8 / 90
第1章 不老不死の魔女
3 魔女2
しおりを挟む
魔女の家の中は、外から見た時の感想通りに小さかった。もしかしたら、僕が居た家よりも狭いかも知れないけれど――たぶん1人きりで暮らしているから、これくらいがちょうど良いんだろうな。
部屋の真ん中には、机が1つと椅子が2つ。壁にはすごく背の高い棚があって、小さな引き出しがいっぱいついている。中に魔女の薬の材料が詰まっていたりするのかな?
奥の方には、天井からカーテンみたいなぶ厚い布が垂れ下がっている。あの先に寝る場所があるのかも。家に入ってすぐのところに立ってキョロキョロしていると、魔女が僕を振り返った。
「とりあえずお湯を沸かすので、入ってください」
「……わあ、もしかして煮る? 煮るの? 僕はたぶん油で揚げた方が美味しいと思――いや、分かった! 骨から出るダシ的なことだね!? きっと僕でも役に立てるはずだよ!」
「普通にお風呂に入ってください! ……そのあと、傷の手当てをしますから」
魔女はとっても可愛い顔をしているけれど、ちょっとだけ怒りっぽいみたいだ。
それにしても、お風呂に手当て? どうしてそんな面倒なことをするんだろう。お風呂はまあ、美味しく食べるためだと思う。野菜と一緒で、泥で汚れている時よりも洗った方が美味しいだろうからね。
でも、手当てなんてしたところで味に変わりはないと思うな。むしろ薬の味がして美味しくなさそう。いや、魔女は薬の味が好きなのかも?
「ねえ、どうして手当てなんかするの? 僕平気だよ、慣れっこだし……」
「そんな次元の話ではないんです」
「えっと……よく分からないけれど、お湯は僕が沸かすよ? 薪割りもお湯を沸かすのもやったことあるし、母さんからはよく鈍間って怒られていたけど、できると思うんだ」
思ったままを口に出してみたけど、魔女は僕を睨みつけて「それ以上喋ると、今すぐに追い出しますよ」って言ってきた。また怒らせちゃったなあ、これじゃあ愛されるなんて夢のまた夢だ。やっぱり僕ってダメダメなんだね。
魔女は、さっさと部屋の奥――カーテンの向こう側へ行っちゃった。寝る場所かと思っていたけど、あのカーテンの向こうにお風呂があるのかも? きっと魔女は、綺麗好きなんだろう。家の中を汚しちゃあいけないと思って、僕は玄関に立ったまま魔女がお湯を沸かし終わるのを待った。
「……なんで椅子があるのに、立ちっぱなしなんです?」
「え!? いや、だって僕泥だらけだし、汚いし……?」
しばらくしてから戻って来た魔女は、僕が玄関口に突っ立っているのを見ると、眉根をギュっと寄せた。僕は何を怒られているのか分からなくて、慌てて背筋を伸ばした。
だって家では、母さんの許可なく勝手に入ったら叱られたし、家具を使ったら「汚い!」って家具ごと外に放り出されたこともある。
魔女は僕の顔をじっと見つめたあとに、大きなため息を吐き出した。
「その風貌と体の傷から見て、何となく察してはいましたけど……君、家族から虐待でも受けていたの?」
「……ギャクタイ? よく分からない、僕は呪われてるから、何をされても仕方がないって言われてた」
「呪い……それは、どのような?」
「この真っ白な髪と――あと目。生まれつき変なんだ、呪いとか化け物とかって言われてたよ」
僕は、顔にかかる長い前髪を手でどけた。僕の〝呪い〟は白髪だけじゃあなくて、このうさぎみたいに赤い目もそうなんだって。確かに村の人は、黒い髪に黒い目だった。外の人は知らないけれど、でもこの魔女だって黒い髪に黒い目をしている。
だからきっと、こんな人間は他に居ないんだと思う――呪われていない限り。
僕の顔を見た魔女は、フッと小さく鼻を鳴らした。その笑い方は、まるで僕を――いや、僕の村全部をバカにしているみたいだった。
「それはそれは、随分と可愛らしい呪いですね。そんな理由で村八分にされていたとは……まあ、閉鎖的な村ではよくある事です。秘薬を求めて訪ねて来た男性も、随分と妄執的な感じがしましたから」
魔女の話す言葉は難しくて、ほとんどよく分らなかった。ただ最初に言われた言葉を聞いて、僕は目を輝かせた。
「――かっ、可愛い!? 僕、可愛いの? じゃあ食べずに愛しちゃう!?」
「……君の思考回路は、一体どうなっているんですか? 本気で追い出しますよ」
「あ! うん、分かった、静かにしてお風呂に入るね! そのあと魔女の話を聞かせてね!」
「私の話はしません、手当てをしたらすぐに追い出しま――」
「お風呂どこ!? あっちかな、お邪魔します! 行ってくるね!」
「ちょっと!」
魔女がまだ何か言っていたけれど、僕はもう舞い上がってカーテンの奥めがけて走り出していた。
だって魔女は村の人達と違って、ちゃんと僕を見てくれるんだもん。愛してくれなくても、食べてくれなくても、例えこのまま追い出されたとしても、なんだかもう思い残すことはないなって思っちゃったよ。
――だって死ぬ前に、こんな可愛い魔女と目を見てお話できたんだからね。
部屋の真ん中には、机が1つと椅子が2つ。壁にはすごく背の高い棚があって、小さな引き出しがいっぱいついている。中に魔女の薬の材料が詰まっていたりするのかな?
奥の方には、天井からカーテンみたいなぶ厚い布が垂れ下がっている。あの先に寝る場所があるのかも。家に入ってすぐのところに立ってキョロキョロしていると、魔女が僕を振り返った。
「とりあえずお湯を沸かすので、入ってください」
「……わあ、もしかして煮る? 煮るの? 僕はたぶん油で揚げた方が美味しいと思――いや、分かった! 骨から出るダシ的なことだね!? きっと僕でも役に立てるはずだよ!」
「普通にお風呂に入ってください! ……そのあと、傷の手当てをしますから」
魔女はとっても可愛い顔をしているけれど、ちょっとだけ怒りっぽいみたいだ。
それにしても、お風呂に手当て? どうしてそんな面倒なことをするんだろう。お風呂はまあ、美味しく食べるためだと思う。野菜と一緒で、泥で汚れている時よりも洗った方が美味しいだろうからね。
でも、手当てなんてしたところで味に変わりはないと思うな。むしろ薬の味がして美味しくなさそう。いや、魔女は薬の味が好きなのかも?
「ねえ、どうして手当てなんかするの? 僕平気だよ、慣れっこだし……」
「そんな次元の話ではないんです」
「えっと……よく分からないけれど、お湯は僕が沸かすよ? 薪割りもお湯を沸かすのもやったことあるし、母さんからはよく鈍間って怒られていたけど、できると思うんだ」
思ったままを口に出してみたけど、魔女は僕を睨みつけて「それ以上喋ると、今すぐに追い出しますよ」って言ってきた。また怒らせちゃったなあ、これじゃあ愛されるなんて夢のまた夢だ。やっぱり僕ってダメダメなんだね。
魔女は、さっさと部屋の奥――カーテンの向こう側へ行っちゃった。寝る場所かと思っていたけど、あのカーテンの向こうにお風呂があるのかも? きっと魔女は、綺麗好きなんだろう。家の中を汚しちゃあいけないと思って、僕は玄関に立ったまま魔女がお湯を沸かし終わるのを待った。
「……なんで椅子があるのに、立ちっぱなしなんです?」
「え!? いや、だって僕泥だらけだし、汚いし……?」
しばらくしてから戻って来た魔女は、僕が玄関口に突っ立っているのを見ると、眉根をギュっと寄せた。僕は何を怒られているのか分からなくて、慌てて背筋を伸ばした。
だって家では、母さんの許可なく勝手に入ったら叱られたし、家具を使ったら「汚い!」って家具ごと外に放り出されたこともある。
魔女は僕の顔をじっと見つめたあとに、大きなため息を吐き出した。
「その風貌と体の傷から見て、何となく察してはいましたけど……君、家族から虐待でも受けていたの?」
「……ギャクタイ? よく分からない、僕は呪われてるから、何をされても仕方がないって言われてた」
「呪い……それは、どのような?」
「この真っ白な髪と――あと目。生まれつき変なんだ、呪いとか化け物とかって言われてたよ」
僕は、顔にかかる長い前髪を手でどけた。僕の〝呪い〟は白髪だけじゃあなくて、このうさぎみたいに赤い目もそうなんだって。確かに村の人は、黒い髪に黒い目だった。外の人は知らないけれど、でもこの魔女だって黒い髪に黒い目をしている。
だからきっと、こんな人間は他に居ないんだと思う――呪われていない限り。
僕の顔を見た魔女は、フッと小さく鼻を鳴らした。その笑い方は、まるで僕を――いや、僕の村全部をバカにしているみたいだった。
「それはそれは、随分と可愛らしい呪いですね。そんな理由で村八分にされていたとは……まあ、閉鎖的な村ではよくある事です。秘薬を求めて訪ねて来た男性も、随分と妄執的な感じがしましたから」
魔女の話す言葉は難しくて、ほとんどよく分らなかった。ただ最初に言われた言葉を聞いて、僕は目を輝かせた。
「――かっ、可愛い!? 僕、可愛いの? じゃあ食べずに愛しちゃう!?」
「……君の思考回路は、一体どうなっているんですか? 本気で追い出しますよ」
「あ! うん、分かった、静かにしてお風呂に入るね! そのあと魔女の話を聞かせてね!」
「私の話はしません、手当てをしたらすぐに追い出しま――」
「お風呂どこ!? あっちかな、お邪魔します! 行ってくるね!」
「ちょっと!」
魔女がまだ何か言っていたけれど、僕はもう舞い上がってカーテンの奥めがけて走り出していた。
だって魔女は村の人達と違って、ちゃんと僕を見てくれるんだもん。愛してくれなくても、食べてくれなくても、例えこのまま追い出されたとしても、なんだかもう思い残すことはないなって思っちゃったよ。
――だって死ぬ前に、こんな可愛い魔女と目を見てお話できたんだからね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる