようにとんとんと叩きながら、はあ、と溜息を吐いた。
 寝そべるように首を下ろしておもしろそうにそんな2人をじっと見ながら、シェイファラルはにいっと目を細める。

「どうやら、エイシャの末裔すえの言葉は今ひとつ軽いようだな。きちんと届いてないのではないか?」
「……そんなつもり、ないんだけどな」

 たしかに、いつになったらこんな大袈裟な反応を返さなくなるのだろうか。何か言うたびにこんな反応が返ってくる間はまだまだということか。
 ふと、抱きついていた腕が緩み、エルヴィラが顔を上げる。

「なあ、ミケ」
「ん?」
「今、気がついたんだ」
「何が?」

 また妙なことを言い出して暴走するんだろうか。ミーケルは思わず身構える。

「歌姫が王だったってことは、もしかして、ミケは王族ってことなのか?」

 予想外の質問に思わず言葉に詰まると、シェイファラルがちらりとミーケルを見やり、鷹揚に頷いた。

「たしかに、王族だな。“嵐の国”ストーミアン王家の正当な末裔だ」

 ミーケルは顔を顰める。そんなことを聞いて、エルヴィラがまた変なことを考えて拗らせたらどうしよう、と。

「……それを言うなら、せめて“元”を付けてよ。だいたい、治めるような土地も民も何も持ってないのに王族とかないだろう? ただの胡散臭い自称じゃないか」
「でっ、でも、もしかして、ミケは家の跡継ぎなんじゃないのか?」

 見上げるエルヴィラの顔には、まるでこんな“変容”したわけのわからない人間に関わっていていいのかと書いてあるようだ。

「継ぐようなものがあるわけないだろう? “大災害”で文字通り国がなくなって、ようやくうちの家系の念願だった自由な暮らしが手に入ったんだ。王様なんて面倒なものに戻るわけないね。貴族だって冗談じゃない。僕は詩人のほうが向いてるんだよ」

 にやにやと笑うようなシェイファラルにじっと見られて、非常に居心地が悪い。
 少し憮然とした顔のまま、ミーケルはエルヴィラの頭にキスをする。

「だから変な気を回すのはやめてよね。ヴィーが何か変に考え出すと、ろくなことにならないんだから」
「う……わかった」


 * * *


「ねえ、シェイファラル。あなたはいつ歌姫に捕まったのさ?」

 ミーケルは、傍らですうすうと寝息を立てて熟睡しているエルヴィラにちらりと目をやる。あの後、今度はミーケルがシェイファラルへと語る物語を聞きながら、興奮しきった子供のようにはしゃいでたのに急に静かになって、気づいたら寝ていたのだ。

「……覚えてはいないな。気づいたら捕まっていた。離れるのは無理だった」

 シェイファラルの言葉にミーケルも自嘲気味にくすりと笑う。やっぱりそういうものか、なんて呟いて。

「僕もだよ。気づいたら捕まってたんだ」

 横から何かを探すように伸ばされてきたエルヴィラの手を握る。

「最初は面倒くさいと思ってたし、どう考えても面倒にしかならないってわかってたから、どうにかして逃れようと思ってたはずなのにね」
「ほう?」

 にやっと笑うシェイファラルに、ミーケルは観念したように空を仰いだ。
 たしかに本気で逃げようと考えてたはずだったんだ、最初は。

「──おかしいなと思ったのは、金貨五万枚でエルヴィラを買うと言われた時だよ。オットーの申し出にめちゃくちゃ腹が立ってさ。僕の主義にも反するし、何より金貨五万枚なんて、ヴィーがそんなに安いわけあるかとも思ったんだ」
「主義?」

 伺うようなシェイファラルに、ミーケルは少し困ったようにくすりと笑い、それから眉間にくっきりと皺を刻む。

「……僕は、自分の自由の次に他人の自由も尊重してるつもりだよ。ひとをまるで物のように売って奴隷に落とすのは、ごめんだ」
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