ポンコツ気味の学園のかぐや姫が僕へのラブコールにご熱心な件

鉄人じゅす

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4章 3学期

113 月夜の誕生日⑧

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 旅館の外を歩いて数分、まわりに木々のない広場まで来ると空一面満天の星空となっていた。
 星についてはそこまで詳しくはない。冬の大三角とか冬の大大六角とか聞いたことあるけど……今度調べてみようかな。
 都会の空では味わえない、なんて素晴らしい景色だろう。
 もう夜も遅いし、少し冷えるな。後で露天風呂で温まるのもいいだろう。
 さてとこの星空をみんなに。いや、まずあの子に見せてあげたい。
 この美しい夜空に負けていない……美しいあの子にこの空を。このムードでこれを渡したいな。
 ずっと懐に入れたままのそれを僕はちらりと見る。

「あれ?」

 旅館の方から誰かがこちらの方に向けて歩いてくる。
 足音がどんどん近づいて月の光がそれを写し出した。

「月夜……」

 当の本人が来てくれるなんて。ベストタイミングじゃないか。
 僕は月夜の側に駆け寄る。

「月夜見てよ、この星空。すっごくキレイだよ!」
「そうですね」

 あれ、何だか感動が薄い? いつもだったらほんとだー! なんてその澄んだ声で言ってくれるはずなのに。
 今気づいたが、月夜の顔はどこか険しい。
 怒ってるように見える。

「どうしたの?」
「太陽さん……私は今、すごく怒っています。何でか分かりますか」

 ほんの数分前はニコニコしてたのに。
 真面目にまっすぐ僕の目を捉えていた。今日のスノボーやお風呂の時のような感じはどこにもない。

「人生で2番目くらいに強い怒りを感じています」
「え、……1番目は?」
「迫って、トイレに逃げられたあの時です」
「どっちも僕関係!?」

 月夜を怒らせるようなこと……。今日一日を思い出す。
 多分お風呂に入って以降だろう。何だ、何をやらかした。

「晩御飯の量が少なかったとか」
「違います」
「大好きなエビフライがなかったとか」
「違います」
「月夜の狙っていた大トロ寿司を目の前で取っていた……あの時?」
「ああ! やっぱりわざとだったんですね、ひどい!」

 それも違うのか……。あれぐらいしかない気がするんだけど。

「何で食べ物関係ばかりなんですか」
「月夜はいつも優しいから……ニコニコした笑顔が魅力的だからそれ以外で想像できないや」
「っ! そ、そんなときめくようなこと言わないでください」

 ときめかせた覚えはないんだけど…‥。
 月夜は頬を紅くさせ、くりくりの二重の瞳を反らした、

「……太陽さん、誕生日はいつですか」
「……何でそれを」
「カードケースを落としてましたよ」

 月夜は僕にカードケースを手渡す。くそ、落としてたのか。ここの1枚目に学生証も入れている。
 そこには僕の誕生日が書かれていた。

「太陽さん、17歳の誕生日……おめでとうございます」
「……ありがとう」

 そう、2月7日は月夜の誕生日でもあり、僕の誕生日でもあったのだ。
 月夜は前へと体を乗り出した。

「何で言わないんですか! 言えば……2人一緒に祝えたのに何で!」
「みんなが望んだのは月夜の誕生日だ。僕の誕生日なんて別に」
「本当にそう思ってるんですか!?」

 月夜の口調は荒くなる。こんなに激高するなんて……そんなに悪手だったのだろうか。
 貸し切り大浴場での言葉を思い出す。

 私達はみんなあんたを大事な友達だと思ってるよ。

 北条さんの言葉にみんな頷いた。
 もっと早く分かっていればよかったんだな。

「ごめん、言い出せなかった。月夜を祝いたいことしか考えてなくて……自分のことは後回し」
「いつもそう! 太陽さんはいつも人のこと……誰かのことばかり! 自分にまったく興味がない!」

 月夜の言葉は続く。

「私だって祝いたかった。太陽さんの誕生日プレゼントを何がいいかずっと考えていたんです!」

 何も言えなかった。そこまで思ってくれて……いや、当然だろう。
 このグループで誕生日会が始まったのが5月。それから全員の誕生日には今回ほどではないが誕生日会をしていた。僕も全部参加していたし、誕生日プレゼントの提案もしていた。
 僕が誰か祝うことはあっても、僕は祝われることはない。初めからそう思い込んでいた。だから月夜の誕生日会をやろうという話を受けた時、誕生日が一緒であることを知っていたが僕は誰にももらさなかった。

「今からでも遅くない、みんなに話して」
「やめろ! そんなことをするな!」

 僕は頭がかっとなり、強い口調で言ってしまう。
 月夜はその言葉の圧に怯え、顔を俯かせる。
 しまった……。こんなことするつもりはなかったのに。 僕は心を落ち着かせる。

「いいんだ。みんなが楽しいと思ってる内に終わればいい……。それで十分だよ」
「私は……納得できません」
「だったら」

 僕は今の状況で祝われたいとは思っていない。むしろ、それでみんなが嫌な気持ちになる。そうなってしまう方がつらい。
 でもこうやって好意のある月夜が祝おうとする気持ちを伝えてくれることが何より嬉しい。

 みんなに祝われる必要はない。

 僕は月夜の手を引っ張っり、自分の方へと手繰り寄せた。その勢いのまま両手で深く月夜を抱きしめる。
 左手を腰にまわして、右手を月夜の栗色の髪に回す。自分でもびっくりなほどスムーズに抱きしめることができた。

「あっ……」
「だったら祝ってよ。他のみんなはいらない。月夜だけが祝ってくれるならそれでいい」
「……ずるいです」

 月夜は泣いているようにも見えた。言葉がつまり、いつものような綺麗な声が出ていない。
 いつも優しい月夜が僕にだけ見せてくれる月夜の感情が嬉しい。
 僕は抱きしめる手を緩めて……彼女を離した。

「納得はしませんが、太陽さんが望むなら……我慢します」
「ごめんね、ありがとう」
「……夜空綺麗ですね」

 僕は後ろを振り向き、月夜の言葉に深く頷く。
 ああ、本当に綺麗だな。互いに空を見上げてこの満天の星空を2人で楽しみたい。
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