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ゴミが光ってる嵐の前【1】
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『オレ碧のこともっと知りたい』
島の言葉がどうも耳に残って忘れられなかった。そんなド直球に「知りたい」なんて言われたことがなかったからかもしれない。
俺たちは同じ家に住んでいるのに、考えてみれば俺だって島のことを何も知らない。
いや、いまの表現は語弊がある、小説のモデルにしているのだから、もちろんある特定の部分はよく観察して知っているつもりなのだ。
たとえば裸のからだ、そこにある傷のひとつひとつ、キスは好きなひととなんてこだわりはないって主張するときのやり方、耳たぶが弱いこと、乳首はつままれるより弾かれるほうが好きなこと、やわく握り込むとじれったそうに腰を揺らすこと、簡単になかで感じるらしいこと、とか、そういう、ところ。
未発達で痩せたからだで、言動がガキなもんだからついガキだガキだと思ってしまうけれどちゃんと、おとなの男のもんがついてるんだよな。
それから、小さいけれど、抱えたからだがいのちの分だけ重かったこと。
熱を出した体温の、くらりとするような匂いのこと。
オレのことも抱いて、と、うわごとのように言ったこと。
なんか、変な奴。
小説に使えるのは島の「島らしさ」みたいな部分で、島そのものについてはいままで、あんまり興味がなかった。
今日はしっかり島を観察することにして、朝、早くから居間へ張っていた。まだ朝日も昇っていない。空が白みだしたくらい。
ダイニングテーブルにノートパソコンを置いて、手持ち無沙汰に仕事をしながら(小説は書斎から出す気にはならない)待っていると、六時前くらいに頭ふわふわの島が出てきた。
「ふぁあ…」
襟首だるだるのTシャツに半パン。寒くないのか、その恰好。というか俺にねだって買ってやったパジャマはどうした。洗い替えくらいあるだろ。
伸びきったTシャツは、肘をあげると脇どころか胸まで見えそうだ。裾から覗いた白い腹には、茶色く変色した数々の傷跡。
どれも若干古くなっている。
キッチンで水を出して、ばしゃばしゃ顔を洗う。洗うというより浴びるに近い。毎朝キッチンマットが謎に水浸しなのはお前のせいか。
真実はいつもひとつ。
眼をしょぼしょぼさせながら提げてある手拭きタオルで顔を拭った島は(オイ、それで顔拭いて良いのかよ、あんまし綺麗なタオルじゃないぞ)やっと顔をあげて俺に気がついた。
「あれ、碧じゃん。おはよぉ」
寝起きのせいでいつもの三割増しでほわほわしている。
「おはよう」
くわ、とあくびに開いた口の、犬歯の尖り具合はもう知っている。
「なあ…あの…オレいまから朝飯作ろうとしてたんだけど」
「ああ」
こわごわ、というか、おずおず、というか、そんな感じの擬態語をつけたい上目遣いで、アイランドキッチンからダイニングにいる俺を見てくる島の、次の言葉をいつになく丁寧に促した。
「作ったほうがいい…?」
「は?」
何の許可をとっているんだこいつは、と露骨に怪訝な顔をすると島を怯えさせるのはなんとなくわかっていたから自主規制した。島は慌てたように言葉を継いだ。
「いや、あの、オレ碧の見よう見まねで最近料理始めたばっかで出来は悪いし、焦げ付きとかも掃除の仕方わかんなくて、正直碧の手間増やしてるだけだろうから、あの、碧が今日はちょうど起きてるんだから、碧が自分でやりたいかなー、って…」
「ああ」
そういうこと気にするんだ、こいつは。
べつに手間が増えるのはそんなに嫌じゃない。やることが増えるのはたとえ不毛なことでもありがたいし。
「…お前は、俺の飯食いたい?」
すこし考えてから発した質問は、
「食いたい」
食い気味に返されてちょっと笑った。
「じゃあ、一緒に作ろうか」
島の言葉がどうも耳に残って忘れられなかった。そんなド直球に「知りたい」なんて言われたことがなかったからかもしれない。
俺たちは同じ家に住んでいるのに、考えてみれば俺だって島のことを何も知らない。
いや、いまの表現は語弊がある、小説のモデルにしているのだから、もちろんある特定の部分はよく観察して知っているつもりなのだ。
たとえば裸のからだ、そこにある傷のひとつひとつ、キスは好きなひととなんてこだわりはないって主張するときのやり方、耳たぶが弱いこと、乳首はつままれるより弾かれるほうが好きなこと、やわく握り込むとじれったそうに腰を揺らすこと、簡単になかで感じるらしいこと、とか、そういう、ところ。
未発達で痩せたからだで、言動がガキなもんだからついガキだガキだと思ってしまうけれどちゃんと、おとなの男のもんがついてるんだよな。
それから、小さいけれど、抱えたからだがいのちの分だけ重かったこと。
熱を出した体温の、くらりとするような匂いのこと。
オレのことも抱いて、と、うわごとのように言ったこと。
なんか、変な奴。
小説に使えるのは島の「島らしさ」みたいな部分で、島そのものについてはいままで、あんまり興味がなかった。
今日はしっかり島を観察することにして、朝、早くから居間へ張っていた。まだ朝日も昇っていない。空が白みだしたくらい。
ダイニングテーブルにノートパソコンを置いて、手持ち無沙汰に仕事をしながら(小説は書斎から出す気にはならない)待っていると、六時前くらいに頭ふわふわの島が出てきた。
「ふぁあ…」
襟首だるだるのTシャツに半パン。寒くないのか、その恰好。というか俺にねだって買ってやったパジャマはどうした。洗い替えくらいあるだろ。
伸びきったTシャツは、肘をあげると脇どころか胸まで見えそうだ。裾から覗いた白い腹には、茶色く変色した数々の傷跡。
どれも若干古くなっている。
キッチンで水を出して、ばしゃばしゃ顔を洗う。洗うというより浴びるに近い。毎朝キッチンマットが謎に水浸しなのはお前のせいか。
真実はいつもひとつ。
眼をしょぼしょぼさせながら提げてある手拭きタオルで顔を拭った島は(オイ、それで顔拭いて良いのかよ、あんまし綺麗なタオルじゃないぞ)やっと顔をあげて俺に気がついた。
「あれ、碧じゃん。おはよぉ」
寝起きのせいでいつもの三割増しでほわほわしている。
「おはよう」
くわ、とあくびに開いた口の、犬歯の尖り具合はもう知っている。
「なあ…あの…オレいまから朝飯作ろうとしてたんだけど」
「ああ」
こわごわ、というか、おずおず、というか、そんな感じの擬態語をつけたい上目遣いで、アイランドキッチンからダイニングにいる俺を見てくる島の、次の言葉をいつになく丁寧に促した。
「作ったほうがいい…?」
「は?」
何の許可をとっているんだこいつは、と露骨に怪訝な顔をすると島を怯えさせるのはなんとなくわかっていたから自主規制した。島は慌てたように言葉を継いだ。
「いや、あの、オレ碧の見よう見まねで最近料理始めたばっかで出来は悪いし、焦げ付きとかも掃除の仕方わかんなくて、正直碧の手間増やしてるだけだろうから、あの、碧が今日はちょうど起きてるんだから、碧が自分でやりたいかなー、って…」
「ああ」
そういうこと気にするんだ、こいつは。
べつに手間が増えるのはそんなに嫌じゃない。やることが増えるのはたとえ不毛なことでもありがたいし。
「…お前は、俺の飯食いたい?」
すこし考えてから発した質問は、
「食いたい」
食い気味に返されてちょっと笑った。
「じゃあ、一緒に作ろうか」
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