そこは誰もいなくなった

椿 雅香

文字の大きさ
11 / 27

尋問(1)

しおりを挟む
 件の人は、中肉中背の関西弁のおばさんだった。

 関西の人は、大阪弁と京都弁や奈良弁は違うとか言うけど、俺たち他所の地域の人間には、関西弁は関西弁で、どれも同じように聞こえる。
 
 小山氏の親族は関西人だったのだろうか?
 それとも、この人が小山氏からこの家を買ったか借りたかしたのだろうか?
 
 
 気にはなったが、力関係は向こうの方が上だ。
 尋ねることもできない。

 

 俺たちは、言われるまま元小山氏宅へ連行された。

 

 元小山氏宅は、俺たちが秘密基地にしていた頃と全く変わっていた。

 同じ家とは思えないほど変わっていて、そのよそよそしさに居心地の悪さを感じた。

 おばさんは、俺たちが座敷と呼んでいた部屋をリビングと呼んでいた。

 確かに、リビングと呼ぶにふさわしい。それくらい変貌していた。
 洋風で、居心地がよさそうな部屋だ。
 でも、リビングにはつきものの、テレビがない。
 まあ、この人の趣味なんだろう。

 
 ソファに座るよう促され、尋問が始まった。

「ウチ、加藤百合言うんねん。
 七年前までこの家の持ち主だった小山聡一の孫や。

 あんたら、何者なにもんなん?」

 

 嘘をついても、事態は悪化するだけだろう。
 ひたすら泣いてすがって許してもらうしか手はない。
 
 きっと、怒られるだろう。
 家をいじったことで、弁償しろと言われるかもしれない。
 
 でも、他の家ならともかく、元小山氏宅には損害を与えていないのだから、弁償するって何か変だ。

 勝手に上がり込んで、好き勝手して使わせてもらったのだから、使用料を請求されるかもしれない。
 それだって、俺たちは修理や掃除をしたんだから、逆にこっちから賃金を請求したいくらいだ。
 

 でも、まあ、弁償か使用料かは別として、お金を払うには親に話を付けなければならない。
 
 それが痛い。
 これまで内緒にしてきた秘密基地のことを白状しなければならないからだ。

 
 きっと、無茶苦茶怒られるだろう。
 考えるだけで頭が痛い。
 
 
 身から出た錆だが、居たたまれない。

 
 でも、逃げようもないのも事実だ。
 
 

 仕方がない。
 俺たちは、正直に、それこそ馬鹿正直に白状した。



「俺は杉田祐樹。高校一年生です」

「俺も同じく高校一年の松村俊哉です」

「そう、祐樹くんと俊哉くん言うん。どこの高校?」
 


 やっぱり、それを訊くか?
 
 諦めて、学校名を告げると、意外な反応があった。


「そこって、ここらじゃお利口さんの行く学校やな。
 そんな学校の生徒が、柴山ここで何しとったん?」

 
 見りゃ、分かるだろう。と、言いたかったが、そんなこと言ってご機嫌を損じたら、損をするのは俺たちの方だ。

 

 加藤百合は、俺たちの口から白状させようとしていた。
 
 何というか、いたぶられているような気がした。
 でも、力関係を考えると……白状するっきゃない、か。

 
 ええい。どうにでもなれってんだ。



「「すみません!」」



 俺と祐樹は、テーブルに手をついて頭を下げた。
 勢いがつきすぎて頭がテーブルにぶつかったが、そんなことにかまっている場合じゃなかった。
 
 
 大きな音がして、百合もびっくりしたようだ。


「大丈夫?痛かったんやない?」


 あんたのせいだろ。とってつけたような優しい振りは、やめてくれ。

「そやけど、あんたら、謝るようなことしてたん?」

 じわじわと追いつめて来る。これって蛇の生殺しだ。

 こういう場合は、何も言わない方が良い。
 下手にしゃべると、損をする。

 長年のお袋とのバトルから学んだ知恵だ。

 
 俺たちが口をつぐむと、敵もさるもの、話題を変えた。


「あんたら、おもろい組み合わせやな。

 祐樹くんは、彫りが深こうて目鼻立ちがはっきりしとるハンサムさんや。でもって、背も高いし、見るからに肉食系や。
 対する俊哉くんは、細面で繊細、いかにも和風の男前って顔の草食系や。
 
 どういう関係?」
 
 
 俺たち二人に出会った人が、必ず尋ねるお約束の質問だ。
 このぐらいなら答えても良いだろう、といつもの返事をした。

「俺と祐樹は、幼馴染なんです」

「幼稚園から、ズッと一緒で、現在、二人でサイクリング同好会の活動してるんです」

「サイクリング同好会って、自転車で柴山ここまで来て活動するサークルのこと?」



 直球だった。
 
 さあ、いよいよ懺悔の時間だ。
 せいぜい情に訴えて、許してもらおう。


「ええ、始めは、いろんなところを走り回っていたんです。
 でも、あるとき、道を間違えて柴山ここに着いたら、ゴーストタウンみたいだったんで興味がわいて……」

 俺の説明を引き取って、祐樹が説明を続けた。

「どこも空き家みたいだったので、秘密基地作ろうってことになって、勝手で申し訳ないんですが、小山さん家を秘密基地にさせていただいたんです」
 
 
 俺たちは、もう一度テーブルに手をついて謝った。セエノ。


「「申し訳ありません!」」

 
 百合は喉で笑った。
 
 さほど気を悪くしていないようだ。
 
 俺たちは、少しだけ胸をなでおろした。
 このまま許してもらえますように。


「修理する材料とか、どうしたん?」

 百合が尋ねた。
 
 どうやら、俺たちがどういう方法で秘密基地を作ったか、徹底的に知りたいようだ。
 俺たちは、百合がいつ怒り出すかと、びくびくしながらも正直に話すことにした。

 だって、そうだろ?

 ここで嘘をついてバレた暁には、絶対学校に通報されて、俺たちは四方八方からお叱りを受ける羽目になる。
 そしたら、最悪、停学処分とか退学処分とかになるかもしれないのだ。


 こんなときは、下手な小細工をしない方が良い。
 
 祐樹も同じ思いだったのだろう。

 アイコンタクトで確認すると、真面目で信頼できる俺の仕事だと言わんばかりに、「お前の担当だ」と小声で言った。

 
 俺たちがトラブルに巻き込まれたときは、俺が謝ることになっている。
 
 というのは、祐樹が謝ると、とってつけたような態度になるので、相手を怒らすだけだからだ。


「こんなことだけ押し付けるんだもんな。後で覚えとけ」
 
 小声で抗議するが、そんなことで代わってくれるわけもない。

 いや、代わってもらっても、話がこじれるだけだ。

 腹をくくって、告白した。


「修理に使う建材は、よそのお宅の建材をいただいてきて使いました」

「よくそんなもの、置いたったな」

「いえ、置いてあるというより、家を構成している建材をその家が壊れる前にいただいてきたんです」

「てことは、よその家から引っぺがして来たってこと?」

「そういう言い方もできます」


 穴があったら入りたいとは、このことだ。

 ったく、祐樹のヤツ、あいつがやると逆効果だってことを良いことに、いっつもこういう役押し付けるんだから。
 
 もしかして、それ狙ってわざとやってるんだろうか。



「あきれた。つまり、よその家壊して、ウチの家修理したってこと?」

「お言葉ですが、その家だって、あのまま放置してたら、雪や台風なんかで壊れはずです。
  現に、春に俺たちが来たとき、二軒ほど壊れてたんです。
 集落中を一回りしたんですが、何とか建っているものの近々壊れそうな家が五軒はありましたし、多分、数年先には、ほとんどの家が壊れてしまうでしょう」

 俺たちが建材を引っぺがしたことの正当性を縷々説明すると、百合は斬って捨てた。

「そや。多分、あんた等の言う通りやろ。
 そやけど、現に家壊しとるやない」

 それを言われると辛い。
 
 俺たちは冷水を掛けられたように、シュンとした。


「あんたらは、無断で他人の家に上がり込んだ。これって、住居侵入罪や。
 でもって、勝手に他人の家を秘密基地にした。これって、不動産侵奪罪になるんや。
 そんでもって、秘密基地の補修のための材料を調達するため他の家を壊した。それって、建造物等損壊罪や。

 ほんま、犯罪のオンパレードや」
 
 
 ここまで理路整然と非難されると、申し訳なさで体がすくんだ。
 
 悪いとは思っていたけど、法律に触れるほど悪いことしてるとは思わなかったのだ。
 知らなかったから……で、許してくれないだろうか。
 
 だけど、この人、やたら法律に詳しい。
 一体、何者だろう?

 警戒警報が頭の中で鳴り響いた。

 そうだった。
 百合の正体を詮索するより、目の前の危機を脱出することが先決なのだ。
 
 自覚がなかったとはいえ、こんなに法律を犯していたのだ。
 この分だと、バレたら停学かも。いや、退学って可能性だってあるのだ。
 

 真っ青になった俺たちに、百合がおかしそうに笑った。

「学校にバレたら、えらいことになりそうやな」



 テレビのサスペンスで殺される人が言う台詞だ。
 こんなふうに脅かして金品をせびり、そのせいで進退窮まった犯人に殺されるのだ。

 もちろん、俺も祐樹も百合を殺す気なんかないけど、それにしたって、どこかで聞いたような陳腐なセリフで脅かされると、「やれるもんなら、やってみろ!」って言いたくなる。



 あんた、俺たちを脅しても何も良いことないぜ、って。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...