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湖水の町
転がるように話は進む
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「まさか、オジー、エルヴィラさんをシェイファラルの森に連れて行ったの?」
「そうだよ」
「オジーが? ほんとうに?
──ベリトさん、これはどうやら本物みたいだね」
「そうみたい。わたし驚いちゃった」
「え……?」
エルヴィラが呆然とミーケルから手を離す。
「最初からそう言ってるだろう。ヴィーがまた拗らせたら、ほんとうにどうしてくれるんだよ」
「み、ミケ。あの、その、私はいいんだけど、もしミケが、私の形に負い目を感じてとかなら、無理はしないで――」
「ああもう」
頭を掻き混ぜてぐいっと抱き締めて、ほら見ろともう一度ベリトを睨む。
「ヴィー、そんなものだけで君を“護森”まで連れてくわけないだろう?」
「ほ、ほんとうに?」
「ほんとうだよ」
「……よかった」
コンコンと、部屋をノックする音が響き、アルヴァーが「どうぞ」と返した。
すぐにガチャリと扉が開き、魔術師の長衣を着た女性と騎士服のようなお仕着せを着た女性のふたりが入る。
「母さま、オジーが帰ってきたという連絡はほんとうだったのね」
魔術師のほうがミーケルをちらりと見てにっこり笑う。
「それで、この方が兄さまのお嫁さん?」
騎士のほうも、ミーケルとエルヴィラを交互に見比べてにっこり笑う。
「わざわざ知らせてたんだ?」
「みっ、ミケの姉君と妹君か?」
面倒臭そうな視線を投げて疲れたように大きく溜息を吐くミーケルを見上げて、エルヴィラはそそくさと立ち上がった。
そのままピシッと背を伸ばし、深々と騎士の礼を取る。
「──わ、私は、“深淵の都”の戦神教会に縁深きカーリス家が長女エルヴィラと申し上げる。以降、どうかお見知りおきを」
エルヴィラをまじまじと見つめて、それからふたりは顔を見合わせた。
「……わたくしは、父祖竜シェイファラルと偉大なる救国の女王ウルリカに連なるストーミアン家が長女、“深森の国”王国魔術師団および魔術師協会所属の魔術師オルガです。この子は王国騎士団第三騎士隊第十二小隊所属の騎士フレヤ。
わたくしたちふたりとも、エルヴィラ殿を歓迎いたします。どうかわたくしのことはオリー、この子のことはレーヤと呼んでくださいませ」
微笑みと一緒にきれいな礼を返されて、エルヴィラはやっぱり緊張してしまう。
姉の方はアルヴァーに似た顔立ちの美人だし、妹の方はベリトに似て柔らかい雰囲気の、だけどきちんと鍛えていることがわかる所作の騎士だ。
ふたりともシェイファラルのような翠玉の瞳で、たしかにミーケルときょうだいなのだなと思う。
「まさか即行で帰ってくるとか、大袈裟だ」
不機嫌を隠すことなくぼそりと呟くミーケルに、オルガがくすりと笑った。
「だって、母さまの連絡があったんだもの。オジーがいつまでいるかの保証もないからって、大急ぎでレーヤにも知らせて早退と休暇の申請手続きを済ませてきたのよ。
おまけに、こっちに着いたらお嫁さんも連れてるっていうじゃない。間に合ってほんとうに良かったわ」
「まったく、姉さまの言うとおりよ。兄さまは帰ってきたと思ったらいつもいつの間にかいなくなってるんだもの。
わたしたち、五日はこっちにいられるの。だからエルヴィラさん、ゆっくりお話しましょうね。兄さまのこととか、いろいろ聞きたいわ」
「あ、ああ……こちらこそ……」
にこやかに手を差し出され握手を交わしながら、ミーケルの姉と妹が優しそうでよかったと、エルヴィラはほっとした。
「でもね、オリーにレーヤ。オジーも母さまたちも、急いで都に行かなきゃならないの。だからあまりゆっくりできないわ」
「母さま、どういうこと?」
困ったわ、と悩ましげに吐息を漏らすベリトに、フレヤが首を傾げる。
「だって、オジーったらエルヴィラさんのご両親への挨拶がまだなんだもの」
「……え?」
オルガもフレヤもぽかんと目を瞠り、それからミーケルへと視線を移した。
そのことにエルヴィラがまた慌ててしまう。これ以上ミーケルを責め立てたら、完全にヘソを曲げてしまうんじゃないか。
「ま、待ってくれ。いろいろあったからなんだ。だから大丈夫なんだ」
「ええ、事情があったのはわかったの。けど、だからってエルヴィラさんの言葉に甘えて放置しててはいけないわ。ねえ、アル?」
「ああ。だから……そうだね。明日でも明後日でも、準備ができたらすぐに都へ行こう。それから御当主に面会を申し込んで……こちらへ帰ってくるのは、当分先になってしまいそうだね」
にこりと笑うベリトと、やれやれと、けれどどこか楽しそうに首を振るアルヴァーを交互に見て、エルヴィラは途方に暮れたような顔をミーケルに向けた。
ミーケルが肩を竦めておいでおいでをするように手招く。少し逡巡して、エルヴィラはミーケルの隣に腰を下ろす。
「父さま、なら、その準備は? 手ぶらでというわけにはいかないわよ」
眉を寄せ、オルガが考え込むように尋ねる。アルヴァーは心得ているとでもいうように笑顔を浮かべた。
「だからお前たちにも少し手伝ってもらわなきゃならない」
当事者を置いてきぼりにどんどん話が進められている気がして、エルヴィラは思わずミーケルの身体に腕を回した。悪いことではないのだろうが、なかなか頭がついていかない。
ミーケルは少し不機嫌そうに「こうなるんじゃないかと思ってたよ」と呟いた。
「そうだよ」
「オジーが? ほんとうに?
──ベリトさん、これはどうやら本物みたいだね」
「そうみたい。わたし驚いちゃった」
「え……?」
エルヴィラが呆然とミーケルから手を離す。
「最初からそう言ってるだろう。ヴィーがまた拗らせたら、ほんとうにどうしてくれるんだよ」
「み、ミケ。あの、その、私はいいんだけど、もしミケが、私の形に負い目を感じてとかなら、無理はしないで――」
「ああもう」
頭を掻き混ぜてぐいっと抱き締めて、ほら見ろともう一度ベリトを睨む。
「ヴィー、そんなものだけで君を“護森”まで連れてくわけないだろう?」
「ほ、ほんとうに?」
「ほんとうだよ」
「……よかった」
コンコンと、部屋をノックする音が響き、アルヴァーが「どうぞ」と返した。
すぐにガチャリと扉が開き、魔術師の長衣を着た女性と騎士服のようなお仕着せを着た女性のふたりが入る。
「母さま、オジーが帰ってきたという連絡はほんとうだったのね」
魔術師のほうがミーケルをちらりと見てにっこり笑う。
「それで、この方が兄さまのお嫁さん?」
騎士のほうも、ミーケルとエルヴィラを交互に見比べてにっこり笑う。
「わざわざ知らせてたんだ?」
「みっ、ミケの姉君と妹君か?」
面倒臭そうな視線を投げて疲れたように大きく溜息を吐くミーケルを見上げて、エルヴィラはそそくさと立ち上がった。
そのままピシッと背を伸ばし、深々と騎士の礼を取る。
「──わ、私は、“深淵の都”の戦神教会に縁深きカーリス家が長女エルヴィラと申し上げる。以降、どうかお見知りおきを」
エルヴィラをまじまじと見つめて、それからふたりは顔を見合わせた。
「……わたくしは、父祖竜シェイファラルと偉大なる救国の女王ウルリカに連なるストーミアン家が長女、“深森の国”王国魔術師団および魔術師協会所属の魔術師オルガです。この子は王国騎士団第三騎士隊第十二小隊所属の騎士フレヤ。
わたくしたちふたりとも、エルヴィラ殿を歓迎いたします。どうかわたくしのことはオリー、この子のことはレーヤと呼んでくださいませ」
微笑みと一緒にきれいな礼を返されて、エルヴィラはやっぱり緊張してしまう。
姉の方はアルヴァーに似た顔立ちの美人だし、妹の方はベリトに似て柔らかい雰囲気の、だけどきちんと鍛えていることがわかる所作の騎士だ。
ふたりともシェイファラルのような翠玉の瞳で、たしかにミーケルときょうだいなのだなと思う。
「まさか即行で帰ってくるとか、大袈裟だ」
不機嫌を隠すことなくぼそりと呟くミーケルに、オルガがくすりと笑った。
「だって、母さまの連絡があったんだもの。オジーがいつまでいるかの保証もないからって、大急ぎでレーヤにも知らせて早退と休暇の申請手続きを済ませてきたのよ。
おまけに、こっちに着いたらお嫁さんも連れてるっていうじゃない。間に合ってほんとうに良かったわ」
「まったく、姉さまの言うとおりよ。兄さまは帰ってきたと思ったらいつもいつの間にかいなくなってるんだもの。
わたしたち、五日はこっちにいられるの。だからエルヴィラさん、ゆっくりお話しましょうね。兄さまのこととか、いろいろ聞きたいわ」
「あ、ああ……こちらこそ……」
にこやかに手を差し出され握手を交わしながら、ミーケルの姉と妹が優しそうでよかったと、エルヴィラはほっとした。
「でもね、オリーにレーヤ。オジーも母さまたちも、急いで都に行かなきゃならないの。だからあまりゆっくりできないわ」
「母さま、どういうこと?」
困ったわ、と悩ましげに吐息を漏らすベリトに、フレヤが首を傾げる。
「だって、オジーったらエルヴィラさんのご両親への挨拶がまだなんだもの」
「……え?」
オルガもフレヤもぽかんと目を瞠り、それからミーケルへと視線を移した。
そのことにエルヴィラがまた慌ててしまう。これ以上ミーケルを責め立てたら、完全にヘソを曲げてしまうんじゃないか。
「ま、待ってくれ。いろいろあったからなんだ。だから大丈夫なんだ」
「ええ、事情があったのはわかったの。けど、だからってエルヴィラさんの言葉に甘えて放置しててはいけないわ。ねえ、アル?」
「ああ。だから……そうだね。明日でも明後日でも、準備ができたらすぐに都へ行こう。それから御当主に面会を申し込んで……こちらへ帰ってくるのは、当分先になってしまいそうだね」
にこりと笑うベリトと、やれやれと、けれどどこか楽しそうに首を振るアルヴァーを交互に見て、エルヴィラは途方に暮れたような顔をミーケルに向けた。
ミーケルが肩を竦めておいでおいでをするように手招く。少し逡巡して、エルヴィラはミーケルの隣に腰を下ろす。
「父さま、なら、その準備は? 手ぶらでというわけにはいかないわよ」
眉を寄せ、オルガが考え込むように尋ねる。アルヴァーは心得ているとでもいうように笑顔を浮かべた。
「だからお前たちにも少し手伝ってもらわなきゃならない」
当事者を置いてきぼりにどんどん話が進められている気がして、エルヴィラは思わずミーケルの身体に腕を回した。悪いことではないのだろうが、なかなか頭がついていかない。
ミーケルは少し不機嫌そうに「こうなるんじゃないかと思ってたよ」と呟いた。
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