銀河の叫び 〜悪霊となったあなたを精霊刀剣で祓います〜

十文字 銀河

文字の大きさ
4 / 19
《序章 精霊刀剣》【選ばれし子どもたち編】

第二話〜前日譚〜 お母さんに、恩返しをする

しおりを挟む

【20年前 青森県弘前市】

わたしの名前は、古川ふるかわ愛蘭あいら
県立弘前北高校・普通科の三年生。

趣味はバレーボール。
スパイクを思いきり打って、点が入ったときのあの感じ──
あれ、めちゃくちゃ気持ちいいんだよね。

でも……部活には入ってない。
いや、正しく言えば──入れないの。

理由は単純。
うちは母子家庭で、お金に余裕がないから。

部費に遠征費、バレーボールシューズやユニフォーム代……
そんなものを揃えるお金なんて……わたしの家にはない。

お母さんは、朝は新聞配達、昼はスーパーのパート、夜はスナック。
早朝から深夜まで、毎日ずっと働きっぱなし。
それも全部──わたしのために。

だからわたしは、中学を卒業したら高校には進学せず、すぐに働こうと思っていた。
高校の学費まで背負わせたくなかったから。

仕事は何でもいい。
お金を稼いで、少しでもお母さんの負担を減らしたかった。

──でも、そのとき。
お母さんは、こう言ってくれた。

「お金のことは気にしなくていいから、高校までは行きなさい
 そのあとは、自由にしてもいいから」

その言葉に背中を押されて、高校進学を決めた。
……けど、やっぱりお母さんの負担はできる限り減らしたい。

だからわたしは、自宅から通える範囲で、学費が一番安い高校を探した。
──そして見つけたのが、この県立弘前北高校だった。

翌日、わたしはすぐに担任の先生に相談した。

でも返ってきたのは──期待していた言葉ではなかった。

「今の成績では……難しいかもしれないな……」

正直、すごく落ち込んだ。でも、すぐに決めた。

──絶対に受かってやる!どうしても、この高校に入りたい!

それからのわたしは、別人みたいになった。
朝から晩まで、ずーっと教科書と問題集にかじりついてた。

大好きだったテレビも封印。
当然ポテトチップスも──これは、たまに食べちゃったり……すみません……

やれることは全部やった。
苦手だった数学も英語も、何度もくじけそうになったけど……
それでも、あきらめなかった。

自分の未来のために。
なによりもあのとき、背中を押してくれた──
お母さんのために。

──そして、合格発表の日。

掲示板の前で、自分の受験番号を見つけた瞬間──
わたしとお母さんは、声を上げて泣きながら、ぎゅーって抱き合った。
そのとき、わたしの腕にポタポタ落ちてきた、お母さんのあったかい涙。
あの感触、あの重み──今でも、ずっと忘れられない。

──高校に入学してすぐに、家の近くにあるファミレスでアルバイトを始めた。
本当は校則で禁止されてたけど、家庭の事情を話したら、学校が特別に許可してくれた。

ちなみに家から学校までは、自転車で片道一時間。
もちろん、電車通学なんてムリ。
定期代だけで毎月一万円以上とか、現実的じゃない。

周りの友達はみんな、電車で最寄り駅まで来て、そこから自転車。
駅のホームで楽しそうにしているのを見ると──

──電車通学って、楽しそうだな……
電車で友達としゃべったり……
電車がくるまでの間、近くの駄菓子屋で時間つぶしたり……
なんか、青春って感じ……

なんて、ちょっと憧れちゃう自分がいる。

でも、現実は自転車オンリー。
しかも、ここは雪国・弘前。
冬になると、まじでシャレにならない量の雪が降る。

自転車なんて寒いし、滑るし、雪に埋もれるし……
誰も踏んでない道なんか、雪が膝まで積もってて、ぜんっぜん進めない。
結局、自転車を押して歩くことになる。
あの雪の地獄ロードがまたその内やってくると思うと……すでに気が重い。

「愛蘭ちゃん、お疲れ~!明日もまた頼むよ~!」
「はい!お疲れ様でした!」

──バイトが終わって、自宅へ向かう。
弘前二丁目団地、二号棟の103号室。
ここが、わたしとお母さんの小さな家。

──ガチャッ。

玄関を開けると、ちょうどお母さんがスナックへ行く準備をしていた。

「おかえり、愛蘭」
「・・・」
「明日、進路相談の日よね?
 何時からだったっけ?」
「……11時」
「11時かあ……
 できるだけ間に合うように行くけど、もし遅れたら先に先生とはじめててくれる?」
「・・・」
「愛蘭?」 
「うるさい!わかったってば!」

思わず怒鳴って、そのまま部屋に駆け込んだ。
バタンッ!と、ドアを乱暴に閉める。

「はあ……またやっちゃった……」

ドアの前にしゃがみこんで、ひとりため息をつく。

きっと……みんなも、こういう時期あったよね?
いや、あってほしい……ほんとに……

そう。これが──“反抗期”ってやつ。

親と一緒にいるところを誰かに見られるのがイヤで……
同じ空間にいるだけで、なぜかムカついて、恥ずかしくなって……
思ってもない言葉が勝手に口から飛び出して……
あとできっとひどく後悔するであろう──そんな時期。

家でこれなんだから、外で誰かに見られてたら、もっと最悪な態度になってる。

……ごめんね、お母さん。

本当は、心から感謝してる。
今でも早朝から深夜まで頑張って働いてくれていること。
そんなハードな状況なのにも関わらず、毎日お弁当を作ってくれていること。
他にも……他にもいっぱい、ありがとう。
誰よりも、感謝してる。

なのに、素直になれない。
思っていることと、逆のことばかり口にして……
行動も……どんどんズレてく。

「本当に……ごめんなさい……」

小さくつぶやいて、わたしは布団に顔をうずめて、声を殺して泣いた。

─────────────────────────────────────

【翌年 春 青森空港】

「……それじゃあ、気をつけてね」
「うん……」

卒業式から、もう一週間。
わたしは今日、東京へ旅立つ。
この春から、都内の不動産会社で働くことになったからだ。

交通手段は飛行機。
理由は単純。
ちょうど航空会社が“新卒キャンペーン”っていう割引をやっていて、卒業証書を見せればチケットが安くなる。
調べてみたら、新幹線よりもずっと安くて、時間も短い。
だから迷わず、飛行機にした。

──チェックインの時間が近づいてくる。

心臓の鼓動が、速くなる。
言いたい言葉が、喉の奥でぐるぐるしてる。

──がんばれ、わたし……!
……恥ずかしいけど……すっごく恥ずかしいけど……言うんだ……!

自分にそう言い聞かせて、勇気をふりしぼる。

「あのさ……お母さん」
「ん?」
「今まで……本当にありがとう
 体……無理しないでね」
「愛蘭……」

お母さんの目から、ぽろりと涙がこぼれた。
声を出すわけでもなく、静かに……でも止まらない涙。

その顔を見た瞬間、わたしももう、ダメだった。

「……っ!」

たまらずお母さんに抱きついた。
ぎゅっ……と、強く。
何度も、何度も、抱きしめた。

──今までの感謝を、全部込めて。

─────────────────────────────────────

【数時間後 関東上空】

──よかった……!
ちゃんと、お礼……言えた……!
わたし、がんばった……!

座席に深く身を沈め、心の中でそっと自分を褒める。

そうだ……!
初任給が出たら、お母さんになにかプレゼントを贈ろう!

なにがいいかな……?
いつも着てる服がボロボロだから、新しい洋服?
それとも、日頃の疲れを癒せるように、温泉旅行とか……?

「うーん……悩むなぁ……」

つい独り言がでてしまい、少しだけ照れる。

お母さんに、なにを贈ろう。
それを考えるだけで──

初めての仕事。
初めての社会人生活。
見知らぬ土地、知らない人たち。

不安がないと言えば、きっとウソになる。
それでも……がんばれそうな気がした。
どんなことも、乗り越えていける。
そんな気がした。

お母さんがいてくれたから、ここまで来れたんだ。

だから、今度はわたしが──
お母さんを笑顔にしてあげたい。

未来は、きっと明るい。
そう信じられる時間だった。

──だが、それは……容赦なく、破られた。

「ビーッ!ビーッ!ビーッ!」

突然、鋭い警報音が機内に鳴り響いた。

「えっ……!?な、なに……!?」

バチンッ!、と音を立てて照明が落ちる。

一瞬で機内が薄暗くなり──すぐさま、天井のパネルが開いた。
酸素マスクが、ぼとぼとと音を立てて吊り下がってくる。

辺りがざわめき出し、すぐに混乱へと変わった。
乗客たちは叫び声を上げ、席を立っては転び、あちこちで悲鳴が飛び交う。
CAたちも顔を引きつらせながら、よろめきながら、操縦室へと駆けていく。

──その直後だった。

「ザザッ……ガッ……!」

ノイズ混じりの機内放送が、不意にスピーカーから漏れた。
本来は聞こえないはずの操縦室の会話が、機内にダダ漏れになる。

「なにがあったんですかっ!?機長っ!!」
「竜巻だっ!前方に、急に発生しやがった!」
「な、なんですって!?」
「自動操縦を切って、手動に切り替えろっ!進路を変えるぞっ!」
「は、はいっ!」
「乗客には何かにしがみつくよう、アナウンスをっ!」
「わ、わかりましたっ!」
「ダ、ダメです機長!!操縦桿が……反応しません!!」
「な、なんだって……!?」
「の、飲み込まれますッ!!」
「うわああああああっっ!!!」
「きゃああああああああっっ!!」

絶叫と怒号が、機内を支配した。

次の瞬間──

飛行機は、音を立てて空を裂かれた。
巨大な竜巻が──翼を、機体を、容赦なく引き裂いてゆく。
制御を失った機体は、渦に巻き込まれ……まっすぐ、山中へと落ちていった。

激しい衝撃音が響き、わたしの視界は──すべて黒く塗り潰された。

そして──

乗客・乗員、全員が命を落とした。
誰一人として、生き残ることはなかった。

そこにはもちろん──
わたしも、含まれていた。

──そんな……待ってよ……
まだ……まだ、わたしの夢──

「お母さんに、恩返しをする」

──それを、叶えられていないのに……

─────────────────────────────────────

※用語解説
・風の精霊 (悪霊):“風属性”の精霊 (悪霊)。
 その魂の起源は、転落死、墜落死、突風や竜巻など、“風や空に起因する死”によって命を終えた者に由来するとされている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...