【BL】新人ダメ営業マンはスパダリ社長に溺愛される【完結】

衣草 薫

文字の大きさ
2 / 57
第一章 今日中に契約を取ってこないとクビだ! (蒼side)

2.美麗クリエイション

しおりを挟む
 美麗クリエイションの本社ビルは、まるで美術館みたいにおしゃれだった。エントランスで紫のライトに照らされている筋肉質な男性の白い石像を横目に、受付の若い男性のもとへ進んだ。
「お世話になっております、ハッピーウォーターサーバーの野々原と申します。恐れ入りますが田中部長はいらっしゃいますでしょうか」
「お世話になっております。田中でございますね、確認いたしますので少々お待ちください」

 彼は僕に笑顔を向け、パソコンで予定を確認してくれたが……。
「あいにく田中は出張で終日不在にしております。申し訳ございません……」
 彼は心底悪いなぁという顔で僕に詫びた。

 担当者が不在。本当かもしれないし、僕を体よく追い返そうとして嘘をついているのかもしれない。だって、今日だけで何十社、担当が不在だと言われたことか……。
「そんな……」
 ラスト一件までこんなにあっさり断られてしまうなんて。

 こうやって受付で取り次いでもらえない場合、いつまでも粘ると受付の人の迷惑になるから、速やかに立ち去るのが飛び込み営業のマナーだ。いつもなら僕はすんなりと出て行くところだけど……。

 でもこのときばかりは、「はい、そうですか」とすんなり帰ることができなかった。手持ちの企業リストはもうここだけ。つまりこの会社で契約を取れなかったら僕のクビが確定する。
 だからいつもなら絶対にやらないことだけど、今回は粘ってみようと思ったのだ。
「そこをなんとか、お願いします……」
 僕はカウンター越しの男性に深々とあたまを下げた。

「えっ、……田中は本当に不在なんですよ」
 彼は困惑した様子で眉を潜めたが、僕だって諦められない。ここで諦めたら職を失うことになる。
 なんなら土下座をしよう、と僕はカバンを置いてヒザをついた……。
 よく磨かれたきれいなこの床になら頭をつけることにも抵抗を感じない。

「ちょっと、やめてください、……そんなことしても社内にいないんですって」
 僕が床におでこをつけようとしたとき、エントランスの自動ドアが開いた。
「どうしたの? 一体、何の騒ぎ……?」
 秘書らしき男性を連れて入って来たすらりと背の高い若い男性が声をかけた。自信たっぷりの表情、落ち着き払った話し方、身につけている上質なスーツとピカピカの革靴。ろくすっぽ世の中を知らない新人営業の僕でさえ彼がただ者ではないと感じた。

「社長、おかえりなさいませ」
 しゃ、社長!? こんなに若い人が社長なの!?
 驚いて社長の顔をじっと見ていたら、彼もまた僕の顔をじっと見つめていた。

「そこで床にへばりついてる彼は誰? うちの社員じゃないみたいだけど」
 受付係は苦笑いした。
「この方は営業さんです。担当者は不在だと説明したのにしつこくて……」
「ふふ、今どき土下座って、面白いね。君も意地悪しないで担当者に取り次いであげたらさ?」
「いえ、意地悪しているわけではありません。田中部長は本日、京都へ出張ですから」
 受付の男性は取り次げない理由を社長に述べた。どうやら断り文句で言っているわけではなく、本当に不在のようだった。

「ああ、そうか。……じゃあさ、俺が代わりに話を聞いてあげようか?」
 社長はニコッと微笑んだ。
「え、社長がですかっ」
 受付係も驚いていた。
 いくら担当者が不在だからって社長が自ら対応してくれるなんて、僕にとってもこんな展開初めてだ。

「うん、どうせ部長の田中に話しても最終的には俺に上がって来る話だろうからね。……今、ちょうどスケジュールも開いているし、ねえ都築」
 彼が振り返ると眼鏡をクイっと指先で直した秘書が手帳を開いた。
「はい、本日はこのあと稟議書に目を通していただく予定ではございましたが、明日以降に回せます」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

処理中です...