異世界転生シンデレラストーリーの主人公のモデルを気まぐれで住まわせたら大人の俺が振り回されてる

結城美琴(コトユウ)

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Stay Tuned!【6】

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玄関にそろえてある革靴の、いつもすこしだけ右に傾いているのを碧は気づいているだろうか。オレと同じ癖のそれを見ると毎度ちょっとだけ頬が緩んでしまっていた。

不味いと言いながらエナドリを浴びるように摂取する碧の、エネルギーがあり余った馬鹿なDKのまま歳を重ねちゃったみたいなところが、ちょっと心配であり愛しくもあった。

夜中に歯磨きをする無心の後ろ姿の、薄いTシャツに浮いた背中の筋肉とか。ベランダに洗濯物を干す横顔の、綺麗な鼻の稜線とか。皿を洗う長いゆび。ときたま朝ちょっと跳ねてる漆黒の髪の先。

コーヒーを飲むときの、どことなく優雅な所作。足で雑にドアを閉めるところ。掃除機のかけ方がしつこいこと。

オレの食べてる顔をじっと見つめる眼と、ほんのすこしだけ緩む唇の端。好きなだけここにいていいって、約束してくれた声。オレが言われたことをちゃんとやったり、朝飯を作ったりしてると投げてくれる、素っ気ない「ありがとう」の温度。

オレでもこんなにちゃんと、ひとを好きになれたんだ。

知らなかった。知りたくなかった。家路を辿りながら碧の好きなところをたくさん思い浮かべていると、こころがぽかぽかあたたかくなってくるのに、同時に苦しくてたまらない。

「次は終点、中野、中野です。降り口は…」

だって。オレから誘って誘って、拝み倒してお願いし倒してやっと抱いてもらえるんじゃ意味ないもん。それじゃあんまりにも惨めじゃんか。

下を向いたまま改札を出る。

惨めでもせざるを得ないとこまで、もう来てるじゃんか。

インターフォンを鳴らす。まだ碧は帰っていない。そういえば今日は金曜日だった。

だから最悪なんだよ。

植込みのそばに座り込む。じっと下を向いて、時間をじりじりとやり過ごす。

ああ。愛されてえなあ。

オレは待ってる。ずっと待ってる。オレにだけは来ない春を、じっと待っている。

「つかれた…」

ちょっと今日は、足りない脳味噌を酷使してしまったみたいだ。冷静に考えたらオレ、スーパーハイスぺイケメン碧を自分の都合よく使いすぎだし。身の程をわきまえろよ島幸太郎。あのひとがオレを顧みてくれることなんて万にひとつもないだろ、安いメロドラマじゃあるまいし。

その上碧の家の鍵まであんなふうに粗末に置いて来ちゃって、最低じゃん。

ローターは駅のトイレで抜いてごみ箱に捨てた。駅のごみ箱ってときどきすげえもんが入ってそうだよな、関係ないけど。

本当にどうしようもなく馬鹿なことをした。馬鹿って碧がよく言うから癖になっちった。

反証のしようがない「好き」の為にね。

反証どころか証明しちゃってるよ。QEDだよ。高校のとき、なんか頭よさげに見えるからこの記号、やたら使ってたな、懐かしい。

何か、このあたりでだんだん、頭がぼんやりしてきた。

鍵を失くしたなんて言ったら怒られちゃうな、今度こそ愛想尽かされるかも、それはやだな、オレいままでも散々碧を困らせてイエローカード何枚かわかんないし。あれ、それだと既に退場では。

うわ、いますげーどーでもいーことかんがえてんな、オレ…

ごめんね、あおい。

オレをゆるして。それから、できれば。ほんとに、もしよかったらでいいんだけど。

オレのこと、すきになってよ。
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