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第4章 万能王女の実力
2 ジョーの素養
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場所は変わって、王女占有の訓練場――ええ、そうです。王女専用のものは庭園だけではございませんよ。
大浴場に温室、書庫に倉庫にスノウアシスタントグッズ置き場。そして一度も使っているの見た事がないキッチンまで――エ万能王女、やれば出来るのですが「料理する」という行為にあまり楽しみを見出せないご様子なのです――お爺ちゃん陛下の、親バカぶりを舐めないで頂きたい。
わたくしは翡翠宮まで出向いてジョーを誘うと、王女とわたくし以外に使う者の居ない訓練場へやって参りました。
ちなみにエヴァ王女は現在、ドレスではなく動きやすい服に着替えると言って席を外しております。先ほどドレスを選んだばかりなんですけどね……貴族の女性はとにかく着替えの回数が多くて大変です。
――もちろん侍女のアメリには、くれぐれもチャーシューのコスプレを許すなと、強く言い含めまておりますよ。
そうして王女を待つ間、わたくしはジョーの基礎体力を知るため……「遊び」と称して、ちょっとした試験を行いました。
訓練場内を走り込んでみて、体力はどうか。
腕立て伏せを連続でどれくらい出来るのか調べて、筋力はどうか。
体の柔軟性はどうか、器用さは――いえ、これは調べるまでもございませんでしたね。
折り鶴と言い王宮内の手作り地図と言い、彼の手先は職人レベルに器用ですから。
――そうして試験した結果、ジョーのポテンシャルは何から何までわたくしを凌駕しておりました。
わたくし護衛騎士だなんだと偉そうにしておりますが、所詮は一般的な戦闘訓練を受けただけのヒョロガリですからね。
その点ジョーは、やはり細身に見えるだけでしっかりと男性らしい体つきをしていらっしゃるようですし……これは期待大です。
もしかすると本当に、彼こそが王女の「絵本の騎士」となり得るのではないか――そんな思いでもって、わたくしは「自衛のために剣を習うつもりはないか」と提案いたしました。
「――あっ、いや、俺、剣はちょっと……」
ジョーは「久しぶりにこんなに動いて、楽しかったッス!」と朗らかに笑っていましたが、しかし彼の返答は芳しくありませんでした。
不思議に思って首を傾げれば、ジョーは気まずげにモニョモニョと訳を話します。
「いや俺、ちょっとスキルが特殊なんスよねえ……武器を使うセンスが皆無って言うか、なんと言うか――」
「おや……こんなにも素養に恵まれているのに、残念ですね」
「いやいや素養なんて、買いかぶりすぎッスよハイドさん! 俺はただ孤児院暮らしが長かったから、体力に自信があるだけ――…………」
ジョーはそこで不自然に言葉を切ると、ちらりとわたくしの顔色を窺いました。
「――どうかされましたか?」
「あーいや、その、何つーか……コレ、聞いて良いのかよく分かんないんスけど……」
「はい」
「ええと……ハイドさんと俺、前に会った事ある――ッスよね……?」
その問いかけに、わたくしは知らずの内に笑みを深めました。
――そうなのです。
少年のような笑い顔に何となく見覚えがあるとは思っておりましたが、わたくし以前にも、ジョーと顔を合わせておりました。
しかしもう10年以上前の事ですし、当時のわたくしと今の――何から何まで「絵本の騎士」を演じるようになったわたくしとでは、かなり印象が違うはずです。
それでもわたくしの事を覚えていてくださるとは、嬉しい限りですね。
当時彼も相当幼かったのに、なんと記憶力のよろしい事でしょうか。感心です。
「会った事はあります。けれど、その話はアデルお嬢様にはなさらない方がよろしいかと――幼い頃に私と接点を持っていたなどと知られれば、聡明なお嬢様に貴方の「素性」まで丸裸にされてしまいますよ。……まだお嬢様と、お友達でありたいのでしょう」
わたくしの指摘に、ジョーはグッと息を詰まらせました。
そうして懇願するような眼差しを向けられると、わたくしは困ってしまいます。
「――そう心配なさらずとも、わたくしの口からは何も言いませんよ。貴方は貴方のタイミングで、直接お嬢様に伝えなさい」
「でも……やっぱアデルは、騙されてて良い気持ちはしないッスよね――」
「ああ、その点もご心配なさらず。「アデルお嬢様」だって貴方に対する隠し事の1つや2つございますよ、人間なんて皆そんなものです」
まず、名前と素性を偽っていますからね。
罪の度合いで言えばジョーよりも、エヴァ王女の方がよほど重いでしょう。全く困った王女様です。
「ハイドさん……は、俺がアデルに近付いてなんともないんスか? 騎士とか何とかよく分かんねえけど……でも、アデルの事スゲー大事ッスよね」
「わたくしが望むのは、お嬢様の幸せのみですよ。ジョーが幸せにしてくれるならば、何も文句はありません」
「えっ、いや、そ、そういう話じゃあなくて、何つーか……――いや、でも、そういう話なのか……? 俺、アデル好きだもんな……」
1人納得しておられるジョーに、わたくしは微笑ましい気持ちにさせられました。
言葉から察するに、エヴァ王女の一方的な片想い――という訳でもないのでしょう。
まあそれも当然です。何せエヴァ王女はハイドランジアの至宝、比類なき美姫でございますから。
――その上、あの面白い中身でしょう?
これだけ王女に好かれておきながら、「いや、俺は別に好きじゃねーッスね!」なんて言い出したら、人中をグーで殴りますよ。
わたくしはこれも良い機会だと思い、ジョーの考え……ヴェリタス子爵の手駒になった彼の目的を調べる事にいたしました。
大浴場に温室、書庫に倉庫にスノウアシスタントグッズ置き場。そして一度も使っているの見た事がないキッチンまで――エ万能王女、やれば出来るのですが「料理する」という行為にあまり楽しみを見出せないご様子なのです――お爺ちゃん陛下の、親バカぶりを舐めないで頂きたい。
わたくしは翡翠宮まで出向いてジョーを誘うと、王女とわたくし以外に使う者の居ない訓練場へやって参りました。
ちなみにエヴァ王女は現在、ドレスではなく動きやすい服に着替えると言って席を外しております。先ほどドレスを選んだばかりなんですけどね……貴族の女性はとにかく着替えの回数が多くて大変です。
――もちろん侍女のアメリには、くれぐれもチャーシューのコスプレを許すなと、強く言い含めまておりますよ。
そうして王女を待つ間、わたくしはジョーの基礎体力を知るため……「遊び」と称して、ちょっとした試験を行いました。
訓練場内を走り込んでみて、体力はどうか。
腕立て伏せを連続でどれくらい出来るのか調べて、筋力はどうか。
体の柔軟性はどうか、器用さは――いえ、これは調べるまでもございませんでしたね。
折り鶴と言い王宮内の手作り地図と言い、彼の手先は職人レベルに器用ですから。
――そうして試験した結果、ジョーのポテンシャルは何から何までわたくしを凌駕しておりました。
わたくし護衛騎士だなんだと偉そうにしておりますが、所詮は一般的な戦闘訓練を受けただけのヒョロガリですからね。
その点ジョーは、やはり細身に見えるだけでしっかりと男性らしい体つきをしていらっしゃるようですし……これは期待大です。
もしかすると本当に、彼こそが王女の「絵本の騎士」となり得るのではないか――そんな思いでもって、わたくしは「自衛のために剣を習うつもりはないか」と提案いたしました。
「――あっ、いや、俺、剣はちょっと……」
ジョーは「久しぶりにこんなに動いて、楽しかったッス!」と朗らかに笑っていましたが、しかし彼の返答は芳しくありませんでした。
不思議に思って首を傾げれば、ジョーは気まずげにモニョモニョと訳を話します。
「いや俺、ちょっとスキルが特殊なんスよねえ……武器を使うセンスが皆無って言うか、なんと言うか――」
「おや……こんなにも素養に恵まれているのに、残念ですね」
「いやいや素養なんて、買いかぶりすぎッスよハイドさん! 俺はただ孤児院暮らしが長かったから、体力に自信があるだけ――…………」
ジョーはそこで不自然に言葉を切ると、ちらりとわたくしの顔色を窺いました。
「――どうかされましたか?」
「あーいや、その、何つーか……コレ、聞いて良いのかよく分かんないんスけど……」
「はい」
「ええと……ハイドさんと俺、前に会った事ある――ッスよね……?」
その問いかけに、わたくしは知らずの内に笑みを深めました。
――そうなのです。
少年のような笑い顔に何となく見覚えがあるとは思っておりましたが、わたくし以前にも、ジョーと顔を合わせておりました。
しかしもう10年以上前の事ですし、当時のわたくしと今の――何から何まで「絵本の騎士」を演じるようになったわたくしとでは、かなり印象が違うはずです。
それでもわたくしの事を覚えていてくださるとは、嬉しい限りですね。
当時彼も相当幼かったのに、なんと記憶力のよろしい事でしょうか。感心です。
「会った事はあります。けれど、その話はアデルお嬢様にはなさらない方がよろしいかと――幼い頃に私と接点を持っていたなどと知られれば、聡明なお嬢様に貴方の「素性」まで丸裸にされてしまいますよ。……まだお嬢様と、お友達でありたいのでしょう」
わたくしの指摘に、ジョーはグッと息を詰まらせました。
そうして懇願するような眼差しを向けられると、わたくしは困ってしまいます。
「――そう心配なさらずとも、わたくしの口からは何も言いませんよ。貴方は貴方のタイミングで、直接お嬢様に伝えなさい」
「でも……やっぱアデルは、騙されてて良い気持ちはしないッスよね――」
「ああ、その点もご心配なさらず。「アデルお嬢様」だって貴方に対する隠し事の1つや2つございますよ、人間なんて皆そんなものです」
まず、名前と素性を偽っていますからね。
罪の度合いで言えばジョーよりも、エヴァ王女の方がよほど重いでしょう。全く困った王女様です。
「ハイドさん……は、俺がアデルに近付いてなんともないんスか? 騎士とか何とかよく分かんねえけど……でも、アデルの事スゲー大事ッスよね」
「わたくしが望むのは、お嬢様の幸せのみですよ。ジョーが幸せにしてくれるならば、何も文句はありません」
「えっ、いや、そ、そういう話じゃあなくて、何つーか……――いや、でも、そういう話なのか……? 俺、アデル好きだもんな……」
1人納得しておられるジョーに、わたくしは微笑ましい気持ちにさせられました。
言葉から察するに、エヴァ王女の一方的な片想い――という訳でもないのでしょう。
まあそれも当然です。何せエヴァ王女はハイドランジアの至宝、比類なき美姫でございますから。
――その上、あの面白い中身でしょう?
これだけ王女に好かれておきながら、「いや、俺は別に好きじゃねーッスね!」なんて言い出したら、人中をグーで殴りますよ。
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