クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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湖水の町

それなら

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「でもねえ、オジーがエルヴィラさんのご両親にご挨拶がまだだっていうのは、やっぱりよくないわ」

 その言葉と一緒に、ふたりの咎めるような視線が再びミーケルに向けられた。途端に、エルヴィラのほうが慌てて立ち上がる。
「ちっ、違うんだ。その、私が、こんななりになってしまって、少し帰りづらくて、その、父上の勘当も解けてないし、あ、兄上から事情はいってるだろうが、母上もどう言っているか、その、いろいろとあって、その……」

 おろおろと要領を得ないエルヴィラの説明に、アルヴァーがどういうことかとミーケルに目で問う。

「ヴィー、大丈夫だから落ち着いて」

 立ち上がったエルヴィラをとりあえず座らせるが、視線をあちこちに彷徨わせてまったく落ち着かない。

「ご、ごめん、ミケ。私のせいだ。私のせいでミケが責められてしまう」
「大丈夫だって言ったろう?」

 混乱するエルヴィラをよしよしと宥めて落ち着かせながら、ミーケルは父親に向き直った。アルヴァーは相変わらず顔に笑みを浮かべながら、けれどあまり笑っていない目でやっぱりどういうことかと問うている。

「いろいろと事情があるんだよ。だからその話は」
「オジー?」

 低く呼ばれて、ミーケルはうぐっと言葉に詰まった。笑みを浮かべたまま、アルヴァーは首を傾げるようにしてミーケルをじっと見つめている。
 これは、あいまいにして流すことはできなさそうだ。

「――僕が関わることで、ヴィーはもと雇い主の都の侯爵令嬢の不興を買って解雇された。それを重く見た父親から、勘当を言い渡されてしまったんだ」

 ベリトが目を見開き、「まあ」と両手を口にあてる。何を言い始めるのかと、ぎょっとしたエルヴィラがミーケルを見上げて上着を掴んだ。

「それに、ヴィーの家は昔から戦神教会に司祭を輩出してる家だってさっき言っただろう? けど、事故で“変容”してしまってから、ヴィーはまだ一度も親に会ってない」
「そ、それはミケのせいじゃない。“変容”は少しだけ残念だけど、あのときああしたことは、後悔してない。それに、ミケは私のこと変わってないって言ってくれたから!」

 ぎゅうっとミーケルに抱き付いて、エルヴィラは目を瞑る。そんなことまで言う必要はないのに。

「そうなの。
 ねえアル、オジーったら結構責任感のある子だったみたいだわ?」
「そうみたいだね、ベリトさん」

 ベリトはアルヴァーにうふっと笑う。

「けれど、そういうことなら、“変容”が治って勘当が解ければオジーは責任を感じなくても済むのね?」
「な……何言い出すんだ、母さ」

 ベリトが立ち上がりひらりと手を振ると、またいきなり身体が固まって、ミーケルはそれ以上言葉を続けられなくなってしまう。
 顔を上げたエルヴィラの目の前にベリトが回り込み、腰を屈めて目を合わせた。

「エルヴィラさん。その“変容”を治して、我がストーミアン家の名に置いてあなたのお父上に親書を送りましょう……ねえアル、我が家からの正式な謝罪と取りなしを、カーリス家の御当主に送ってくれるわよね?」

 振り返るベリトに、アルヴァーが笑って頷く。

「そうしたら、あなたもオジーも、お互いを負い目と思う必要がなくなるわ」
「え……そんな」

 負い目? ミーケルの?

「あなたもお家に帰れるし、問題はなくなるはずよ?」
「で、でも……」
「あなたのようないい子なら、きっともっとよい縁談もあるんじゃないかしら」

 エルヴィラはぐっと口を引き結ぶ。
 今さら、よい縁談なんて……ミーケルじゃないと嫌だってわかったのに。

「は、母君、私は、負い目とかじゃなくて、ただ、ミケのそばにいたいんだ。
 ……でも、その、ミケの負担になりたいとかじゃなくて……」
「エルヴィラさんは、うちの息子のどこがよかったのかしらね。
 我が息子ながら、もういい歳だというのにふらふらと落ち着きがなくて、おまけに何かあればすぐに逃げ出す子だっていうのに。
 ねえアル?」
「そうだね。僕たちの育て方が悪かったみたいで、この子が家を出てからしばらく、オジーはどこへ行ったんだって聞きに来る子があとを絶たなくてねえ」
「え」

 困ったように視線を合わせるアルヴァーとベリトに、エルヴィラは目を丸くする。

 そんな、地元でそんなことしていられなくなったから、外に出ることにした?
 でも、それは誓いより前のことだし――

「いっ、いい加減なこと吹き込まないでくれるかな!」

 急にぷはっと息を吐いて、ようやく身体の自由が戻ったミーケルが声を荒げた。慌てたようにエルヴィラを抱き寄せ、じろりと母親を睨み付ける。

「いくらなんでも、この町でそんなわけないだろう!?」
「あら、でも、あなたがいつ帰ってくるのかって尋ねる女の子が多かったのは確かよ? オジーがなかなか帰って来なかったのは、そのせいでしょう?」
「そんなの知ったことじゃないよ。僕の与り知らないところで僕を責めるの、ほんとうにやめてくれないか」

 イライラとこめかみに青筋を立てるミーケルをなんとか抑えるようにもう一度抱きしめて、エルヴィラはベリトに向いた。

「は、母君に、父君。その、ミケは、私のことを父祖竜殿に唯一って紹介してくれたんだ。だから、ミケは、落ち着きがないわけでも、すぐ逃げ出すわけでもなくて……“ローレライ”の時だって体調を押して助けに来てくれたし、兄上の決闘だってちゃんと受けて勝ったんだ。だから、だから、そんなにミケのことを悪く言わないでくれ」

 エルヴィラの言葉に、アルヴァーとベリトは瞠目して顔を見合わせた。





*****

※両親のミケ信用度はわりと地の底です。

※ベリトさんの魔術メモ
【束縛の視線】
“邪眼”とも呼ばれる呪文。
文字通り、目を合わせた相手に麻痺やら魅了やらの効果を与える魔術。たった一言のキーワードと目を合わせるだけで発動する。
とても使い勝手がいいので、高位の魔術師に大人気であり、護身とかそのほか大っぴらに言えない理由などからよく習得している。
かなり高位の魔術であるため、脳筋以外でも引っかかりやすい。

【支配】
文字通り、対象を強制的に術者の意思に従わせる魔術。“魅了”の上位にあたる呪文。
 簡単な身振りと呪文で発動できるので、いいことから悪いことまで様々な理由により習得する魔術師は、やっぱり多い。
意思に反して身体を動かしたり意思に反して心を従わせたりと、ある程度集中が必要だが効果は高い。
これまた高位の魔術であるため、脳筋以外でも引っかかりやすい。
とはいえ、効果時間は長くて数分程度だしすぐ横にいて指示出ししないといけないため、使い所は難しい。


どっちにしても、自分の息子に気軽にかけるような魔術でないことはたしかである。
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