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第二章 こんな気持ちは初めて…… (麗夜side)

10.役に立ちたい……

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 ある日の昼休み、俺はコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていた。
 社長室は高層階にあるので周囲の景色が見渡せるのだが、不意に近くの公園へ蒼が入って行く姿が見えた。

 彼は公園のベンチに座って、カバンからラップに包んだおにぎりと水筒を取り出して食べている。外回りの途中なのだろう、ずいぶん質素な昼食だなと思うと同時に、先日ウォーターサーバーのサービス係から聞いた蒼の借金の話を思い出して俺の胸はちくりと痛んだ。

 俺が仕事で成功して大金を手にし、ゲイ風俗で豪遊していた間、彼は両親を亡くして数少ない肉親から借金を返せと迫られていたのだ……。

 おにぎりを食べ終わると彼はふぅとため息をついてぼんやりと空を見ていた。
 さらさらとした前髪を風が優しく撫でている。その純朴な横顔から俺は目が離せなかった。

 俺はこれまで特定の誰かと付き合ったりしたことはなかった。一人の人間に対して夢中になるなんて初めてで、逃したくない気持ちから強引に抱いてしまったけど、もっと大事に一歩ずつ歩み寄るべきだったと今更後悔している。
 
 夕方、俺は帰りがてらにあの公園の前を通り、この前蒼が座っていたベンチを見た。もう日も暮れているからいないだろうと思ったのに、偶然にも彼はいた。街灯の下、あのベンチで何やら書類を睨んでいた。
 この周辺が彼の担当エリアなのだろうから、もしかしたら頻繁にこの公園で休憩しているんじゃないかと思ったのだが、その通りだったようだ。

 俺は木の陰に隠れながら様子を見た。
 ため息をつきながら蒼は書類をカバンに戻して、頭を抱えた。
「どうしよう……、もう企業リストも底をついちゃったのに、あれ以来契約ゼロだなんて……このままじゃ会社に帰れない……」
 やっぱり契約が取れずに苦労しているようだ。

 見かねて俺は木陰から出て行って彼に声をかけた。
「やあ、蒼じゃないか、こんばんは」

「えっ、あ、藤崎社長っ……!?」
 彼はひどく驚いていた。
「ふふ、よそよそしいなぁ、名字じゃなく名前で呼んでって言ったでしょ? 俺と蒼の仲なんだからさ」
 この前のホテルのことを思い出したのか、彼は白い肌を耳まで真っ赤に染めた。その表情が可愛くて俺までドクンと胸が高鳴った。

「れ、麗夜さん、どうしてここに……?」
「どうしてってうちの会社はすぐそこじゃん。たまたま前を通りかかったら君がいるのが見えたから。ちょうど君に話したいことがあったし」
「話……ですか?」
 彼は少し警戒している様子で目を泳がせた。前回、純情な彼を結果的に騙すような格好でホテルで抱いたのだから、警戒されて当然だろう。

「うん、……君の会社のウォーターサーバーが気に入ったからさ、この前、知り合いの経営者に話したんだ。そしたらそいつも自分のオフィスに君のところのウォーターサーバーを導入したいって言うから紹介したいなって」
「え、本当ですか!? 助かりますっ!」
 営業マンなら普通、契約が取れて親しくなった社長がいれば自分から「契約してくれそうな知り合いの社長を紹介してくださいよ」とお願いしてくるものなのに、蒼はそんなこと言ってこなかった。

「うん、俺も同席するから、商談しに行こう。明日は休日だけど午後、都合はどうかな?」
「もちろん大丈夫です」
「じゃあ決まりね」
 やった、うまいこと行った。
 蒼の役に立っていい印象を与えられるし、それに商談しに行くのだって実質デートみたいなものじゃないか。
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