無自覚万能王女様は、今日も傲慢な転生者を悪気なく退治している。

卯月ましろ@低浮上

文字の大きさ
2 / 70
第1章 万能王女と転生ヒロイン

1 王女と密談

しおりを挟む
 ――とある昼下がりのお話です。

 エヴァンシュカ・リアイス・トゥルー……ああ全く本当に名前が長いな王女様は、テオフィリュス・ガウリー・ヴェン……一体どうなっているんだこの王家の名前の長さ陛下に呼び出されました。

 ハイドランジア城にある玉座の間――謁見の間とも呼ばれますね。
 部屋の中央には、入り口から玉座にかけて真っ直ぐ赤い絨毯が敷かれています。

 当然、玉座は他の床よりも高い位置。二十数段ある階段が続いた先に設置されております。
 陛下と王女は向き合っておられますが、何やらいつもとは様子が違うようです。

 通常時であれば玉座のすぐ傍――階段の上までエヴァ王女を手招いて、心ゆくまで撫で撫でしておられるのですが……本日はテオ陛下が玉座に腰掛けて威厳たっぷりの表情、エヴァ王女は階段の下で恭しく頭を下げておられます。

 他人の目がある訳でもないのに、まるで公式行事の際の「よそ行きモード」でございます。
 わたくし自身かなり久々に見ましたが、どうも陛下は王女に真面目なお話があるようですね。

 1週間後にめでたく19歳を迎えられるエヴァ王女は、末のお姫様。テオ陛下にとっては目に入れても痛くないほど可愛い、初孫のような存在ですね。

 本来であれば王女という立場上、とっくの昔に他国の王族または自国の貴族――王女が降嫁こうかする事で権力が集中しすぎる事のない、いい塩梅あんばいの地位に居る貴族――へ嫁いでいてもおかしくありません。

 それが何故いまだに独身で婚約者の1人ももたずに、ぬくぬくと王宮で過ごしていらっしゃるのかと言えば――それは決して「行き遅れ」という訳ではないのです。

 ――いや、行き遅れている事に違いはないかも知れませんが、これには、のっぴきならない理由があるのです。

 まず第一に、テオ陛下のエヴァ王女好き過ぎ問題。
 正しくはエヴァ王女のご母堂ぼどうも娘の事好き過ぎ問題なのですが、ちょっともうこれ以上長い名前を紹介するのが辛いので、今回、ご母堂については割愛させて頂きましょう。

 テオ陛下は末娘のエヴァ王女を格別に溺愛しておられます。
 一に「いのう」二に「いのう」、三四も「いのう」五に「いのう」。ええ、「いのう」のバーゲンセールでございます。

 子供が28人居る上にその末娘が今年19、そしてこの喋り方で皆さんおおよその予想はつくかと思いますが、テオ陛下はなかなかのジジイ……ご高齢です。

 元は艶のある黒髪だったものがいつの間にやら真っ白になり、同じく真っ白の、長い口髭をたくわえております。
 王宮内に飾られた偉っそうな肖像画を見る限り、若かりし頃は精悍なお顔立ちをされていたテオ陛下も――80を過ぎれば、目尻から口角から、色々なところが垂れ下がってくるものです。

 ――諸行無常ですね。

 そのジジイ度も相まって、余計にエヴァ王女が可愛くて仕方がないのでしょう。
 彼女のすぐ上の姉は、今年29と「とう」が立っておりますし。

 そのため王女は、「可愛いルディだけは、いつまでもワシと一緒にお城に住むんだもんね~?」なんて好々爺こうこうやのような顔をしたテオ陛下に、頭を撫で撫でされる日々を送っておられます。

 ――ああ、「ルディ」というのは特に親しい者の間で使われるエヴァ王女の愛称です。
 王女のお名前のトゥ……トゥルなんとかいう部分から抜粋されたものでございますが、まあ、頭の片隅にでも置いておいて頂ければ結構です。

 テオ陛下の存在だけでも相当に重いのですが、エヴァ王女が行き遅れている最大の理由は別にあります。
 それは、他でもない王女自身にある問題なのですが――おや、陛下と王女の会談……と言いますか、密談が始まったようです。
 少し覗いてみましょうか。


 ◆


「エヴァンシュカ、顔を上げなさい」
「はい、陛下」

 普段あまりされる事のない呼び方に、エヴァ王女の表情はやや硬くなっておられます。
 もしかするとこれは結構、深刻なお話し合いなのかも知れません。
 テオ陛下はいつもの「好々爺モード」を完全停止して、ぴくりとも笑わないままに続けました。

「お前も、もう19になる。そして1年後には20歳――成人だ。ワシの言いたい事は分かるな?」
「…………分かっています、「契約」ですもの。ですがわたくしはまだ、何ひとつとして諦めておりませんわ」

 真っ直ぐに陛下を見上げて淀みなく答えた王女に、陛下は鷹揚おうように頷かれました。

「うむ、その意気やよし。聡明で気骨のあるワシの可愛いエヴァンシュカーーお前の目的達成のため、来週の誕生パーティにささやかなプレゼントを贈ろうと思う。当日を楽しみにしていると良い」
「プレゼント……ですか? 目的達成のためと言われましても……こればかりは人の手を借りる事なく、わたくし自身の手で遂行しなければ意味がありませんわ」
「――エヴァンシュカ、期限が近付いているのは、何もお前だけではないのだよ。一刻も早く結婚相手を見付けて、ハイドを安心させてやりなさい」

 陛下のお言葉に、エヴァ王女はグッと唇を噛みしめておられます。

 ハイドというのは、王女の唯一の護衛騎士を務める――ああ、そうです、大変申し遅れました。
 わたくし、エヴァ王女の護衛騎士を務めるハイドと申します。どうぞ以後お見知りおきくださいませ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...