転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

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第六章『学校開校』

172話 最悪のアドリブ

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「ふむ。調べによれば、スカラ子爵は家族を人質に取られていたのだとか。宰相、これをどう解する?」

 スカラ子爵と言えば、飛行船船団が到着するまで、一ヶ月以上陛下たちを足止めした戦巧者だ。懐柔できれば良い戦力だが、裏切られると恐ろしい。

「家族を人質に取られていたとしても、主君に反逆することは許されません。スカラ子爵を助命することは、国法に反します」

 親父は、許されないまま顔をあげた。強く噛んだのか、唇が少し切れている。

「人間はミスをします。スカラ子爵は確かに反逆というミスをしましたが、その原因は侯爵の指示によるものです。陛下は先ほど、私のミスを冤罪とよんでくださいました! ミスはミス。そこに違いなどありません」

 やっぱりこれは出来レースではない。全部アドリブだ。ピリピリしてきて、まずいことになってきた。

「違いならある。公国派は余を国王とは認めず、塩の売却令の際も余の命を聞かなかった。これはスカラ子爵も同様であろう。そして、ジャワの攻防戦の際も、明確に反逆であることは自明であったろう。対して、ヴォイド卿は冤罪の前も余の命によく従っており、偽の命令も余の命令と認識して戦い抜いたのであろう? まったく違うではないか」

「私の功績で足りないなら、我が家の功績すべてでーーー」

 ダンッ、と杖で地面を打つ音が、すべての音を薙ぎ払う。
 会場の注目が、すべて義母さんへ集まる。

「おそれながら陛下、我が夫の家督の剥奪を奏上させていただきたく」

 他人の霊力など感じられない僕でもわかった。義母さんの限界まで圧縮された霊力が、周囲の景色を歪ませている。

 ここまで激怒した義母さんを、僕は知らない。

「待て! ジェクティ、どうしてーーー」

 義母さんの怒りもわかってしまう。このクソ親父。祝いの場のはずなのに、何でこんな雰囲気にしてしまうんだ。卒業式でプログラムにないサプライズをやるようなものだろう。ここは波風立てず、型通りの出来レースが基本のはずなのに。
 
「……一部認めよう。家督権の濫用を認め、国王権限において、ヴォイド・コンストラクタの家督を一時停止。結論が出るまでイント・コンストラクタが当主を代行せよ!」

 そんでもって僕が当主代行。陛下もアドリブがすぎるだろう。まぁ、今も領主代行とか王都屋敷の管理とか各種事業とか、家のことはほぼ全部僕が代行してる。仕事量は何も変わらないはず。

「その上で、現コンストラクタ男爵家を子爵家に陞爵、ジェクティ・コンストラクタおよびイント・コンストラクタは別途男爵位に叙する。ストリナ・コンストラクタは準男爵に叙する」

 つまり僕は子爵代行かつ男爵。爵位が二つになる。この場合どうなるのだろう? 同じ苗字の爵位の違う貴族は割といて、一門扱いになっている。しかし、例えば二つ爵位がある場合は片方返上しなければならないなど、何か伝統的なルールがあるとまずい。
 マナー論、変なルールが多すぎて全く把握できていないのだ。

「ジェクティ・コンストラクタ、ストリナ・コンストラクタ、前へ!」

 目を白黒させる僕を横目に、声をかける宰相閣下は楽しそうだ。

「……ちょっとイント、あんた知ってたでしょ?」

 隣にやってきた義母さんが、コソッと耳打ちしてきた。そんなことより相談したいのだが、義母さんもそれどころじゃなさそう。抑えた声が震えている。

「……知らないよ。義母さんこそ何も聞いてないの?」

 グルだと思われたら義母さんの怒りの矛先が僕に向く可能性もある。巻き込まれないように注意しなくては。

「……あのバカ、何か話したそうではあったんだけど、結局何も切り出してこなかったのよ」

 クソ親父、ついにバカ扱いになった。ホント何やってんだ。ちゃんと説明してくれれば、こんなことは防げた事故だったかもしれないのに。

「イント、ストリナ! 家族なんだから言わなくてもわかるよな! 頼む協力してくれ!」

 親父はまだ何か言っている。義母さんを見ると、呆れた軽く首を横に振られた。家族であっても、『言わなくてもわかる』わけがない。

「汝ら、新たな位を受けるか?」

 選択を迫ってくる陛下も、苦笑いを浮かべている。ここは親父に同調すべきか、それとも義母さんと国王陛下に同調すべきか。

「ありがたく拝領し、我ら一族の末永い忠誠と奉公を国王陛下と王太子殿下、そしてログラム王国に捧げます」

 結局、先ほどから聞いていた定型文を、少しだけアレンジして答えてみた。一瞬考えてみたものの、考えるまでもなくクソ親父に同調する道理がない。

 この国の貴族制度は、日本史で言うと鎌倉幕府の将軍と御家人に近い。『御恩と奉公』というやつだ。今回の本来の趣旨は、王太子殿下経由で僕らの功績を褒賞すること。いったん王太子を経由する意味はわからないが、その恩は王太子殿下と国王陛下から受ける形になる。
 親父の要望がどうなるにせよ、僕まで立場を失うわけにはいかない。僕らが従うべきは国だ。

 顔をあげると、国王陛下は満面の笑みだ。王太子殿下に視線を向けると、満足げにうなずいてくれた。僕が間違っていないことがわかって、ちょっとホッとする。

「イント・コンストラクタ! 壇上へ!」

 国王の元に徽章が運ばれる。玉座のある壇上へ上がると、陛下は満面の笑みで膝をつき、僕を軽く抱きしめた。国王陛下が膝をついたことが珍しかったのだろう。会場が、また少しざわつく。
 背が低いせいなので、踏み台ぐらい用意して欲しかった。

「やはりイント卿は賢いな。良い口上だった。息子を末長く支えてやってくれ」

 陛下の筋肉質な懐に包まれて、耳元で囁かれる。いや、僕にそう言う趣味はないんですけどね。

「もちろんです。あと父が申し訳ありません」

「お互い苦労するな。まぁ悪いようにはしないから」

 僕の肩をポンと叩いてから、王太子殿下を手招きする。陛下はやってきた王太子殿下の頭をポンと軽く叩く。

「イントはスタークの部下であると宣誓したぞ。徽章はスタークがつけなさい」

 うなずく王太子殿下は、まだ中学生ぐらいの年齢だ。式典中リラックスしてるとまでは言えず、二度ほど失敗してから、男爵位の銀色の徽章をつけてくれる。
 今の僕よりは年上だけど、前世の僕よりは年下。王太子殿下も大変だなぁと思う。

「これからもよろしく頼む」

 王太子殿下が微笑むと、自然に拍手が起きた。
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