無自覚万能王女様は、今日も傲慢な転生者を悪気なく退治している。

卯月ましろ@低浮上

文字の大きさ
35 / 70
第4章 万能王女の実力

7 アリーの恋愛相談

しおりを挟む
 エヴァ王女はカレンデュラ伯爵令嬢を私室へ招き入れると、ジョーと会うまでの僅かな時間で「恋愛相談」をスタートしました。
 令嬢はまず攻略対象の情報をよこせと仰られたため、「ジョー」という人物がどのような相手であるか、軽く説明いたします。

「……孤児院出身のただの平民で――今は子爵の養子? しかも、顔立ちはハイドの方が綺麗……?」
「ええ、そうですの。ですがジョーはとっても博識で、わたくしの知らない事も沢山ご存じなのよ。ただ賢いだけではなく政務に関する知識も豊富で――発想も斬新です。もしも彼に領地を与えたらどうなるのかしら、とても面白い領になりそうですわ」

 ニコニコと笑いながらまるで惚気のような紹介を受けて、カレンデュラ伯爵令嬢はひくりと口の端を引きつらせました。
 その口元を注視すると、「いやいや、たぶんだけど攻略キャラではないでしょう……」と呟いたように見えます。

「元々はプラムダリアの孤児で――あ、プラムダリアはハイドランジアで「奇跡の孤児院」と呼ばれる所ですわ」
「奇跡の孤児院?」
「ええ。「スノウアシスタント」先生のご活躍により、孤児院の収入は右肩上がりですの。普通孤児院というのは、国から援助を受けて経営されるものですけれど……今やプラムダリアは国から一切の補助を受けておりません。先生は幼い時分から、庶民向けの画期的な生活グッズの発明に余念がなく――ある程度大きくなられてからは、劇作家としてのお仕事や大衆小説の執筆もしておられますのよ」
「へえ……その「雪のお手伝いさん」って凄いのね? その人が稼ぐお陰で、わざわざ国に頼らなくても孤児院が経営出来てるって訳か――」

 素直に感心なさるカレンデュラ伯爵令嬢に、エヴァ王女は「そうでしょう」と、まるでご自分の事のように嬉しそうに頷いておられます。
 王女は本当に「スノウアシスタント」の大ファンなのです。
 彼の執筆された恋愛小説はもちろんのこと、彼が開発したと言われる生活グッズの数々についても高評価をつけておいでですからね。

 そもそも何故「孤児の発明したモノ」が国中で愛されているのかと言えば、それはただ単に便利だからというだけではありません。
 いくら便利なものだろうが、平民の中でも底辺と呼ばれる「孤児」の開発したモノを使うのは――悲しいかな、誰だって抵抗がある訳です。
 特に貴族の中には、「けがらわしい」「下賤げせんだ」なんて仰る方も多くいらっしゃるでしょう。

 そうした反発が少なく済んでいるのは――ハイドランジアの至宝であるエヴァ王女が、進んで使用していると公言なさるからに他なりません。

 プラムダリアから発売された、羊皮紙ではないツルツルサラサラとした紙。そして不思議な書き心地の筆記具は、専用のゴムで擦ると手軽に修正が出来ます。
 紙を何枚も購入する費用のない貧困層向けには、白色ガラスのような板と指で擦るだけで消える特殊なインクの入ったペンも販売しています。――早い話が、前世で言うところのホワイトボードセットですね。

 王女は特にこれらを愛用していて……彼女がここまで聡明になったのも、書いては消してを心ゆくまで繰り返す事ができた筆記具のお陰でしょう。

 皆に愛される王女が「素晴らしい」「好きだ」と言って使うのですから――それらの品物を批判するという事はつまり、エヴァ王女自身を否定することに繋がります。
 そうなった場合、あのうるさい「テお爺ちゃん」が黙っているはずがありませんからね。

「ジョーとは、スノウアシスタント先生の事がキッカケでお友達になりましたの。守秘義務があるでしょうに、それでも先生について話してくださると仰って――その優しさに胸を打たれましたわ。ですからわたくし、彼や先生に迷惑を掛けないようにしなければと思いまして……先生の素性については聞かないと決めておりますのよ」
「ふうん……」

 ジョーについてある程度の情報収集を終えた伯爵令嬢は、納得したように頷きました。

「ジョーって人が賢いのも、その先生が居る孤児院で一緒に育ったからって事?」
「ええ、そうだと思いますわ。ジョーが仰るには、スノウアシスタント先生が発明した品を、施設の子供達が力を合わせて生産しているとの事で――ですから製法や仕組みなど、プラムダリアの子供達なら皆ご存じなんですって」
「へえ、「働かざる者食うべからず」とは言うけれど……なかなか大変そうな孤児院ね。まあ、稼いだお金で贅沢が出来るならそれで良いのかしら?」

 カレンデュラ伯爵令嬢の鋭いご指摘に、エヴァ王女はこれでもかと首を傾げられました。

「大変そう? 何故ですの? ……素晴らしいスノウアシスタント先生のご指示のもと、まだ見ぬグッズの開発にたずさわれるのですよ? それ以上に栄誉な事がこの世にあるでしょうか――」

 うっとりと陶酔とうすいしたような表情で語るエヴァ王女に、カレンデュラ伯爵令嬢が若干引いたような顔つきになりました。
 王女はスノウアシスタントの熱狂的な信者ですから、このような考え方になっても仕方ないのです。

 ――いえ、わたくしといたしましても、さすがに傾倒しすぎなのではと心配になる時がございますけれどね。

「いや、皆が皆「栄誉」とは思っていないんじゃあないの。特に孤児なんて――別に好きでその孤児院に入った訳じゃあないでしょうし、小さな子供だったら、栄誉やお金よりもまず遊びたいと思うけど」
「遊び? ――そう……そうですわね。言われてみれば、その通りですわ……生活のためとは言え、幼子を労働力として扱うのは虐待に近いものがありますわね。子供を働かせなければ生活できないと言うならば、そもそも国からの援助を断る意味がありませんもの――」

 何やら気付けば、すっかり「恋愛相談」ではなくなっています。
 国の機関と孤児の行く末を憂い始めた王女に、カレンデュラ伯爵令嬢は話を戻そうと小さく咳払いしました。

「ええと……とにかく、そのジョーってのを落とすのよね? 結婚したいって話よね?」
「そ――ええと……そう、そうかも、知れませんわ……」
「何よ、ハッキリしないわね……」
「だって、ジョーは……まだ会って日も浅いですし――向こうがわたくしの事をどう思っているか。ジョーは本当に面白い方で、一緒に居ると楽しいですけれど……ただ唯一、「絵本の騎士」らしさが足りませんの」

 神妙な顔つきをされた王女の言葉に、カレンデュラ伯爵令嬢は「絵本の騎士らしさって何よ」と首を傾げられました。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...