魔法少女・マジカルリリィ(仮)

uma

文字の大きさ
11 / 22

救出

しおりを挟む
 私は不機嫌そうな薺ちゃんに声をかけつつも、李凛に依頼の内容を確認させてもらおうと考えていた。もしも依頼が重なっていた場合、報酬の行方が分からなくなってしまうからだ。
 依頼失敗と判断され、教室の修理費用を請求されてしまったら、ついさっきまで訓練生だった私は一気に借金生活へと追い込まれる事になる。
 魔法少女になった直後に借金を背負うなんて稀有なパターンは出来れば回避したいものなのだ。

 そんな事を呑気に考えながら、李凛に声をかけようとした時、私は気づいてしまった。
 李凛の背後に潜む魔獣の存在に。闇に潜み、ジッとこちらを伺う、人ならざる者に。

「……ねえ、李凛さん。う、後ろ」
「後ろ?」

 私は出来る限り冷静に、そして魔獣を少しでも刺激しないように声をかける。薺ちゃんも同様に魔獣に気づいたらしく、小声で李凛に警告をした。

「李凛。そこ、離れた方がいいよ。ゆっくりこっちに来た方がいい」
「は? なんだよ。油断させて獲物を横取りってか? 姑息な真似するくらいなら奪い取って見せな」
『……ヨコ、ドリ。ウ、バウ』

「あん?」と、李凛が怪訝な表情を浮かべ、後ろを振り返る。

「バカッ! 早く!」

 叫ぶ薺ちゃんが即座に李凛の元へ駆け寄る。そして魔力を込めたステッキを勢い良く薙ぎ払い、魔獣に攻撃を仕掛けた。だが、遅かった。李凛は自らの影に飲み込まれ、まるで深い水溜まりの中に沈むようにその場から姿を消してしまった。

「消えた?」
「薺ちゃん。今の、魔獣だよね」
「だね。依頼が被っていた訳じゃなかったみたいだ」
「まさか」
「元々、依頼が二つだったんだ。ここには二体の魔獣がいるってことだよ」

 これは全くの予想外であり、明らかに緊急事態であり、恐らくシェイムリルファでさえも想定外の展開。
 私達の討伐対象だった魔獣よりもタチの悪そうな相手が出現してしまったのだ。

「莉々、ゆっくり下がって」
「うん」
「一応確認するけど変身は出来そう?」
「分からない。試してみないと」

 まさかこの短時間で、二度も魔法少女が魔獣の手にかかる所を目撃する事になるなんて。
 わけも分からず必死にステッキを振りかざした先ほどと違い、魔力酔いによって役立たずと化している私。(もっとも魔法少女になれてたとて、役に立つのかは分からないのだが)魔法少女になりたてホヤホヤの薺ちゃん。置かれている戦況が不利なのは間違いなかった。
 
 試しに『泡沫の依代』に魔力を送ってみるも、相変わらず何の反応は無い。
 私は一体ここになにをしに来たのだろう。このままでは薺ちゃんの足を引っ張る事は絶対の事実として、仮にもシェイムリルファの代理を任された身であるにも関わらず何もする事ができない。
 
 半ば強引に務める事となった代理も、実際の所そこまで嫌な気分はしていなかった。むしろ少し嬉しい気持ちさえあったほどだ。確かにシェイムリルファに対しては、少し怖いという感情が先行してしまっている。が、それでも変わらず彼女は憧れの存在であり、目指していた人には変わりはないのだから。

 そんな事を考えていると、こちらの様子を伺っていただろう魔獣が姿を現した。「あいつだ。莉々、気をつけて」と薺ちゃんが魔獣を睨みつける。

 それはまるで影がそのまま立体化したような魔獣。人の形を成してはいるが、影そのものがこちらへ向かい歩を進めて来る。そして驚いたのが輪郭こそぼやけて見えるものの、ハッキリと分かるその姿。

「……李凛?」

  魔獣のシルエットは、影に呑み込まれた口の悪い魔法少女のものだった。見間違えるはずもないあの大きな両手。間違いなくその姿は李凛そのものだった。

『ヨコド、リ。サンシタチャン』
「なんなのあいつ、さっきも喋ってたよね。魔獣が喋るなんて聞いた事ないよ」

 その産まれて来る理由が歪なほど、予想外の行動をとってくるのが魔獣。きっと私達が知らないだけで、魔法少女にとってはこんな事は日常茶飯事に違いないのだろう。
 まるで自我が無いように見える魔獣は、李凛が発していた言葉を不気味な声で繰り返す。
 
 『……タスケ、テ』
「っ!」

 聞こえた声は李凛の声だった。まるで今もなお、影に呑み込まれたまま苦しみもがいている様な、そんな声。
「り、李凛?」薺ちゃんはその声を聞き、明らかな混乱を見せる。そして魔獣はその隙を逃さなかった。

 魔法少女に似つかわしくない李凛の巨大な拳が、一直線に薺ちゃんに襲いかかる。
 薺ちゃんが咄嗟に身体を丸め、その攻撃を肩で受けるも、あまりの衝撃により屋上の縁ギリギリまで吹き飛ばされてしまった。

「な、薺ちゃん!?」

 痛みで顔を顰める薺ちゃんに間髪入れず襲い掛かる魔獣。させまいとその後を追うも全く追いつけない。そして薺ちゃんが体制を立て直すよりも早く魔獣の拳が振り下ろされる。

「だ、だめ!」私は声を張り上げるしかなかった。だが、その声に反応したのかのように、その拳が薺ちゃんに振り下ろされる直前に魔獣は動きを止めた。

『ギ、ギギッ!』

 明らかに苦しむ魔獣。その姿は既に人の形をしておらず、もはやただの黒い煙のようになっている。
 そして魔獣が完全に動きを止めた時、またもや李凛の声が聞こえてきた。今度は助けを求める弱々しい声ではなく、怒りに満ち溢れた声だった。

「なっめんな! このヤロウ!」

 その怒声と共に李凛の拳が魔獣の体の中から飛び出てきた。もはや声を出すことすら叶わなくなっている魔獣は、抵抗することすらままならない。

「李凛!?」
「くたばれ! このクソ魔獣が!」

 口の汚い魔法少女の渾身の一撃は魔獣を葬るに十分な威力だった。機会仕立ての拳が魔獣に直撃すると、無惨にも四方に飛び散り、あっという間に消えて無くなってしまった。

「ば、バカ魔獣が。私があれ位でやられると思って、んの…か」

 恐らく、最後の一撃に全ての魔力を乗せたのであろう。李凛は明らかに疲労困憊であり、今にも倒れそうなほどにフラフラになっていた。

「だ、大丈夫ですか!?」
「あん? 商売敵に、心配させる筋合いは……ねぇ」

 李凛は大きな指で駆け寄る私を制した。しかし啖呵を切る余裕はもう既になく、こちらを睨みつけるのが限界といった様子だ。
 
「薺ちゃんは?」
「大丈夫、大丈夫。だけど、これ多分折れてるかな」
「え、ええ!?」
「鍛え方が、なっちゃいねえんだよ。……ひよっこ、が」
「アンタねえ! この後に及んで、は? ちょっと!」

 やはり限界だったのだろう。李凛はビルの縁に立っているのに関わらず足元が定まっていない。

「危ない!」

 薺ちゃんが必死に李凛に手を伸ばす。だが李凛はこちらを指差したまま、ふらふらと後退り、まるで天を仰ぐようにビルから落ちてしまった。

「李凛!」叫び声にも似た悲痛な声を上げる薺ちゃんを横目に私は走り出す。
 
 何で魔法少女になってもいない、平々凡々な私が、この時こんな行動をとってしまったのかは未だに分からない。しかし、走り出さずにいられなかった。気がつくと私は、李凛を助ける為に飛び降りてしまっていた。この街で一番高いビルの屋上から。

 普通に、冷静に考えれば、なにも出来ずにただ死んでしまうだけなのに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...