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第二章 スパイス探し
6.ゴキブリ撃退のクローブ
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彼女の店に戻ると、もう夕方になっていた。
「こんなものしかありませんが……夕食にしますか」
彼女が出してきたぼそぼそのパンと俺が少し手直ししてマシになったドラゴンの肉のスープを俺たちは食べた。
「ねえ、マギーはどこに住んでいる?」
この小さな店とは別に彼女には寝起きする家があるのだろうと俺は思ったのだが……。
「ここです」
と彼女が指差したのは食器棚の下、本来は鍋なんかしまうための空間だった。
扉が外してあって、中に長座布団が敷いてある。
「え、ここで寝起きしてるの!? 嘘だ、こんな狭い場所で寝るなんて無理でしょ!?」
猫か犬ならともかく人間一人が入れるスペースなんてない。
いくら彼女が細くて小柄だからと言って、こんな場所で眠れるはずがない。
「こうやれば寝れます。最初はよく頭をぶつけましたが、慣れれば案外快適です」
彼女はそこへ後ろ向きにお尻から頭をすっぽり突っ込んで、ニーハイの靴下を穿いている足を棚の外へ投げ出して寝て見せた。
「ってことは、まさか俺が昼間、店に入って来たときに姿が見えなかったのって……」
「ここで寝てました。どうせお客なんか来ないと思って」
「おいおい、嘘だろ……。どうして、そんな……」
頭や体をぶつけないようにゆっくりと食器棚の下から出てきながら彼女は言った。
「この店、お客さんが全然来なくなっちゃって、売上なんてほとんどないんです。毎日、パンとスープ用意するだけ赤字です」
あのスープじゃねぇ……と俺は苦笑いした。
「そんな状況だからこの店の他に近所に借りていた部屋の家賃がもったいなくなって、アパートは解約しちゃいました。一日のほとんどはこの店にいますし、一人だし問題ないです」
一人? マギーには家族はいないのか……?
「……ここは君が始めた店なの?」
「いいえ、元は私の父が始めたお店です……。でも父は……」
そう言って彼女が遠い目をしたから、俺はそれ以上聞けなくなった。
どうやらこの子は、俺とよく似た生い立ちをしているみたいだ。
彼女は天涯孤独の身で、この店を一人で必死に守っているんだ……。
「……台所で暮らしてて苦労するのはゴキブリ退治ぐらいです。夜になるとたくさん出るんです」
しばらく黙り込んでいた彼女がおどけた調子でそう言った。
飲食店の厨房なんてどこもゴキブリだらけに決まっている。
おまけにこの建物は結構古いみたいだし、きれいにしていたって出ないはずがない。
「ゴキブリかぁ……、あ、そうだ!」
薬局でおじいさんから購入したクローブの実を俺はカバンから取り出した。
ごみ箱を見るとジャムの空き瓶があったから、
「これもらうね」
と声をかけた。
「もちろんいいですが、そんなもので何をする気ですか?」
「まあ見ててよ」
瓶にクローブの実を入れ自分のガーゼハンカチで蓋をしてひもで縛った。
「ゴキブリはクローブの香りが苦手なんだ。これで出なくなると思うよ」
そう言って彼女の寝床のそばへ置くと、彼女は大きな瞳を見開いて感激していた。
どうしてだろう、俺は彼女のこの表情を見ると胸がトクンと高鳴ってしまう……。
「さて、外はずいぶん暗くなってきたね。広場から人がいなくなった頃かな?」
「ええ、昼間よりはいないはずです。行ってみましょうか」
俺たちは月明かりを頼りに暗い広場で袋いっぱいに月桂樹の葉を集めた。
「こんなものしかありませんが……夕食にしますか」
彼女が出してきたぼそぼそのパンと俺が少し手直ししてマシになったドラゴンの肉のスープを俺たちは食べた。
「ねえ、マギーはどこに住んでいる?」
この小さな店とは別に彼女には寝起きする家があるのだろうと俺は思ったのだが……。
「ここです」
と彼女が指差したのは食器棚の下、本来は鍋なんかしまうための空間だった。
扉が外してあって、中に長座布団が敷いてある。
「え、ここで寝起きしてるの!? 嘘だ、こんな狭い場所で寝るなんて無理でしょ!?」
猫か犬ならともかく人間一人が入れるスペースなんてない。
いくら彼女が細くて小柄だからと言って、こんな場所で眠れるはずがない。
「こうやれば寝れます。最初はよく頭をぶつけましたが、慣れれば案外快適です」
彼女はそこへ後ろ向きにお尻から頭をすっぽり突っ込んで、ニーハイの靴下を穿いている足を棚の外へ投げ出して寝て見せた。
「ってことは、まさか俺が昼間、店に入って来たときに姿が見えなかったのって……」
「ここで寝てました。どうせお客なんか来ないと思って」
「おいおい、嘘だろ……。どうして、そんな……」
頭や体をぶつけないようにゆっくりと食器棚の下から出てきながら彼女は言った。
「この店、お客さんが全然来なくなっちゃって、売上なんてほとんどないんです。毎日、パンとスープ用意するだけ赤字です」
あのスープじゃねぇ……と俺は苦笑いした。
「そんな状況だからこの店の他に近所に借りていた部屋の家賃がもったいなくなって、アパートは解約しちゃいました。一日のほとんどはこの店にいますし、一人だし問題ないです」
一人? マギーには家族はいないのか……?
「……ここは君が始めた店なの?」
「いいえ、元は私の父が始めたお店です……。でも父は……」
そう言って彼女が遠い目をしたから、俺はそれ以上聞けなくなった。
どうやらこの子は、俺とよく似た生い立ちをしているみたいだ。
彼女は天涯孤独の身で、この店を一人で必死に守っているんだ……。
「……台所で暮らしてて苦労するのはゴキブリ退治ぐらいです。夜になるとたくさん出るんです」
しばらく黙り込んでいた彼女がおどけた調子でそう言った。
飲食店の厨房なんてどこもゴキブリだらけに決まっている。
おまけにこの建物は結構古いみたいだし、きれいにしていたって出ないはずがない。
「ゴキブリかぁ……、あ、そうだ!」
薬局でおじいさんから購入したクローブの実を俺はカバンから取り出した。
ごみ箱を見るとジャムの空き瓶があったから、
「これもらうね」
と声をかけた。
「もちろんいいですが、そんなもので何をする気ですか?」
「まあ見ててよ」
瓶にクローブの実を入れ自分のガーゼハンカチで蓋をしてひもで縛った。
「ゴキブリはクローブの香りが苦手なんだ。これで出なくなると思うよ」
そう言って彼女の寝床のそばへ置くと、彼女は大きな瞳を見開いて感激していた。
どうしてだろう、俺は彼女のこの表情を見ると胸がトクンと高鳴ってしまう……。
「さて、外はずいぶん暗くなってきたね。広場から人がいなくなった頃かな?」
「ええ、昼間よりはいないはずです。行ってみましょうか」
俺たちは月明かりを頼りに暗い広場で袋いっぱいに月桂樹の葉を集めた。
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