14 / 22
痛感
しおりを挟む
なんで私はこんなに単純な事に気づかなかったのだろう。気づけなかったのだろうか。確かにこの二日間は間違いなく人生で一番濃い二日間だった。
立て続けに色々な事が起きすぎて、頭の中はこんがらがっていた、だとしてもだ。
私は薺ちゃんと別れた後、誰もいない家に帰った。「ただいま」と言った所で当然誰からも返事はない。最早これは癖みたいなものだ。
お兄ちゃんは仕事、に行っている。なのでこの時間はいつも一人だ。
シェイムリルファを引き留めてた、との事だったので、もしかしたら二人でどこかに行っているのかもしれないが。一人の夜は慣れっこなので特別気にもしない。
一息つきながら靴を脱ぎ、玄関に上がる。手を洗い、コップに水を入れ一口飲む。お風呂に入り、ご飯を食べて、歯を磨いて部屋に戻る。ベッドに寝転び、携帯をいじる。眠ってしまう前に目覚まし時計をセットしようとして手を伸ばす、そしてその手が止まる。
「……あ。養成施設、行かなくていいんだ」
魔法少女に憧れて、シェイムリルファのようになりたくて養成施設に通っていたわけだが、既に今日なってしまったのだ。魔法少女に。
辛い訓練も、嫌いな試験ももうやらなくていいかと思うと嬉しさで一気に目が覚める。それと同時に、一つ疑問が浮かぶ。
養成施設から引き抜きされた魔法少女候補は、魔法少女の組織に所属する。李凛が率いる鉄血の魔法少女兵団の……名前は忘れたが、そういった類の組織に。
そして『お仕事』が振り分けられ、魔法少女としての一歩が始まる。
『お仕事』の内容は、それこそいなくなった猫の捜索から、さっきみたいな魔獣の討伐まで本当にピンキリだ。個人からの依頼もあるし、企業や偉い人からの重要な依頼もある。
特に新人の魔法少女は「何事も経験だ」と、激務に追われるのが最初の洗礼として待ち受けている。養成施設のあの厳しさは、新人がこの激務を乗り越えられるようにする為の厳しさなのだろう。
しかし私は明日から暇なのだ。それこそ明日以降だってなんの予定もない。
早速ビルの屋上の依頼こそあったものの、あれは自分が施設を破壊した事で発生した必然といえば必然の依頼だった。
シェイムリルファが施設費用を支払う代わりにと引き受けた依頼であり、誰かの為というよりは自分の為の依頼だった。
そう考えると薺ちゃんは巻き込まれた形になるので、申し訳ない気持ちになる。それは後日、しっかりと謝罪するとして。
なんて色々考えていると、集中力の低さに定評がある私は思考があっちに行ったり、こっちに行ったり、脱線したり、やっとこさ戻ってみたら何を考えていたか忘れてたりしてしまうので、一旦深呼吸をする。
引き抜きされたのだから、私と薺ちゃんはシェイムリルファの部下のような形にはなっているはず。
だけれども薺ちゃんとは少し違い、私は代理を任されいる。かといって、今日遭遇した魔獣を一人で倒せる自信はない。なのでシェイムリルファの代理を、明日からやれと言われても何も出来ない自信がある。そこは自負している。
シェイムリルファに連絡を入れてみたが返信はなかった。もう一度確認してみようかとも思ったが、デートの最中に何度も業務連絡を入れるのはどうなのだろうと、最低限の気を効かす。
結果、やる事がない。つまり、暇なのだ。魔法少女になったのに。
「どうすればいいんだろう」と、独り言をボソッと呟くと同時に携帯が鳴る。タイミングが良い事にシェイムリルファからの返信だった。
【お疲れ様でした、そしておめでとう! 無事に依頼をこなしたみたいだね。さすが莉々ちゃん!薺ちゃんにもよろしく伝えておいてね。養成施設の人から連絡が来ました。これで約束通り、修繕費用はチャラになったよ。今日はゆっくり休んでね。あ、明日はお休みです】
「……依頼を、こなした?」
依頼はこなせていない。だって魔獣は李凛ちゃんが倒してしまったのだから。なのでビルの管理人には何も伝えていないし、なんならビルから降りて話してた時に、李凛ちゃんの手柄で良いって事は伝えてたのだ。
確認しようにも、李凛ちゃんの連絡先が分からない。薺ちゃんに半ば強引にあの場から連れ去られたとしても、地上に降りてから連絡先を聞く時間位はあったのに。
こんな事なら聞いておけば良かったと思ったが、根暗な私にそんな積極的な事が行動が取れるはずもなく、結局は李凛ちゃんに真相を聞き出す事は不可能だっただろう。
自分の性格に嫌気がさし、大きなため息をつくと、また携帯が鳴った。シェイムリルファからの連絡が来たのかと急いで内容を確認する。
しかし画面に表示されたのは、見覚えのないニュースサイトのようなものだった。
「魔法少女通信? なにこれ?」
登録した覚えもなく、聞いた事も見た事も無いサイト。少しだけ嫌な予感がしたが、躊躇いつつもサイトを開く。
【魔法少女養成施設職員、複数名の死亡を確認。原因は不明。直ちに現場に急行して下さい。】
私は何度も画面を確認した。しかし、何度読み返してもそこには信じたくない文章が書かれていた。薺ちゃんに連絡を入れようとすると、私が電話をかけるより早く薺ちゃんからの着信が入る。
「莉々、起きてる!?」
「起きてる。見た?」
「見た、一緒に行こう。すぐ莉々の家まで行く」
「うん、分かった」
明日から暇なんて、とんでもなく甘い考えだったのではないかと頭によぎる。緊急事態への対応、これは明らかにベテランの魔法少女が対応する案件だ。
依頼や事件が危険であれば危険であるほど、難解であれば難解であるほど、新人の魔法少女の出る幕は無くなる。
養成施設の職員はそれなりの腕利きが揃っている。ちょっとやそっとの魔獣なんか簡単に蹴散らすだろうし、何より強固な結界だって張ってある。
それなのに複数名死亡するほどの事態が起きているなんてよっぽどの事が起きているに違いない。
ここで気付く。
自信があろうとなかろうと、自分があのシェイムリルファの代理を任させてしまっている事を。引き受けてしまった重大さを。
私は気付く。
この連絡は明らかにシェイムリルファに向けての連絡であり、私が引き受けてしまった代理の仕事だという事を。
立て続けに色々な事が起きすぎて、頭の中はこんがらがっていた、だとしてもだ。
私は薺ちゃんと別れた後、誰もいない家に帰った。「ただいま」と言った所で当然誰からも返事はない。最早これは癖みたいなものだ。
お兄ちゃんは仕事、に行っている。なのでこの時間はいつも一人だ。
シェイムリルファを引き留めてた、との事だったので、もしかしたら二人でどこかに行っているのかもしれないが。一人の夜は慣れっこなので特別気にもしない。
一息つきながら靴を脱ぎ、玄関に上がる。手を洗い、コップに水を入れ一口飲む。お風呂に入り、ご飯を食べて、歯を磨いて部屋に戻る。ベッドに寝転び、携帯をいじる。眠ってしまう前に目覚まし時計をセットしようとして手を伸ばす、そしてその手が止まる。
「……あ。養成施設、行かなくていいんだ」
魔法少女に憧れて、シェイムリルファのようになりたくて養成施設に通っていたわけだが、既に今日なってしまったのだ。魔法少女に。
辛い訓練も、嫌いな試験ももうやらなくていいかと思うと嬉しさで一気に目が覚める。それと同時に、一つ疑問が浮かぶ。
養成施設から引き抜きされた魔法少女候補は、魔法少女の組織に所属する。李凛が率いる鉄血の魔法少女兵団の……名前は忘れたが、そういった類の組織に。
そして『お仕事』が振り分けられ、魔法少女としての一歩が始まる。
『お仕事』の内容は、それこそいなくなった猫の捜索から、さっきみたいな魔獣の討伐まで本当にピンキリだ。個人からの依頼もあるし、企業や偉い人からの重要な依頼もある。
特に新人の魔法少女は「何事も経験だ」と、激務に追われるのが最初の洗礼として待ち受けている。養成施設のあの厳しさは、新人がこの激務を乗り越えられるようにする為の厳しさなのだろう。
しかし私は明日から暇なのだ。それこそ明日以降だってなんの予定もない。
早速ビルの屋上の依頼こそあったものの、あれは自分が施設を破壊した事で発生した必然といえば必然の依頼だった。
シェイムリルファが施設費用を支払う代わりにと引き受けた依頼であり、誰かの為というよりは自分の為の依頼だった。
そう考えると薺ちゃんは巻き込まれた形になるので、申し訳ない気持ちになる。それは後日、しっかりと謝罪するとして。
なんて色々考えていると、集中力の低さに定評がある私は思考があっちに行ったり、こっちに行ったり、脱線したり、やっとこさ戻ってみたら何を考えていたか忘れてたりしてしまうので、一旦深呼吸をする。
引き抜きされたのだから、私と薺ちゃんはシェイムリルファの部下のような形にはなっているはず。
だけれども薺ちゃんとは少し違い、私は代理を任されいる。かといって、今日遭遇した魔獣を一人で倒せる自信はない。なのでシェイムリルファの代理を、明日からやれと言われても何も出来ない自信がある。そこは自負している。
シェイムリルファに連絡を入れてみたが返信はなかった。もう一度確認してみようかとも思ったが、デートの最中に何度も業務連絡を入れるのはどうなのだろうと、最低限の気を効かす。
結果、やる事がない。つまり、暇なのだ。魔法少女になったのに。
「どうすればいいんだろう」と、独り言をボソッと呟くと同時に携帯が鳴る。タイミングが良い事にシェイムリルファからの返信だった。
【お疲れ様でした、そしておめでとう! 無事に依頼をこなしたみたいだね。さすが莉々ちゃん!薺ちゃんにもよろしく伝えておいてね。養成施設の人から連絡が来ました。これで約束通り、修繕費用はチャラになったよ。今日はゆっくり休んでね。あ、明日はお休みです】
「……依頼を、こなした?」
依頼はこなせていない。だって魔獣は李凛ちゃんが倒してしまったのだから。なのでビルの管理人には何も伝えていないし、なんならビルから降りて話してた時に、李凛ちゃんの手柄で良いって事は伝えてたのだ。
確認しようにも、李凛ちゃんの連絡先が分からない。薺ちゃんに半ば強引にあの場から連れ去られたとしても、地上に降りてから連絡先を聞く時間位はあったのに。
こんな事なら聞いておけば良かったと思ったが、根暗な私にそんな積極的な事が行動が取れるはずもなく、結局は李凛ちゃんに真相を聞き出す事は不可能だっただろう。
自分の性格に嫌気がさし、大きなため息をつくと、また携帯が鳴った。シェイムリルファからの連絡が来たのかと急いで内容を確認する。
しかし画面に表示されたのは、見覚えのないニュースサイトのようなものだった。
「魔法少女通信? なにこれ?」
登録した覚えもなく、聞いた事も見た事も無いサイト。少しだけ嫌な予感がしたが、躊躇いつつもサイトを開く。
【魔法少女養成施設職員、複数名の死亡を確認。原因は不明。直ちに現場に急行して下さい。】
私は何度も画面を確認した。しかし、何度読み返してもそこには信じたくない文章が書かれていた。薺ちゃんに連絡を入れようとすると、私が電話をかけるより早く薺ちゃんからの着信が入る。
「莉々、起きてる!?」
「起きてる。見た?」
「見た、一緒に行こう。すぐ莉々の家まで行く」
「うん、分かった」
明日から暇なんて、とんでもなく甘い考えだったのではないかと頭によぎる。緊急事態への対応、これは明らかにベテランの魔法少女が対応する案件だ。
依頼や事件が危険であれば危険であるほど、難解であれば難解であるほど、新人の魔法少女の出る幕は無くなる。
養成施設の職員はそれなりの腕利きが揃っている。ちょっとやそっとの魔獣なんか簡単に蹴散らすだろうし、何より強固な結界だって張ってある。
それなのに複数名死亡するほどの事態が起きているなんてよっぽどの事が起きているに違いない。
ここで気付く。
自信があろうとなかろうと、自分があのシェイムリルファの代理を任させてしまっている事を。引き受けてしまった重大さを。
私は気付く。
この連絡は明らかにシェイムリルファに向けての連絡であり、私が引き受けてしまった代理の仕事だという事を。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる