魔法少女・マジカルリリィ(仮)

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信念

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 私達はギリギリの所でなんとか地上に降り立つことが出来た。それは奇跡とも言えるギリギリの生還。
「……良かった」緊張が解けた私はその場にへたり込み、それと同時に変身は解けてしまった。

「ふう、間一髪だったね」
「そ、そうだね」

 もしも魔法少女に変身出来ていなかったら、今頃は地面に激突してた、そう思うと改めてゾッとした。生きててよかった、とこんなにも実感した事はなかった。
 李凛ちゃんと話をしていると、顔面蒼白の薺ちゃんが駆け寄って来る。表情を見る限り、薺ちゃんはかなり心配してしてくれたのだろう。
 目の前で人が二人も落下していったのだ。まともな神経を持ち合わせているならば、きっと誰もがそうなるに違いない。
 
「莉々! ちょっと、何やってんの!」
「ご、ごめんなさい」

 ものすごい剣幕で捲し立てる薺ちゃんの迫力はかなりのものだった。友達に怒られる事自体が初めての体験なので、思わず私は後ずさってしまった。
 そんな必死に謝る姿を横目で見ていた李凛ちゃんが、私を押し退けて薺ちゃんの前に立ち塞がる。
 
「なんだよ、私の事を助けてくれたんだぞ。立派な人助けだ。魔法少女として真っ当な行動じゃないか」
 
 薺ちゃんは李凛ちゃんを睨みつける。私の事は心配してくれているが、李凛ちゃんに対しては明らかに怒っている様子だった。

「あんたは黙ってて。真っ当な行動? 飛び降りるなんて真っ当じゃない。ただの無謀な行動だよ」
「聞こえなかった? 魔法少女として真っ当だ、って言ったんだ」
「だからって飛び降りるなんてあり得ないって言ってるの!」
「薺、とか言ったな。お前、覚悟が足りてないんじゃないか?」
「覚悟?」
「魔法少女としての覚悟だ。莉々は生身で私の事を救おうとしてくれた。それがあまりにも無謀だったとしても、だ」
「あんたにそんな事言われたくないよ」
「それは人を救い、魔獣を倒す魔法少女の最も大切にしなければならない、いわば信念だ。お前、私じゃなくて一般人がビルから転落したら、迷う事なく飛び降りれたか?」
「……そんなの、ただの屁理屈だ。命はそんなに軽いものじゃない」
「そう、軽いものじゃない。だからこそだ」
「そもそも、あんたが落ちのが原因だろ」
「だから私は感謝してる。確かな信念を持つ魔法少女に助けられたからだ。あんたに莉々が責められる言われはない」

 二人の話を黙って聞いている事しか出来ない私は、ふと考える。もし、改めて魔法少女として命を賭ける覚悟があるかと聞かれたら、私はどう答えるのだろう。李凛が言ってくれているような覚悟が、本当に私にはあるのだろうか。
 だって私は何の考えもなしに、ただ飛び降りてしまっただけなのだから。

 薺ちゃんは下を向き、目をつぶる。その手は固く、強く握り締められていた。そして李凛を一瞥すると私の手を引き始めた。

「薺ちゃん?」
「もう、行こう。こんな奴に構ったっていい事ないよ」
「ま、待って」

 そう言うと薺ちゃんは変身を解き、そのまま歩き出した。薺ちゃんは怒っているようで、でも悔しそうで、だけど悲しそうだった。
 
「莉々!」

 手を引かれ、強引に連れられながらも後ろを振り向くと、李凛は笑顔でこちらに手を振っていた。

「ありがとう!」
「っ! ……またね! 李凛ちゃん!」

 一瞬立ち止まった薺ちゃんは「もう、あんな奴に会う事はないよ」と一言漏らすと、また私の手を引き歩き出す。
 もう一度振り向くと、李凛の姿はどこにも見当たらなかった。





 薺ちゃんは私をそのまま家まで送ってくれた。夜道で危ないのは薺ちゃんも同じなのに、こういう男前な所はちょっと憧れてしまう。
 帰り道、終始無言だった薺ちゃんは、家の前に着く頃にはいつもの薺ちゃんに戻っていた。だけど、どこか無理をしているようにも見えた。

「莉々、しつこいようだけど本当に無茶しすぎ。もうやめてね、私の心臓が止まっちゃうよ」

 薺ちゃんは目に涙を浮かべている。それを見て私も思わず涙ぐむ。

「本当にごめんなさい」
「だけど、なんで助かったの? あいつは莉々に感謝してるみたいだったけど」
「実はね、未だに自分でも信じられないんだけど、変身できたの。魔法少女に」
「ええっ!? じゃあ、莉々があいつの事を助けたって事? すごいよ!」

 私が変身出来た事を、薺ちゃんはまるで自分の事のように喜んでくれた。きっと口には出さなかっただけで気にかけてくれてたに違いない。

「シェイムリルファも魔力酔いが原因だって言ってたもんね」
「うん、ちょっと安心した」
「あーあ。結局、私は何も出来なかったな。ただ張り切って屋上に行っただけ。……莉々がビルから飛び降りた時だって、何も出来なかった」
「私だって何もしてないよ」
「人助けしたじゃん」

 私は嘘が下手くそで、言い訳も下手だけど、もしかしたら薺ちゃんもなのかもしれない。取り繕った笑顔がなんだか痛々しく見えた。
 李凛ちゃんが言っていた事が正しいか、正しくないなのかなんて私には分からないけど、李凛ちゃんの言葉は薺ちゃんの心に刺さっているのだろう。

「ゆっくりでいいと思うんだ。ゆっくりシェイムリルファみたいな魔法少女になろう。ね、薺ちゃん」
「お、いい事言うじゃん。そうだね、そうだよね。莉々、一緒に頑張ろうね」

 私如きがなんだか偉そうに言ってしまったが、でもきっとそれが一番の近道。焦らずに、ゆっくりと。そうやって本物の魔法少女になれれば良いと思う。そう思うんだ。
 失敗したって、後悔したって時間を戻す事なんて出来ないのだから。

 一歩、一歩しっかりと進めばきっとなれる。シェイムリルファみたいに。
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