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34.スチュアートの風邪
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スチュアートが熱を出したのはその翌日のことだった。
朝になって私の世話をしにやって来たモニカにそう聞いた。
夜明け前から度々、彼のいる使用人部屋から苦しそうな咳が何度も聞こえていた。
昼近くになってスチュアートの寝ている部屋からスチュアート以外の男性二人の話し声が聞こえてきた。
老人っぽい声は医者で、もう一人の凛と澄んだ声は家令のアルフレッドだろう。
医者とその助手を見送りに出たアルフレッドを追い、私は赤いカーペットの敷かれた大階段を降り、玄関の間へ向かった。
「アルフレッド」
エドワードとスチュアートにそっくりなすらりと背の高い、白髪交じりの彼の後ろ姿へ声をかけた。
「マリアンヌお嬢様。お出かけでございますか?」
眼鏡越しのきりっと鋭い視線はスチュアートと、優しく微笑む口元はエドワードとよく似ている。
「庭を散歩しようと思って。……そういえば、スチュアートの具合はどうなのかしら?」
「マリアンヌお嬢様にはご迷惑とご心配をおかけして誠に申し訳ございません。お医者様には流行りの風邪だろうと言われました。薬を飲めば二、三日で良くなるだろうと。小さい頃から丈夫なスチュアートが高熱を出すなんて珍しいことでございます」
スチュアートが体調を崩したのは私のせいだ。
マリアンヌに転生して以来、私は顔が好みの彼を勝手にMだと決めつけて、性的虐待を繰り返してしまった。
スチュアートは仕事に高いプロ意識を持った執事だから、私のわがままに内心は嫌々付き合ってくれていたのかもしれない。
そうだとすると、やりすぎだったし彼の心身を深く傷つけてしまっただろう。
転生して急に美人になったから、調子に乗りすぎたんだ、と今日は朝から反省していたのだ。
「ふふ、私の世話係が嫌で寝込んじゃない?」
私は意地の悪い笑顔をアルフレッドへ向けたというのに、彼はいつもより優しい顔でこう言った。
「そんなはずはございません。マリアンヌお嬢様のお世話係になることを、あの子は長年切望しておりましたから」
スチュアートがマリアンヌの世話係になることを長年切望していた? そんなことあるだろうか。私の世話係という厄介な役割を押しつけられて彼が不本意に感じているとばかり思っていたのに。
アルフレッドが嘘をついているようには見えなかった。
そもそも誠実な彼はお世辞やおべんちゃらは決して言わない。
困ったときはただ微笑むだけだ。
「嘘……、だってスチュアートはあなたの跡を継いで家令になりたいんでしょう?」
アルフレッドは白手袋の指先で眼鏡を正しながら、
「我々の家庭内のことをお嬢様にご心配いただくなんて、恐縮でございますが……」
と前置きして驚くべきことを説明し始めた。
どうやら私は大きな勘違いをしていたようだ。
朝になって私の世話をしにやって来たモニカにそう聞いた。
夜明け前から度々、彼のいる使用人部屋から苦しそうな咳が何度も聞こえていた。
昼近くになってスチュアートの寝ている部屋からスチュアート以外の男性二人の話し声が聞こえてきた。
老人っぽい声は医者で、もう一人の凛と澄んだ声は家令のアルフレッドだろう。
医者とその助手を見送りに出たアルフレッドを追い、私は赤いカーペットの敷かれた大階段を降り、玄関の間へ向かった。
「アルフレッド」
エドワードとスチュアートにそっくりなすらりと背の高い、白髪交じりの彼の後ろ姿へ声をかけた。
「マリアンヌお嬢様。お出かけでございますか?」
眼鏡越しのきりっと鋭い視線はスチュアートと、優しく微笑む口元はエドワードとよく似ている。
「庭を散歩しようと思って。……そういえば、スチュアートの具合はどうなのかしら?」
「マリアンヌお嬢様にはご迷惑とご心配をおかけして誠に申し訳ございません。お医者様には流行りの風邪だろうと言われました。薬を飲めば二、三日で良くなるだろうと。小さい頃から丈夫なスチュアートが高熱を出すなんて珍しいことでございます」
スチュアートが体調を崩したのは私のせいだ。
マリアンヌに転生して以来、私は顔が好みの彼を勝手にMだと決めつけて、性的虐待を繰り返してしまった。
スチュアートは仕事に高いプロ意識を持った執事だから、私のわがままに内心は嫌々付き合ってくれていたのかもしれない。
そうだとすると、やりすぎだったし彼の心身を深く傷つけてしまっただろう。
転生して急に美人になったから、調子に乗りすぎたんだ、と今日は朝から反省していたのだ。
「ふふ、私の世話係が嫌で寝込んじゃない?」
私は意地の悪い笑顔をアルフレッドへ向けたというのに、彼はいつもより優しい顔でこう言った。
「そんなはずはございません。マリアンヌお嬢様のお世話係になることを、あの子は長年切望しておりましたから」
スチュアートがマリアンヌの世話係になることを長年切望していた? そんなことあるだろうか。私の世話係という厄介な役割を押しつけられて彼が不本意に感じているとばかり思っていたのに。
アルフレッドが嘘をついているようには見えなかった。
そもそも誠実な彼はお世辞やおべんちゃらは決して言わない。
困ったときはただ微笑むだけだ。
「嘘……、だってスチュアートはあなたの跡を継いで家令になりたいんでしょう?」
アルフレッドは白手袋の指先で眼鏡を正しながら、
「我々の家庭内のことをお嬢様にご心配いただくなんて、恐縮でございますが……」
と前置きして驚くべきことを説明し始めた。
どうやら私は大きな勘違いをしていたようだ。
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