そこは誰もいなくなった

椿 雅香

文字の大きさ
5 / 27

プロローグ――秘密基地(5)

しおりを挟む
 それからが、大変だった。



 どの家を秘密基地にするか決めるべく、全ての家をチェックして回らなければならなかったのだ。
 
 しかも、全ての家に鍵がかかってなかったわけじゃなかった。

 つまり、施錠されている家もあったのだ。
 そういう家は、諦めてすっ飛ばすしかないのだが、もしかして、鍵のかかった家の方が秘密基地に向いているかもしれない、と思うと、見逃すことはできなかった。
 
 
 簡単に言うと、好奇心を抑えることができなかったのだ。

 

 鍵のかかった家に入るため、俺たちは、こっそりピッキングの練習をした。
 
 ネットというのは、便利なものだ。
 両親にパソコンのインターネットの履歴を調べられたら一発でアウトだが、そのスリルもたまらない。

 
 
 そう言うと、祐樹が皮肉っぽく笑った。


「俊哉、お前、真面目が取り柄なんだから、悪い子になるなよ」

「何?それ。俺の取り柄は、真面目だけか?
 
 俺だって、聖人君子じゃない。
 第一、聖人君子なら、こんなところに来ないよ」


 ということで、学校の特別教室の鍵を使って、せっせと練習した。

 まあ、柴山で使われている鍵が簡単な南京錠だったり、せいぜいシリンダー錠だったので、初歩的なテクニックで開錠することができたのだが。

 

 鍵のかかった家というのは、しっかりしていて、埃こそ他とは変わらないものの、家財は、かつては値打ちものだったであろうことが想像できた。

 テレビの鑑定団に鑑定を依頼したいくらいだ。

 

 
 そうやって家々を回っていると結構変わったものがあって、見てるだけで楽しかった。

 餅つきに使う臼や杵、せいろまであったし、農作業に使うクワやスキやカマなんか話には聞いたことがあっても見るのは初めてだ。
 
 




 秘密基地を作るに当たって、俺たちはルールを決めた。

 集落の家に勝手に上がり込むのは、OK。
 そもそも、それを可としないと、全てが始まらない。
 
 家々にあるものを使ったり、それを他の家に持っていたりする集落内の物品の移動は、OKで泥棒とはならない。
 
 家々にあるものをこの集落から持ち出すこと、つまり集落内の移動じゃなく、他の地域へ持ち出すことは泥棒になる。

 
 まあ、万引きが成立するのは、商品を持ったまま店を出たときっていうあの理屈と同じだ。
 物品の移動をこの集落のエリア内ならOKだってことにしたのだ。

 

 俺たちは、気に入った一軒に手を入れて、滞在できるようにした。

 価値のなくなったものから新しいものを作る。
 一種のリサイクルだ。

 
 いろんな家から使えそうなものを集めて、秘密基地と定めた元小山さん家へ集めた。

 

 そうやって活動しているうちに、俺たちは電気が来ていないことに気が付いた。
 
 柴山ここへ来る途中、電線が切れて垂れ下がっている箇所があった。きっと、あれのせいだろう。
 ここらは、雪が深い。多分、雪のせいで電線が切れたのに、電力会社が住む人がいないから必要ないって判断して放置してるんだろう。

 水道だって、蛇口だけじゃなく元栓をひねっても水が出ない。
 しかも、全ての家で出ないのだ。
 
 多分、浄水場から集落までの間で水道管が破損して、それきりになっているのだろう。

 
 何しろ、ここには、水を必要とする住民がいないのだ。

 

 幸いだったのは、どの家にも井戸があったことだ。
 
 井戸は、家の中、しかも台所近くにあった。
 最初の日、井戸を探したのに見つからなかったのは、こういうわけだった。

 

 そして、ついにというか、ようやくというか、ある家で発電機を見つけた。
 
 最初、それが、何をする機械か分からなかった。
 正体が分かったとき、俺たち二人は小躍りした。
 
 現代社会では、電気がないと何もできないからだ。掃除機だって動かないし。


 


 廃屋とはいえ、所有者はいる。固定資産税だって誰かが払っているのかもしれない。

 
 高校生の俺たちには、世の中の仕組みは分からない。

「棄ててある」イコール「持ち主がいない」イコール「使ってもいい」と、至極単純な理屈で行動していた。





 俺たちは、勉強が忙しくても、学校行事が忙しくても、とにかく時間を作って出かけることにした。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...