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第1章 不老不死の魔女
2 魔女
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魔女の家から出てきた可愛い女の子は、白と黒でできていた。
真っ黒でツヤツヤの髪は腰まで伸びていて、ふわふわしている。瞳も真っ黒で、たまに森で見かけるキツネみたいに可愛い目だ。黒くて長いワンピースは足首まで覆っていて、ダボダボの長袖からは傷ひとつない綺麗な指先がほんの少しだけ覗いている。
どこもかしこも黒いけど、ずっと暗い森に住んでいるからなのか、女の子の肌は怖いくらい真っ白だ。昔チラッとだけ見た、村の女の子が大事にしていた人形みたい。
どうして魔女の家からこんな女の子が出てくるんだろう? もしかしてライアンは、家を間違えちゃったんじゃないのかな。
だって魔女は綺麗なお姉さんのはずで、こんな小さな子じゃあないはずだ。本当に小さくて可愛い――いや、でも僕よりは大きいか。頬っぺたのお肉もちゃんとついているし「小さい」は失礼だよね。
「――あの、どちら様ですか」
また同じことを聞かれた。僕が何も答えずにぽかんとしていると、女の子はギュッと眉根を寄せて僕を見つめた。そうしてゆっくりと扉を閉めながら、後ろ向きにスススと家の中へ戻ろうとするから、慌てて口を開く。
「あっ! いや、ま、魔女はどこですか! 僕はイケニエのアレクシスです!」
「……冷やかしなら帰ってもらえますか? 轍を辿れば、どこかの村か街へ辿り着けるでしょう」
女の子は、パタンと扉を閉めてしまった。僕は焦って何度も扉をノックする。だってもう、帰れないんだもん。魔女に引き取ってもらえなかったら、僕はこのまま死ぬしかない。
「待って! やっぱり呪われた僕じゃあ、お金にならないですか? でも、魔女に受け取ってもらわないと困るんです!」
「――――私に向かって『呪い』なんて言葉を口にするとは、いい度胸ですね、冷やかしのクソガキ」
「わあ!?」
ドンドン叩いていた扉が勢いよく開かれて、僕はおでこをぶつけて尻もちをついた。せっかく父さんに貰った新しい服に泥がついちゃったけど、今そんなことは気にしていられない。
僕はすぐさま立ち上がって、女の子に向かって頭を下げる。
「お願いします、魔女に会わせてください! 僕カウベリー村から来ました、弟のジェフリーを助けるのに魔女の秘薬を貰ったんです! 僕はその『代金』なんです!」
「――カウベリー村? ああ……いや、でも私は「村で一番不要だと思うゴミクズ」を対価に要求したはずですけど? 君、一体何を持って来たんですか」
「僕です! 僕が「村で一番不要なゴミクズ」です!!」
僕は顔を上げて、できる限りの全力で笑いかけた。すると女の子は綺麗な顔を引きつらせて、空を覆い隠す木の葉を見上げちゃった。
――やっぱり、僕は魔女にも嫌われるのかな? ううん、嫌われて殺されちゃうとしても、死ぬ前に魔女を見てみたい。引き取ってもらえなくても良い、絶対に魔女を見てから死ぬんだ!
「ぼ、僕自身がダメなら、着ている服はダメですか? 魔女に代金を渡さないと村の皆が呪われちゃうらしいので、絶対に何か受け取ってもらわないと困るんです……どうか魔女と会わせてくれませんか?」
「…………魔女なら、目の前に居るでしょう」
「へっ?」
「私がその魔女ですけど」
「――――――――えっ、魔女ってお姉さんじゃないの……? 不老不死は? 美しさを保つために、子供の血肉をすするっていうのは……?」
「すすられたいんですか?」
じとりと眇められた目で女の子――魔女に見られた僕は、ちょっとだけ考えてから笑った。
「魔女が僕を少しでも愛してくれるなら、すすられても良いかな!」
「ちょっと、君――」
「ていうか、思ってたのと違ったけど魔女を見られたから、もう良いか! 殺してくださーい」
「君さあ……――ああ、もう。ちょっとヤバそうな客が来たとは思っていたんですよ……こうなると分かっていたら、最初から関わらなかったのに。今日び魔女に子供を渡すってなんなの? 一体いつの時代の人間ですか――」
「えっと……食べるのに服が邪魔かな? 脱ぐ?」
「脱ごうとしないで!! やめさな――ちょっと、何ですソレ」
僕は魔女が食べやすいように上の服を脱ごうとしたんだけど、すぐに止められちゃった。やっぱり骨と皮じゃあ食べ応えがないのかな。魔女はカリカリの堅いせんべいが嫌いなのかも。
しょんぼりしてまくり上げた服を戻すと、魔女が家の扉を大きく開いた。
「……あとで追い返しますけど、一旦入ってください」
「え? 良いの? も、もしかして僕を愛してくれる? それとも味付け?」
「追い返すって言っているでしょう! もう、早くして!」
「はーい!」
なんだかよく分からないけれど、魔女の家に入れてくれるみたい! 僕は服についた泥をはたき落として、ウキウキしながら家の中に入った。
真っ黒でツヤツヤの髪は腰まで伸びていて、ふわふわしている。瞳も真っ黒で、たまに森で見かけるキツネみたいに可愛い目だ。黒くて長いワンピースは足首まで覆っていて、ダボダボの長袖からは傷ひとつない綺麗な指先がほんの少しだけ覗いている。
どこもかしこも黒いけど、ずっと暗い森に住んでいるからなのか、女の子の肌は怖いくらい真っ白だ。昔チラッとだけ見た、村の女の子が大事にしていた人形みたい。
どうして魔女の家からこんな女の子が出てくるんだろう? もしかしてライアンは、家を間違えちゃったんじゃないのかな。
だって魔女は綺麗なお姉さんのはずで、こんな小さな子じゃあないはずだ。本当に小さくて可愛い――いや、でも僕よりは大きいか。頬っぺたのお肉もちゃんとついているし「小さい」は失礼だよね。
「――あの、どちら様ですか」
また同じことを聞かれた。僕が何も答えずにぽかんとしていると、女の子はギュッと眉根を寄せて僕を見つめた。そうしてゆっくりと扉を閉めながら、後ろ向きにスススと家の中へ戻ろうとするから、慌てて口を開く。
「あっ! いや、ま、魔女はどこですか! 僕はイケニエのアレクシスです!」
「……冷やかしなら帰ってもらえますか? 轍を辿れば、どこかの村か街へ辿り着けるでしょう」
女の子は、パタンと扉を閉めてしまった。僕は焦って何度も扉をノックする。だってもう、帰れないんだもん。魔女に引き取ってもらえなかったら、僕はこのまま死ぬしかない。
「待って! やっぱり呪われた僕じゃあ、お金にならないですか? でも、魔女に受け取ってもらわないと困るんです!」
「――――私に向かって『呪い』なんて言葉を口にするとは、いい度胸ですね、冷やかしのクソガキ」
「わあ!?」
ドンドン叩いていた扉が勢いよく開かれて、僕はおでこをぶつけて尻もちをついた。せっかく父さんに貰った新しい服に泥がついちゃったけど、今そんなことは気にしていられない。
僕はすぐさま立ち上がって、女の子に向かって頭を下げる。
「お願いします、魔女に会わせてください! 僕カウベリー村から来ました、弟のジェフリーを助けるのに魔女の秘薬を貰ったんです! 僕はその『代金』なんです!」
「――カウベリー村? ああ……いや、でも私は「村で一番不要だと思うゴミクズ」を対価に要求したはずですけど? 君、一体何を持って来たんですか」
「僕です! 僕が「村で一番不要なゴミクズ」です!!」
僕は顔を上げて、できる限りの全力で笑いかけた。すると女の子は綺麗な顔を引きつらせて、空を覆い隠す木の葉を見上げちゃった。
――やっぱり、僕は魔女にも嫌われるのかな? ううん、嫌われて殺されちゃうとしても、死ぬ前に魔女を見てみたい。引き取ってもらえなくても良い、絶対に魔女を見てから死ぬんだ!
「ぼ、僕自身がダメなら、着ている服はダメですか? 魔女に代金を渡さないと村の皆が呪われちゃうらしいので、絶対に何か受け取ってもらわないと困るんです……どうか魔女と会わせてくれませんか?」
「…………魔女なら、目の前に居るでしょう」
「へっ?」
「私がその魔女ですけど」
「――――――――えっ、魔女ってお姉さんじゃないの……? 不老不死は? 美しさを保つために、子供の血肉をすするっていうのは……?」
「すすられたいんですか?」
じとりと眇められた目で女の子――魔女に見られた僕は、ちょっとだけ考えてから笑った。
「魔女が僕を少しでも愛してくれるなら、すすられても良いかな!」
「ちょっと、君――」
「ていうか、思ってたのと違ったけど魔女を見られたから、もう良いか! 殺してくださーい」
「君さあ……――ああ、もう。ちょっとヤバそうな客が来たとは思っていたんですよ……こうなると分かっていたら、最初から関わらなかったのに。今日び魔女に子供を渡すってなんなの? 一体いつの時代の人間ですか――」
「えっと……食べるのに服が邪魔かな? 脱ぐ?」
「脱ごうとしないで!! やめさな――ちょっと、何ですソレ」
僕は魔女が食べやすいように上の服を脱ごうとしたんだけど、すぐに止められちゃった。やっぱり骨と皮じゃあ食べ応えがないのかな。魔女はカリカリの堅いせんべいが嫌いなのかも。
しょんぼりしてまくり上げた服を戻すと、魔女が家の扉を大きく開いた。
「……あとで追い返しますけど、一旦入ってください」
「え? 良いの? も、もしかして僕を愛してくれる? それとも味付け?」
「追い返すって言っているでしょう! もう、早くして!」
「はーい!」
なんだかよく分からないけれど、魔女の家に入れてくれるみたい! 僕は服についた泥をはたき落として、ウキウキしながら家の中に入った。
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