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第六章『学校開校』
176話 ガス抜き試合
しおりを挟む霊力を圧縮すると、治りかけの足がまだ痛んだ。
「俺の親父は、お前の親父に殺された! 一発殴らせろ!」
目の前を木剣が通り過ぎて行く。この程度ならまだ大丈夫だ。木剣の通過に合わせて、軽く踏み込む。
「「「おおおおっ!」」」
それだけで、闘技場に詰めかけた観客が歓声をあげる。
パーティの場で酔っ払いが僕らの腕前を見せて欲しいと言い出し、王太子殿下がそれ受けたのだ。そしてその翌々日には首都の闘技場で観客に公開される試合が開かれることになった。
『おおっと! イント卿、華麗なステップ! まるで透明人間のように剣がすり抜けているぞ! 足を怪我しているとは思えない神業だ!』
実況までついている。親父はナログ共和国との戦争に参戦していた。つまり遺族がたくさんいるということで、戦争が終わっても、恨みは消えていない。
「そいっ!」
冒険者崩れの男の剣をギリギリでかわし、襟首をつかんで投げた。突進の勢いで、男は半回転して背中から落ちる。
『レフリーチェック! ……おっと気を失っているぞ! 試合終了だぁっ。イント卿、無傷の三連勝! 九歳とは思えない手際だぁ!』
僕には恨みがない。この人に後遺症が残らないと良いのだけど。
『さぁ、ストップがかからないので次の選手の入場です! 次の相手は西部国境警備隊の元旅団長だぁっ!』
一応、限界まで戦って、力を見せつけた後負ける予定だ。訪問前から想定されていた隣国のガス抜きである。復讐の機会を与えられた相手は例外なく熱くなっているので、僕が怪我しないことが最大の課題だ。
「貴様ら親子さえいなければ、ナログはもっと強くなれたのだ! 貴様らさえいなければ!」
今度の相手は異様な殺気を放っている。木剣も太く長い。階級もログラムで言ったら騎士団長。シーゲンおじさんと同格か。そんな人が青筋を立てて当たり散らしてくるとか、どうなってるんだろう?
『イント卿が剣を構えたぞ?? ついに仙術が見れるか!?』
「仙術がなんだ! ミスリルさえあれば我々は勝てたのだ!」
経験を積んだ冒険者が、筋力を超えた力を発揮したりすることがある。古来、どうしてそんなことが起こるか、色々と説明されてきたが、最近は『仙に至る』と表現されることが多い。
この人の気配には何か圧がある気がするので、もしかしたら仙に至っている可能性がある。マジメにやらないとダメそうだ。
「フン!」
鋭い踏み込み、とまでは行かないけど、直線的におっさんが突っ込んでくる。
痛みのある部分から漏れる霊力に構わず、僕は足に瞬間的に圧縮された霊力を送り込む。
『おっと? イント卿の姿が消えたぞ!? これは瞬間移動かぁっ!?』
いや、ただの縮地である。遠くのものはゆっくりに見えるので、観客席からだと割と見えたりするのだが、実況に見えなかったのなら僕の腕も上がっているかもしれない。
『一撃! 一撃だぁっ!』
いや、二撃だ。利き腕の肘を打ちあげて、刃を少しだけ返して剣の柄を跳ね上げた。それだけで剣は明後日の方へ飛んでいく。呆気に取られる元旅団長の首に、木剣を軽く当てる。
仙に至っているかと思ったけど、どうやら気のせいだったようだ。
「閣下、ミスリル製の武器は強力ですが、まず当てなければ威力は発揮されませんよ。僕はさほど強い方ではないので」
流石に弱すぎるので、耳元で囁いておく。旅団長は絶望した様子で膝をついた。何があったか知らないが、強く生きて欲しい。
『五人目はログラム王国の武闘大会で四位の実力者、そして赤の傭兵団のナンバー3、イント卿とは同門のイ流仙術の使い手、ペーパ師範代だ~!』
ええ⁉︎ マジか。ペーパさんって、確か親父からミスリルアマルガムを与えられてなかったっけか。ということは実力的にパッケと同格以上。勝てるわけがない。
「すまないね。ことは国の威信に関わる。手加減はできないと思う」
待て待て待て。こないだ、ショーン兄さん、ペーパさんは修行に出かけたって言ってなかったっけか。木剣を軽く振る時の音が、もはや只者ではない。
「聞いたよ。守護聖人を倒したそうだね」
ペーパさんがミスリルアマルガムを空中に展開する。あれは聖紋神術、いや、仙術の場合は符呪仙術というんだっけか。そういえば、ミスリルアマルガムを見た親父は錬丹仙術と言ってたけど、この場合はどっちなのだろう?
「え? アリなの?」
この公開試合は親善試合なので、殺し合いはナシだったはずなのだけど。
「範囲攻撃じゃないと、イント君は捉えられそうもないから。でも、これくらいじゃ死なないでしょ?」
ちなみに僕は、ミスリルアマルガムを剣の形に固定することすらおぼつかないレベルだ。魔法陣ばりの多層紋などとても作れない。
『おおっと? 空中に浮かんでいるのは、聖紋神術でしょうか? 仙術士は神術を使えないという話は何だったのかぁっ!』
仙術の基礎は霊力の体内圧縮で、神術の基礎は霊力の外部放出だ。なので、霊力の体内圧縮による身体強化しかできない仙術士は霊力が漏れず、結果神術が使えない。だからそんな通説が生まれたんだろう。
だが、実際には仙術にも霊力放出を必要とする技術が多数ある。僕が使える技でいえば、『縮地』なんかはそうだし、『金行衝波』なんかもそうだろう。達人になれば剣から霊力を放出して斬撃を飛ばせる。
「ポインタ様に習ったんだ。アノーテ姉さんに挑戦する前に、試させてもらうよ」
ポインタ・シーゲン辺境伯。ユニィの父であるシーゲンおじさんのことだが、確かクソ親父とやりあって、王都の闘技場を半壊させたのではなかったか。
背筋が寒くなる感覚があって、間合いを空ける方向に『縮地』で跳ぶ。
「おや。やっぱり勘が良いようだ」
さっきまで僕が立っていた位置に、僕ぐらいのサイズの火柱が渦巻いている。赤い色なので温度はさほど高くないはずだが、僕では防ぎきれないかもしれない。
さらに跳ぶ。跳んだ先に前触れなく火柱が現れたので、途中で跳び先を力ずくで捻じ曲げる。
『おっと? これは⁇ 舞台に次々炎が上がっているぞ⁉︎』
発動が異様に早い。発動速度だけなら、もしかしたら義母さん並みかもしれない。まぁ義母さん、一回の術の発動で、四十ぐらいの神術を同時発動したりするので、別格なんだろうけど。
僕は『縮地』で緩急をつけながら、舞台の上を逃げ回る。足を緩めて狙いを絞られたら負けるだろう。
「おや、足が痛いのはフェイクですか?」
パンッと、『縮地』中に木剣で足を払われる。痛ってぇ!
「”灯りあれ”‼︎」
追撃ギリギリで自称天使にもらった灯りの神術を眼前に放り込む。昼間なのでちょっと眩しいぐらいだろうが、目くらましぐらいにはなるだろう。
「がっ」
と思っていたが、甘かった。ペーパさんが目を閉じたまま放った回し蹴りを受けて、視界が何回転か する。
『ヒットォォッ! イント卿、今日初めての直撃だぁぁぁ!」
やっぱり灯りの神術は戦闘では使えない。『断罪の光』にいつでもチャージできるのは良いけど、単体での戦闘だとこうなる。こんなことなら自力でレーザーぐらいまでいけるように願っておくんだった。
「ちくしょ」
地面と空が目まぐるしく入れ替わる。足の防御力下がっているのか、足払いはとても痛かったし、着地する時も痛かろうな。だいたい試合でミスリルアマルガムを使うとか大人げない。
奇妙にゆったりした時間の中で、心の中で毒づく。
「あれ?」
ミスリルアマルガムを許されるなら、他も良いのではないだろうか? 確か真剣はダメと言われたはず。つまりそれ以外ならいける?
「早めに降参してくれると嬉しい」
吹っ飛ばされている僕に、ペーパさんが『縮地』で追いついてきて囁く。咄嗟に霊力を放出して、軌道を変える。
僕も、早く降参したいけど、あまりにボロ負けだと怒られるだろう。薬指と中指にはめた指輪の角度を親指で変えて、ペーパさんに左手を伸ばす。
警戒したペーパさんは、警戒して僕の手を払いのけようとしてーーー
バチィッ!
罠にかかった。ペーパさんは姿勢の制御を失い、もんどりうって地面に激突した。僕は自由になって、痛みが残る足に負担をかけないように、そっと着地する。
『おっとぉ? 先ほどの閃光は効かなかったが、今回の閃光は効いたようだぞ⁉︎』
僕の婚約指輪には、雷竜の魔石があしらわれていた。それをマイナ先生の分と、ユニィの分の二つを色違いでつけている。雷竜の魔石にはグラデーションがあり、切り出す場所によって色合いが違うのだ。
色合いの違う石を向かい合わせて霊力を流し込むと、即席のスタンガンになる。
「痛ってぇ!」
ただし、自分もめっちゃ痛いので威力はあまり上げられない。しかし、こちらは覚悟の上、相手は不意打ちなので相手の方がダメージは大きいだろう。
左手の痛みに耐えて、木剣をふりかぶる。
「アッ! しまった!」
踏み込んで振り下ろそうとしたところで、木剣が手からすっぽ抜けた。痛みで感覚が鈍くなっていたらしい。
「ぐぺ」
木剣を目で追おうとペーパさんから視線を外した瞬間、衝撃を感じて、意識が飛んだ。
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