クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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湖水の町

やめるなら、今だけど

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「ミケ、ミケ、おふたりとも、ほんとうに明日か明後日には都へ行くんだろうか」

 ようやく用意された部屋に下がったところで、エルヴィラが不安げにミーケルの服の裾を引っ張る。ここから都まで相当な日数がかかってしまうはずだが、本当に大丈夫なのだろうか。

「たぶん本気だよ」

 長椅子に寝転がったミーケルが、はあ、と息を吐いた。あのふたりはいつだってやると言ったらやるのだ。
 でなきゃ、爵位の返上などという面倒なこと、いかにそういう約束だとはいってもあと何代か代を経なければ無理だったろう。

「本気……」

 じゃあ本当に都へ行くのかと、呆然とするエルヴィラの、ミーケルの服を掴む手から力が抜けて、すとんと落ちる。

「おいで」

 不意に起き上がったミーケルが、その手を取って引き寄せた。膝の上に座わらせてぐっと抱き寄せて、肩に頭を乗せる。

「何を心配してるの」
「だって、いいのか。ミケはそんなつもりでいるわけじゃないんだろう?」
「そんなつもりって?」
「こっ、このままだと、わ、わ、私と……そ、その……け……」
「なんだ、そんなこと心配してたの」
「そ……そんなこと」

 ミーケルがくすっと笑う気配がする。

「とりあえず置いといていいから」
「……置いといて」
「ん?」

 急に項垂れたエルヴィラに、ミーケルは顔を上げる。

「え、ちょっと待った。ヴィーは何を気にしてるの。まさか、今さら結婚だ何だ言われて不安になった?」
「み、ミケこそ、やめるなら、今だぞ」
「はあ?」
「だって、お嫁さんとか言われて、喜んでるのは、私だけだし……」

 ミーケルは「ああもう」と腕に力をこめてぎゅうっと抱き締めると、エルヴィラの髪に顔を埋めた。

 どうしていつもいつも、何かがあるたび、こうしてすぐに揺れてしまうのか。
 ここに来ると言った時点で、こうなることはわかってたはずなんじゃないのか。
 まさか、そこまでは考えていなかった?
 いや、そんなことはない……と思う。
 それなら、そんなに自分を信用できないのか。

 は、と吐息を漏らし、ミーケルは顔を上げる。

「だから何でそんなところですぐ変なこと考えるのかな、ヴィーは」

 身体をくるりと回し、自分のほうを向かせて顔を覗き込むと、エルヴィラの目は何かを怖がっているように揺れていた。

「どうしたらそれ、やめるのかな」
「やめる、って」
「そうやって、変に考え過ぎて引こうとするの」
「う……」

 眉を顰めるエルヴィラに、ちゅ、とキスをする。

「もっと……自分の剣の腕みたいに、自信持ってくれないかな」
「そ、それは……だって、無理だ。剣は私の身体だけど、ミケはそうじゃない」

 言葉を探すように、エルヴィラはきょろきょろと落ち着きなく視線を巡らせる。

「ミケには、ミケの気持ちがあるのに、私が勝手にするのはよくない」

 少し不貞腐れたようなエルヴィラに、ミーケルは、ふ、と柔らかく笑う。

「ヴィーはいつもそうだ。最初は、僕の意思を無視して無理やり既成事実を作ろうとしてたくせに」
「あれは……だって、その……焦ってたんだ。ミケがどこか行ってしまう前に、何か、繋がりが欲しかったし……離れない口実が欲しかったんだ」

 エルヴィラの言葉に、ミーケルが目を細める。
 どうして今さらそんなかわいいことを言い出すのか。

「今は? たくさん繋がりがあるだろう? それでもだめ?」
「そうだけど……」

 覗き込まれたエルヴィラの顔に朱が差す。

 今日少し聞いただけでも、やっぱりミーケルは女の子に人気があったのだ。
 もともとたいしたことがないうえに、こんな風に“変容”してしまった自分のようなやつに、どうしてミーケルがついていてくれるのかがわからない。
 それで、自信なんてどうしたら持てるのか。

「エルヴィラ」

 腰を抱くミーケルの腕に力がこもり、顔が目の前に迫った。鼻がぶつかり、エルヴィラの顔にミーケルの吐息が掛かる。
 わずかに伏せたミーケルの目が、じっとエルヴィラの目を覗き込む。

「僕はとっくの昔にエルヴィラに捕まってるって、どうしたらわかってくれる? まだ、何かが足りないの? エルヴィラは何が欲しい?」
「捕まって……?」
「そう。僕はもうずいぶん前から君に捕まってるよ。エルヴィラから離れようなんて、考えることすらできないくらいに」
「ミケ……?」

 唇を塞がれて、なぜかエルヴィラは焦ってしまう。
 ミーケルのようすがいつもと違う気がする。どうしてしまったのだろう。
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