1 / 70
序章 プロローグ
とある騎士の独白
しおりを挟む
――このハイドランジア王国には、「王の至宝」と呼ばれるものが3つあります。
まず1つめは、豊かな資源溢れるこの国そのもの。
2つめは、国の柱を支えてくれるハイドランジアの民衆たち。
そして3つめは、28人の子をもつ王の末娘……エヴァンシュカ・リアイス・トゥルーデル・フォン・ハイドランジア王女――いえ、言いたい事はよく分かりますよ。
もう本当に長いので、「エヴァ王女」とでも覚えて頂ければ結構です。
エヴァ王女は、王にとって可愛い末の娘である事を差し引いても――本当に優秀な、素晴らしいお方です。
王の至宝どころか、王国民の至宝と言っても差し支えないでしょう。
輝かんばかりの金色の髪は緩やかに波打ち、腰の辺りまで伸びたそれは枝毛ひとつ見当たりません。
国王譲りの碧眼は深い海のようで――髪と同じ金色の、長い睫毛で縁取られています。
ほっそりとした首筋、コルセットで締め上げられたウエストなどは折れそうで……手足も棒のようで。
湯上りムキ卵のような――ああいえ、白磁のような肌はシミひとつなく透き通り、お餅のような柔肌はモチモチと――……ええ、はい、すみません。
例え話が下手なもので……もう、「やだー超可愛い! お人形さんみたーい!」と思ってくだされば、それで結構です。
――とにかく、エヴァ王女はハイドランジア国随一の美姫として崇め奉られている訳ですね。
それも、王女の凄いところは見た目の美しさだけではありませんよ。
出生後2週間でハイハイを覚えて、その更に2週間後には喃語ながら「としゃま」「かしゃま」とご両親を呼んでおられました。
その1か月後には、つかまり立ちどころか2本の足で歩行して――生後半年を迎える頃には、喃語はすっかり鳴りを潜めて、ご両親を「お父様」「お母様」と呼び始めるという可愛げのなさ。
……失礼、「聡明さ」の間違いでした。
基本的な読み書きをマスターしたのは3歳、計算は4歳。
5歳の頃には代表的な外国語を2か国語ほどマスターしておりましたっけね。
エヴァ王女ほど「神童」という言葉が似合う童子は他におりませんでした。
何をするにも万能なお方でして、わたくしなどは彼女の事を陰で「エ万能王女」と呼んでいる程でございます。
――ただしこのエヴァ王女、ご自身がどれほどイレギュラーな存在であるか、まるで理解されていらっしゃらないのが玉に瑕。
無自覚に万能っぷりを見せつけた挙句「え、このくらいは誰にでも出来るものでしょう?」「何がそんなに凄いのかしら、本当に分からないの……」「わたくしったらまた、何かやっちゃいましたかしら?」なんて迫真のキョトン顔で言われた日には、よくも人の神経を逆撫でしてくれたなオイ、と思う訳です。
いえいえ、わたくしの個人的な感想ではありませんよ? あくまでも一般論です、一般論。
とにかく、エヴァ王女は優秀で――しかも大変お美しい、非の打ちどころのない女性です。
割と頻繁に天然ボケだなとも思いますけれど、その欠点さえも愛らしいお方で……王だけでなく、民衆からも愛されている事は間違いありません。
――しかしこの無自覚万能っぷりと天然ボケに苛立ちを覚えて、王女を敵視する者もしばしば現れるのです。
わたくしは、エヴァ王女と敵対勢力のバトルする様を見るのが大好物でして。
まあバトルと言いましても、天然ボケの王女様が相手の悪意に一つも気付かない事が多いので――試合にすらなっていない事がほとんどなのですが、それが見ていて愉快痛快で。
ざまぁというヤツですね。……口が悪いですか?
それにしても普段あれだけ優秀なくせに、周りからドロドロに甘やかされて、愛され過ぎた結果なのでしょうか?
どうもエヴァ王女は、人の悪意というものが上手く感じ取れないようなのです。
そういった悪意から守るために、わたくしが存在している訳なのですけれど――。
――とまあそんなこんなで、エヴァ王女のお話を進めさせていただきたいのですが……物語は、19歳の誕生日を目前に控えられたエ万能王女とその父君、国王であらせられるテオフィリュス・ガウリー・ヴェンデルベルト・フォン・ハイドランジア陛下――――――――――いや、ええ、そうですね。可愛らしく「テオ陛下」とお呼びしましょうかね。
物語は、エヴァ王女とテオ陛下――2人きりの会談から始まります。
まず1つめは、豊かな資源溢れるこの国そのもの。
2つめは、国の柱を支えてくれるハイドランジアの民衆たち。
そして3つめは、28人の子をもつ王の末娘……エヴァンシュカ・リアイス・トゥルーデル・フォン・ハイドランジア王女――いえ、言いたい事はよく分かりますよ。
もう本当に長いので、「エヴァ王女」とでも覚えて頂ければ結構です。
エヴァ王女は、王にとって可愛い末の娘である事を差し引いても――本当に優秀な、素晴らしいお方です。
王の至宝どころか、王国民の至宝と言っても差し支えないでしょう。
輝かんばかりの金色の髪は緩やかに波打ち、腰の辺りまで伸びたそれは枝毛ひとつ見当たりません。
国王譲りの碧眼は深い海のようで――髪と同じ金色の、長い睫毛で縁取られています。
ほっそりとした首筋、コルセットで締め上げられたウエストなどは折れそうで……手足も棒のようで。
湯上りムキ卵のような――ああいえ、白磁のような肌はシミひとつなく透き通り、お餅のような柔肌はモチモチと――……ええ、はい、すみません。
例え話が下手なもので……もう、「やだー超可愛い! お人形さんみたーい!」と思ってくだされば、それで結構です。
――とにかく、エヴァ王女はハイドランジア国随一の美姫として崇め奉られている訳ですね。
それも、王女の凄いところは見た目の美しさだけではありませんよ。
出生後2週間でハイハイを覚えて、その更に2週間後には喃語ながら「としゃま」「かしゃま」とご両親を呼んでおられました。
その1か月後には、つかまり立ちどころか2本の足で歩行して――生後半年を迎える頃には、喃語はすっかり鳴りを潜めて、ご両親を「お父様」「お母様」と呼び始めるという可愛げのなさ。
……失礼、「聡明さ」の間違いでした。
基本的な読み書きをマスターしたのは3歳、計算は4歳。
5歳の頃には代表的な外国語を2か国語ほどマスターしておりましたっけね。
エヴァ王女ほど「神童」という言葉が似合う童子は他におりませんでした。
何をするにも万能なお方でして、わたくしなどは彼女の事を陰で「エ万能王女」と呼んでいる程でございます。
――ただしこのエヴァ王女、ご自身がどれほどイレギュラーな存在であるか、まるで理解されていらっしゃらないのが玉に瑕。
無自覚に万能っぷりを見せつけた挙句「え、このくらいは誰にでも出来るものでしょう?」「何がそんなに凄いのかしら、本当に分からないの……」「わたくしったらまた、何かやっちゃいましたかしら?」なんて迫真のキョトン顔で言われた日には、よくも人の神経を逆撫でしてくれたなオイ、と思う訳です。
いえいえ、わたくしの個人的な感想ではありませんよ? あくまでも一般論です、一般論。
とにかく、エヴァ王女は優秀で――しかも大変お美しい、非の打ちどころのない女性です。
割と頻繁に天然ボケだなとも思いますけれど、その欠点さえも愛らしいお方で……王だけでなく、民衆からも愛されている事は間違いありません。
――しかしこの無自覚万能っぷりと天然ボケに苛立ちを覚えて、王女を敵視する者もしばしば現れるのです。
わたくしは、エヴァ王女と敵対勢力のバトルする様を見るのが大好物でして。
まあバトルと言いましても、天然ボケの王女様が相手の悪意に一つも気付かない事が多いので――試合にすらなっていない事がほとんどなのですが、それが見ていて愉快痛快で。
ざまぁというヤツですね。……口が悪いですか?
それにしても普段あれだけ優秀なくせに、周りからドロドロに甘やかされて、愛され過ぎた結果なのでしょうか?
どうもエヴァ王女は、人の悪意というものが上手く感じ取れないようなのです。
そういった悪意から守るために、わたくしが存在している訳なのですけれど――。
――とまあそんなこんなで、エヴァ王女のお話を進めさせていただきたいのですが……物語は、19歳の誕生日を目前に控えられたエ万能王女とその父君、国王であらせられるテオフィリュス・ガウリー・ヴェンデルベルト・フォン・ハイドランジア陛下――――――――――いや、ええ、そうですね。可愛らしく「テオ陛下」とお呼びしましょうかね。
物語は、エヴァ王女とテオ陛下――2人きりの会談から始まります。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる