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11話:目撃証言

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 結局私はそのお誘いを適当な理由を付けて断ってしまった。
 だって物理的に無理だし……。レンザさんはそれを聞くと、乾いた笑いを上げ、城門の中へと去っていった。

 私はその後お店に戻ったものの、妙に落ち着かず、結局その日はお店を閉めてお城の自室へと帰ってきたのだった。

 既に夕食は終えて、私は就寝までの時間の間を持て余していた。

  考えるのは昼間出会ったレンザさんの事だ。

「あーあ。せっかく良い雰囲気だったのにね~」
「流石に晩餐会の主催者である私が招待客と一緒に抜け出す訳には行かないでしょ……」
「まあね~ 君が僕を解放してくれるなら、影武者でも分身でもなんでもしてあげるけど?」

 私のベッドの上で寛いでいるベルフェが金色の瞳を妖しく光らせて私を見つめてきた。

「ダメよ。ベルフェには私が死ぬまで従者でいてもらうんだから」
「ちぇっ。まあこれはこれで楽しいから良いけどね~」

 ベルフェがそんな事を言いながらごろごろとベッドの上を転がっている。

 すると自室の扉をノックする音が聞こえた。私はベッドルームから客間へと移動し、身だしなみを整えてから扉を開けた。

 そこには、いつものあの柔和な笑顔を浮かべたシリウスが立っていた。

「ベアトリス様……夜分にすみません。少しお話したい事が」
「なんだ? 長い話になりそうなら中で聞くが?」
「いえ、流石にこの時間に女性の部屋に入るのは。すぐに済む話です。明日の天覧試合に出場する剣士についてです」
「剣士?」
「ええ。本日ようやく、間違いなく優勝候補の一人であるライザン国のレンザ・ヒナギという男が到着しまして。ところが、この男、帝都で殺人を起こしたのではないかという疑いが掛けられていました」
「……それで?」

 私は表情一つ動かさなかったが、心の中では驚いていた。レンザが? まさか今日の昼間の事?
 いや、“掛けられていました”って過去形だな。

「一応、目撃証言がありまして、通り魔に襲われたところを反撃したという彼の証言が真実だと分かり、結局無罪になったのですが……」
「ですが……?」
「彼の証言と目撃証言に食い違いがありまして……。目撃証言ではレンザと共に、通り魔に先に襲われていた女性に回復魔法を行使した女性がいるという話だったのですが、彼はその存在を頑なに否定しています」
「なるほど……」

 シリウス、それ、私です……。
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