クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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護森

いったい、いつから

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 エルヴィラがオットーに呼ばれた日――ミーケルはあの日のことを思い返す。
 仕事が終わった直後にいきなり呼び出され、いったい何だと訝しみながらオットーの館へと向かった、あの日のことを。

 あの場で、よくわかってない顔のエルヴィラにも腹が立ったし、何よりオットー自身、“振り”を装いながらもあわよくばと、本気でエルヴィラを買おうとしていたことが気に入らなかった。

「なるほど」

 シェイファラルが満足げに鼻を鳴らす。ミーケルも、またふっと苦笑を浮かべる。

「本気でどうでもよければ、“ローレライ”の時も放っておけばよかったんだ。
 エルヴィラがやられたって僕に何かあるわけじゃない。けれど、書き置きを見て、行かずにいられなかったんだ。体調もぼろぼろのフラフラだったのにだよ」

 はあ、と眉を顰めて息を吐く。自分の行動がままならないなんて、まったくもって何をしているのか。

「ミーケル、では聞こうか。そもそも、最初に彼女を選んだのは何故だ?」
「最初?」

 最初って?
 じっと自分を見つめ続けるシェイファラルをミーケルは怪訝そうに見返した。

「そう、最初だ。お前が彼女に関わることになった、きっかけのことだよ」

 伺うように首を傾げるシェイファラルに、ミーケルは「ああ」と頷く。
 エルヴィラと関わることになった原因といえば、もちろんあの侯爵令嬢からのとんでもない申し入れだ。

「都の侯爵家の令嬢の申し出があんまりどうしようもなくって、お行儀よくしてるのも嫌になっちゃってさ」
「ほう?」
「いちばん馬鹿にした形で断るにはって考えて、目に入ったのがヴィーだった」

 あの令嬢の横で、呆れながらも職務を全うしようとしていたエルヴィラを思い出す。お仕着せの騎士服を着込み、身形はそれなりに整えていたけど、長い赤毛は無造作に纏めただけで化粧っ気もなく……あのごてごてと過剰なくらいに飾り立てた姫や侍女たちとは、まったく違って見えたのだ。

「まっすぐこっちを見据える強い視線とか、しっかり伸びた背中とか、すれてない雰囲気とか、そういうのが良いんじゃないかと思ったんだよね。
 令嬢と全然違うタイプだったし」
「なんだ、最初から自ら捕まりに行ってたのではないか」
「え? そう?」

 にやにやと目を細めて楽しそうに口角を上げるシェイファラルに、ミーケルは眉根を寄せる。さすがに最初からなんてことはない……はずなのに。

「どうでもいいと言っていたわりに、よく見ていたではないか」
「そう? 普通じゃない?」

 そんなつもりはないんだけど、と呟きながらミーケルは考え込む。

「お前のような末裔すえを見ていてわかったのだが、たとえ血は薄まっても竜の性質のようなものは間違いなく継承される。お前にもそれが出ただけのことだ。
 特に青銅竜や銀竜は、これという相手を見つけると、自覚のないうちから唯一と定めてしまう性向が強いからな」
「え? そんなわけないし、そんなの聞いてないんだけど?」
「生き物としての本能なのだ。諦めろ」

 引き攣ったような笑みを浮かべて、ミーケルがぱっと顔を上げた。
 寝そべったまま糸のように目を細くして笑うシェイファラルに顔を顰める。

「さらに言うならだ。
 お前の話を聞いていると、なんだかんだともっともらしい言い訳をしながら、結局エルヴィラがついて回ることを許していたではないか」
「そこまで……?」

 ミーケルは唖然とシェイファラルを見上げる。

「最初のいちどだけならともかくとしてもだ。都からろくに離れたこともなく、諜報や人探しの基礎など齧ったことすらなさそうなエルヴィラが、よくもまあ、そんな短時間でお前を見つけ出して追いついて来られたものだな」
「なっ、ちょっと、そこまで言う!?」

 慌てるミーケルに、シェイファラルはさらに楽しそうに身体を揺らす。

 けれどたしかに、シェイファラルの言うことはもっともなのだ。一度目だけなら追われてるとは思わなかったというのもあるだろう。
 だけど、二度目もだ。
 いくらミーケルが目立つ吟遊詩人だといっても、エルヴィラがひとりでああも的確に、あんなに早く探し出せるなんて――ミーケルがわざとそう仕向けていたとしか思えないのではないか。
「なんだよそれ……まるで僕が最初からエルヴィラを誘い出してたみたいだ」
「みたいもなにも、そうじゃないのか?」

 明らかに面白がっている視線でちろりと見られて、ミーケルは思わず赤面してしまう。なんなんだ、調子が狂う。

 ついでに言うなら。

 エルヴィラには誓いの言葉を一部変えて、「顔も見たくなくなったら」などとは言ったけれど、そんな事態がこの先起こるなんて、想像もできない。
 エルヴィラは相変わらずしっかりとミーケルの手を握ったまますうすうと熟睡していて、起きる気配は欠片もない。
 その、完全に油断しきった寝顔に、はあ、と気が抜けてしまった。

「なんだか、何を言い訳しても今さらという気がしてきたよ」
「そのとおりだ、諦めろ」

 くつくつと笑う竜にもういちど顔を顰めて、ミーケルは不貞寝でもするかのように、ごろりと横になった。


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