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第26話 出港用意!
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「総員へ伝達する。まもなく本船は出航する。行先は、義勇団の脅威を避けるため、また海上荒天の影響もあるため、第16793恒星系方面へ引き返すものとする。この先、義勇団戦闘船と遭遇する可能性あり、今後の船内放送に注意せよ」
・・・・・・
例の指輪の処分にはだいぶ悩まされたが、結局、「船外放出」というかたちで片づけた。
この指輪があってもなくても、義勇団が追ってくるのは確実だ。仮に彼らの目のまえでこの指輪を消滅させてみせても、「中を見られたかもしれない」という疑念は晴らすことができない。指輪が持ち込まれ「データを見た」扱いになってる本船に、もうできることはない。
でも指輪を持ちっぱなしでいるのも気味が悪いし、もし知らない特殊機能があって後で起動でもしたら大変だ。だから、ここで捨てた。
指輪はまだ日陰になっている左舷エアロックから放出した。いまは原型を留めているはずだが、本船が離陸すれば恒星の熱にさらされて溶け去るはず。この指輪型デバイスに耐熱機能はない。
それから気になる敵側戦力について、リリィと相談した。
彼女は、2級戦闘船がまた来るのでは、と考えた。「TSL2198」を消そうとしたのと同じように、本船も巨大なビーム砲で消滅させるつもりでは、と。
だがぼくはそうは思っていない。来るのは4級か5級の戦闘船だと思う。2級戦闘船の推力が足らないためだ。
「どうして? さっきはその2級戦闘船が、2隻も来たけど。それくらいの威力がないと、こちらを消滅させられないんでしょ?」
確かにそうだ。データをこの船ごと消し去るためには、2級船の主砲がほしい。でも――
「こっちはいま着陸していて、いつ離陸するのかむこうには分からない。探知装置で見る限りでも、偵察機は飛んでない。この高温環境で飛ばせる偵察機がないんだろう。つまり相手はこちらの位置も、離陸のタイミングもわからないんだ。2級船は天体への降下ができないから宇宙で待つしかないけど……『待てない』でしょ」
そう、2級船はこの海域ではこちらを待っていられない。
「そうか、同じところに留まれないんだ……普通船だから。ここは高速船以上の性能がないと、すこしずつ主星に流されていく。わたしのもとの船は航路と位置を予測されていたから接触されたけど……出てくるタイミングがわからないこの船には、接触したくてもできないんだ」
リリィはどんどん自分で理解していく。
あらかじめ航路と通過時刻が予測されていた「TSL2198」は、2級戦闘船による奇襲をうけた。最大効率で運航する民間船の航路は予想しやすい。だから敵船は主星に流されつつ、「TSL2198」の予想位置に向かっていったのだ。
本船はちがう。天体表面に着陸したまま、動いていない。出てくるタイミングが分からないので未来位置の予測ができず、推力の足らない2級戦闘船は接触できずに流されていくだけになる。
「ナナ、義勇団の船で高速船以上の推力があるものは?」
リリィの質問に、すこし考える。いくつかあるが、ここに来られるのは――
「4級船と5級船だけだな。もっと速い高速艇もあるけど、そいつはこんな荒れた海じゃ使えない」
海が荒れているのは、このさい幸いか。敵が使える装備が限られてくる。
「あと、あなたは『偵察機』は使えないって言ってたけど、ほかにこちらを偵察できるものはある?」
偵察か。義勇団が持つ偵察機はこの環境ではまず飛行できないだろう。偵察するなら……船ごと、か。
「5級戦闘船なら、この星に降下着陸できる。だからここの上空を航行して、こちらを偵察できるな。……いやまてよ、そうすると偵察じゃくて上空からの直接攻撃も――」
――ありうるか。
敵は急いで次の戦力を用意し、こちらに急行させているはず。
「そうだ、いますぐ出航して、とりあえず宇宙まで出るか。推力が出ていれば舵が効くし回避も――」
「――だめ、かな」
リリィに止められた。
「ナナ、わたしはこの星に降りるとき、海図上の制限速度をオーバーしてたんだよ。かなりの速さで降下して、星の裏側にまわりながら急減速して……この地形に滑り込んだ」
……それはだいたい分かっているが、それが現状にどう関わるのだろう。
「たぶん、むこうはこちらの降下速度と針路を知れなかったはず。星の裏側で大きく速度を変更したし、着陸場所をさがして何度も旋回した。そしていまは、山脈だらけのここに、隠れるように止まっている。だからむしろ、ここから離陸したほうが見つかりやすくなる」
……そうか。空中に上がってしまうと、地形には隠れられない。空に船だけ浮かんでいたら、簡単に探知される。
正直待つのはきらいだし、敵がいるなら自分から行動を起こして道をひらきたい。ぼくならそうする。そのほうが得意だから。
でも、いまのぼくにはこのひとがいる。ぼくが苦手なところを、うまくカバーしてくれるかもしれない。
うん、そうだな――
「――じゃあ、敵が来るまで待とう。こちらが離陸しないなら相手は地表の捜索にかかるはずだから、いずれここの上空を通過する。それを視認して、相手船が離れていったら、逆方向に向かって離陸し、高度10,000で低空を進む。その高度なら、船体はほとんど惑星本体に隠れたままになる」
リリィはこれを聞きながら、算定済み航路の高度設定を10,000に変更していく。
「星の反対側にまわって、敵が見えなければ推力を上げ、急上昇。そのまま全速力で離脱をはかる。そちら側にも敵船がいるなら――そのときは見えてから対応するしかないな」
高度設定を終えたリリィと、視線を交わす。澄んだひとみが、ぼくの視線をつかまえる。
「では、離陸準備をして待機。離陸方式は、前方障害物のため後進離陸とする。船体浮揚後すぐ後進、上昇しつつさらに後進をかける。リリィは船体が左右の山脈を越えたらコールして。そこから後進惰力を止めつつ回頭。前進に変え、目標高度へ上昇する」
GSL209は全灯火を消灯して息をひそめた。上空からは、見えづらいはず。
・・・・・・
――ピ、ピ、ピ
探知画面が赤く表示された。リリィとほぼ同時に、画面をひらく。
リリィが表示を読み上げる。
「熱センサーに感あり。反応は1つ。高度20,000、本船からみて左40度の方向にあり、右50度の方向へ移動中。宇宙船らしい」
来たな、敵船。
想定よりかなり近い。もうすこし離れたところを通るのを想定していたが、これでは本船のほぼ直上へ来る。
探知した熱は、リフティング航行のため全開にした下側サイドスラスターの熱のようだ。左の山に遮られて見えづらかったため、もう距離がほとんどない。
ふたりで息をひそめ、リリィは計器盤を、ぼくは外部モニターを注視する。
山の稜線から、スラスターのものらしい光がみえはじめた。
「スラスター光らしきもの、左40度」
ぼくの言葉に、リリィの声がつづく。
「その方向、電波検知器に感あり。レーダー波らしい」
レーダー波――こちらの電波検知器で捉えたということは、むこうのレーダー波はこちらの船体に当たっている。むこうのレーダーに映るはずだが、あの高度から、この地形にまぎれた小型船が識別できるか。
スラスター光が、意外に速く近づいてくる。速度が出ているのはこちらを見つけているからか、それとも捜索を急ぎすぎて充分に減速していないからか。
見上げるような至近距離、外部モニターをみるぼくの目に、その船体がはっきりと見える。久々に見る、義勇団の5級戦闘船。こちらは、見えているか――
「敵船、直上!」
「敵船、直上!」
外部モニターを見上げるぼくと、計器盤をみるリリィの声が重なる。敵船との最接近。
まっすぐ進む敵船が、ぼくたちの頭上を通って――
「――敵船、上空通過。速力変わらず、針路変わらず。本船からみて右50度の方向」
「電波検知器、その方向、レーダー波らしきもの消失」
通過した。減速もせず遠ざかっていく。
レーダー波が当たらなくなったので、もう相手のレーダーには映っていない。まさか直上まで来られるとは思わなかったが、本船はむこうのレーダー画面上で地形にまぎれていたか、見つからずに済んだようだ。
すぐ出港準備にかかる。敵船の速度から、相手が地平線の向こうへ隠れる時間を推定。それに若干の余裕時間を加えて、本船の離陸時刻が決定される。
時刻確定。システムを出港モードに変更。天体表面に着陸していることを検知したシステムが、自動的に離陸体勢を整える。
船内にはいちおう、あと9人乗っている。状況くらいは教えておこう。
セレクターを船内放送に切り替え、送信ボタンを押す。
「総員へ伝達する。まもなく本船は出航する。行先は、義勇団の脅威を避けるため、また海上荒天の影響も考慮し、第16793恒星系方面へ引き返すものとする。この先、義勇団戦闘船と遭遇する可能性あり、今後の船内放送に注意せよ」
いったん言葉を切って、それから号令する。
「出港用意!」
・・・・・・
計器盤内の表示時刻が、離陸予定時刻となった。
すべてのエアロックは閉鎖済み、地表との間に索具、タラップ、ケーブル等はつながっていない。軟ハシゴも巻き上げ済み。上空に障害物なし。
「離陸支障なし、こちらが操船する」
「離陸支障なし、確認した。そちらが操船」
ぼくの確認と指示を、リリィが再確認・復唱する。
後進離陸の所定操作――推力レバーが「STOP」位置にあることを確認して操縦桿を一杯に引き、推力レバー前にある逆推力レバーを引き起こす。そして、推力レバーを前へ。
船尾からもうもうと土煙があがる。すぐ、船首にある下側サイドスラスタ―を全開に。船首側からも煙があがりはじめた。
ふわり、と船底が地面を離れ――
「船体浮揚!」
ぼくよりも早いリリィのコールアウト。
「――微速力後進」
操縦桿をやや戻しながら推力レバーを少しだけ押す。わずかに後進がかかり、船体が後ろ向きに動き出した。
遭難船の残骸が、前方に離れていく。これのおかげで、今日はとんでもない日になった。ひどい奴らと出くわし、さらにぼくが義勇団員だったことがばれた。おまけにやつらの機密情報まで乗せてしまい、そのせいでこれから戦いになる。
ちょっとした収穫、といえば、いまぼくのとなりにリリィがいること。いまこの瞬間も、これまでになかった安心感のようなものを与えてくれている。わずかに聞こえる息づかいを聞きながら、このひとが生きていてくれてよかったと心底思った。
前方の船の残骸は、それらを象徴する醜いかたちをした記念碑だ。そのうち熱で崩れ去るだろうが、この光景は、ぼくの記憶に残り続けるだろう。
後進の速度を高めながら上昇し、地面から遠ざかる。左右の稜線が、おおよそ目の高さまで下がってきた。
「……稜線越えた。360度、支障物なし」
リリィのコールを合図に、前進へ転換しながら回頭に移る。方向は敵船とは真逆の、左40度方向。
逆推力レバーを押し下げ、機関を前進状態に。若干のタイムラグのあと出力方向が逆転し、後進から前進に変わる。
左手の操縦桿を、するりと前方へ押し出す。後進上げ舵から前進下げ舵に転換し、機関の出力方向を下へ。
後進の惰力がとまり、船体が前進しはじめたところで、左のペダルを踏んで取舵をとる。船首がゆっくりと左に回りはじめた。
もとの船首方向からみて左方向40度に向き、右のペダルをわずかに踏んで回頭力を止めながら、推力をあげる。速力があがり、高度は10,000へ。船は地表をなめるように進みはじめた。
さあ、星の向こう側はどうなっている――
・・・・・・
例の指輪の処分にはだいぶ悩まされたが、結局、「船外放出」というかたちで片づけた。
この指輪があってもなくても、義勇団が追ってくるのは確実だ。仮に彼らの目のまえでこの指輪を消滅させてみせても、「中を見られたかもしれない」という疑念は晴らすことができない。指輪が持ち込まれ「データを見た」扱いになってる本船に、もうできることはない。
でも指輪を持ちっぱなしでいるのも気味が悪いし、もし知らない特殊機能があって後で起動でもしたら大変だ。だから、ここで捨てた。
指輪はまだ日陰になっている左舷エアロックから放出した。いまは原型を留めているはずだが、本船が離陸すれば恒星の熱にさらされて溶け去るはず。この指輪型デバイスに耐熱機能はない。
それから気になる敵側戦力について、リリィと相談した。
彼女は、2級戦闘船がまた来るのでは、と考えた。「TSL2198」を消そうとしたのと同じように、本船も巨大なビーム砲で消滅させるつもりでは、と。
だがぼくはそうは思っていない。来るのは4級か5級の戦闘船だと思う。2級戦闘船の推力が足らないためだ。
「どうして? さっきはその2級戦闘船が、2隻も来たけど。それくらいの威力がないと、こちらを消滅させられないんでしょ?」
確かにそうだ。データをこの船ごと消し去るためには、2級船の主砲がほしい。でも――
「こっちはいま着陸していて、いつ離陸するのかむこうには分からない。探知装置で見る限りでも、偵察機は飛んでない。この高温環境で飛ばせる偵察機がないんだろう。つまり相手はこちらの位置も、離陸のタイミングもわからないんだ。2級船は天体への降下ができないから宇宙で待つしかないけど……『待てない』でしょ」
そう、2級船はこの海域ではこちらを待っていられない。
「そうか、同じところに留まれないんだ……普通船だから。ここは高速船以上の性能がないと、すこしずつ主星に流されていく。わたしのもとの船は航路と位置を予測されていたから接触されたけど……出てくるタイミングがわからないこの船には、接触したくてもできないんだ」
リリィはどんどん自分で理解していく。
あらかじめ航路と通過時刻が予測されていた「TSL2198」は、2級戦闘船による奇襲をうけた。最大効率で運航する民間船の航路は予想しやすい。だから敵船は主星に流されつつ、「TSL2198」の予想位置に向かっていったのだ。
本船はちがう。天体表面に着陸したまま、動いていない。出てくるタイミングが分からないので未来位置の予測ができず、推力の足らない2級戦闘船は接触できずに流されていくだけになる。
「ナナ、義勇団の船で高速船以上の推力があるものは?」
リリィの質問に、すこし考える。いくつかあるが、ここに来られるのは――
「4級船と5級船だけだな。もっと速い高速艇もあるけど、そいつはこんな荒れた海じゃ使えない」
海が荒れているのは、このさい幸いか。敵が使える装備が限られてくる。
「あと、あなたは『偵察機』は使えないって言ってたけど、ほかにこちらを偵察できるものはある?」
偵察か。義勇団が持つ偵察機はこの環境ではまず飛行できないだろう。偵察するなら……船ごと、か。
「5級戦闘船なら、この星に降下着陸できる。だからここの上空を航行して、こちらを偵察できるな。……いやまてよ、そうすると偵察じゃくて上空からの直接攻撃も――」
――ありうるか。
敵は急いで次の戦力を用意し、こちらに急行させているはず。
「そうだ、いますぐ出航して、とりあえず宇宙まで出るか。推力が出ていれば舵が効くし回避も――」
「――だめ、かな」
リリィに止められた。
「ナナ、わたしはこの星に降りるとき、海図上の制限速度をオーバーしてたんだよ。かなりの速さで降下して、星の裏側にまわりながら急減速して……この地形に滑り込んだ」
……それはだいたい分かっているが、それが現状にどう関わるのだろう。
「たぶん、むこうはこちらの降下速度と針路を知れなかったはず。星の裏側で大きく速度を変更したし、着陸場所をさがして何度も旋回した。そしていまは、山脈だらけのここに、隠れるように止まっている。だからむしろ、ここから離陸したほうが見つかりやすくなる」
……そうか。空中に上がってしまうと、地形には隠れられない。空に船だけ浮かんでいたら、簡単に探知される。
正直待つのはきらいだし、敵がいるなら自分から行動を起こして道をひらきたい。ぼくならそうする。そのほうが得意だから。
でも、いまのぼくにはこのひとがいる。ぼくが苦手なところを、うまくカバーしてくれるかもしれない。
うん、そうだな――
「――じゃあ、敵が来るまで待とう。こちらが離陸しないなら相手は地表の捜索にかかるはずだから、いずれここの上空を通過する。それを視認して、相手船が離れていったら、逆方向に向かって離陸し、高度10,000で低空を進む。その高度なら、船体はほとんど惑星本体に隠れたままになる」
リリィはこれを聞きながら、算定済み航路の高度設定を10,000に変更していく。
「星の反対側にまわって、敵が見えなければ推力を上げ、急上昇。そのまま全速力で離脱をはかる。そちら側にも敵船がいるなら――そのときは見えてから対応するしかないな」
高度設定を終えたリリィと、視線を交わす。澄んだひとみが、ぼくの視線をつかまえる。
「では、離陸準備をして待機。離陸方式は、前方障害物のため後進離陸とする。船体浮揚後すぐ後進、上昇しつつさらに後進をかける。リリィは船体が左右の山脈を越えたらコールして。そこから後進惰力を止めつつ回頭。前進に変え、目標高度へ上昇する」
GSL209は全灯火を消灯して息をひそめた。上空からは、見えづらいはず。
・・・・・・
――ピ、ピ、ピ
探知画面が赤く表示された。リリィとほぼ同時に、画面をひらく。
リリィが表示を読み上げる。
「熱センサーに感あり。反応は1つ。高度20,000、本船からみて左40度の方向にあり、右50度の方向へ移動中。宇宙船らしい」
来たな、敵船。
想定よりかなり近い。もうすこし離れたところを通るのを想定していたが、これでは本船のほぼ直上へ来る。
探知した熱は、リフティング航行のため全開にした下側サイドスラスターの熱のようだ。左の山に遮られて見えづらかったため、もう距離がほとんどない。
ふたりで息をひそめ、リリィは計器盤を、ぼくは外部モニターを注視する。
山の稜線から、スラスターのものらしい光がみえはじめた。
「スラスター光らしきもの、左40度」
ぼくの言葉に、リリィの声がつづく。
「その方向、電波検知器に感あり。レーダー波らしい」
レーダー波――こちらの電波検知器で捉えたということは、むこうのレーダー波はこちらの船体に当たっている。むこうのレーダーに映るはずだが、あの高度から、この地形にまぎれた小型船が識別できるか。
スラスター光が、意外に速く近づいてくる。速度が出ているのはこちらを見つけているからか、それとも捜索を急ぎすぎて充分に減速していないからか。
見上げるような至近距離、外部モニターをみるぼくの目に、その船体がはっきりと見える。久々に見る、義勇団の5級戦闘船。こちらは、見えているか――
「敵船、直上!」
「敵船、直上!」
外部モニターを見上げるぼくと、計器盤をみるリリィの声が重なる。敵船との最接近。
まっすぐ進む敵船が、ぼくたちの頭上を通って――
「――敵船、上空通過。速力変わらず、針路変わらず。本船からみて右50度の方向」
「電波検知器、その方向、レーダー波らしきもの消失」
通過した。減速もせず遠ざかっていく。
レーダー波が当たらなくなったので、もう相手のレーダーには映っていない。まさか直上まで来られるとは思わなかったが、本船はむこうのレーダー画面上で地形にまぎれていたか、見つからずに済んだようだ。
すぐ出港準備にかかる。敵船の速度から、相手が地平線の向こうへ隠れる時間を推定。それに若干の余裕時間を加えて、本船の離陸時刻が決定される。
時刻確定。システムを出港モードに変更。天体表面に着陸していることを検知したシステムが、自動的に離陸体勢を整える。
船内にはいちおう、あと9人乗っている。状況くらいは教えておこう。
セレクターを船内放送に切り替え、送信ボタンを押す。
「総員へ伝達する。まもなく本船は出航する。行先は、義勇団の脅威を避けるため、また海上荒天の影響も考慮し、第16793恒星系方面へ引き返すものとする。この先、義勇団戦闘船と遭遇する可能性あり、今後の船内放送に注意せよ」
いったん言葉を切って、それから号令する。
「出港用意!」
・・・・・・
計器盤内の表示時刻が、離陸予定時刻となった。
すべてのエアロックは閉鎖済み、地表との間に索具、タラップ、ケーブル等はつながっていない。軟ハシゴも巻き上げ済み。上空に障害物なし。
「離陸支障なし、こちらが操船する」
「離陸支障なし、確認した。そちらが操船」
ぼくの確認と指示を、リリィが再確認・復唱する。
後進離陸の所定操作――推力レバーが「STOP」位置にあることを確認して操縦桿を一杯に引き、推力レバー前にある逆推力レバーを引き起こす。そして、推力レバーを前へ。
船尾からもうもうと土煙があがる。すぐ、船首にある下側サイドスラスタ―を全開に。船首側からも煙があがりはじめた。
ふわり、と船底が地面を離れ――
「船体浮揚!」
ぼくよりも早いリリィのコールアウト。
「――微速力後進」
操縦桿をやや戻しながら推力レバーを少しだけ押す。わずかに後進がかかり、船体が後ろ向きに動き出した。
遭難船の残骸が、前方に離れていく。これのおかげで、今日はとんでもない日になった。ひどい奴らと出くわし、さらにぼくが義勇団員だったことがばれた。おまけにやつらの機密情報まで乗せてしまい、そのせいでこれから戦いになる。
ちょっとした収穫、といえば、いまぼくのとなりにリリィがいること。いまこの瞬間も、これまでになかった安心感のようなものを与えてくれている。わずかに聞こえる息づかいを聞きながら、このひとが生きていてくれてよかったと心底思った。
前方の船の残骸は、それらを象徴する醜いかたちをした記念碑だ。そのうち熱で崩れ去るだろうが、この光景は、ぼくの記憶に残り続けるだろう。
後進の速度を高めながら上昇し、地面から遠ざかる。左右の稜線が、おおよそ目の高さまで下がってきた。
「……稜線越えた。360度、支障物なし」
リリィのコールを合図に、前進へ転換しながら回頭に移る。方向は敵船とは真逆の、左40度方向。
逆推力レバーを押し下げ、機関を前進状態に。若干のタイムラグのあと出力方向が逆転し、後進から前進に変わる。
左手の操縦桿を、するりと前方へ押し出す。後進上げ舵から前進下げ舵に転換し、機関の出力方向を下へ。
後進の惰力がとまり、船体が前進しはじめたところで、左のペダルを踏んで取舵をとる。船首がゆっくりと左に回りはじめた。
もとの船首方向からみて左方向40度に向き、右のペダルをわずかに踏んで回頭力を止めながら、推力をあげる。速力があがり、高度は10,000へ。船は地表をなめるように進みはじめた。
さあ、星の向こう側はどうなっている――
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