霧の都のヴォーパルバニー ~貴族に殺された私、うさ耳獣人に転生し最強に。ワケあり令嬢に拾われてS級暗殺者になったので白豚共に復讐を開始する~

虎戸リア

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第5話:白博物館

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 その博物館の中は三階建であり、一階には何やら異国の調度品やら古ぼけたアンティークやらが飾られている。二階には美術品と書物が、そして一番上の三階にはどうやら絵画が展示されているらしく、私立の博物館であると納得できるほどの小規模感だった。

「……さっきの言葉がなんかのヒントなのかな?」

 ジャン・ポール・バチュータ〟……誰かの名前だろうことは分かる。そういう人がどこかにいるのだろうか?

「……誰もいないけど」

 流石に上の階までは分からないが、少なくとも一階は誰の気配もしない。私は上からそのバチュータ氏を探そうと階段で三階まで上がる。

 三階は複数の部屋に分かれて絵画が展示されているが、ここでようやく人の気配を感じた。私はそっと気配のする部屋を覗き込むと――

「ちっ、なんだよ誰だよジャンって……くそ、俺こういうの苦手なんだよ!」

 何やらぶつくさ言いなら、髪を真っ赤に染めた少年が、巨大な肖像画の前に立っていた。歳は私とさして変わらないだろうが、最近若い男性の間で流行っているベストをだらしくなく着崩したような格好をしており、胸の不自然な膨らみと重心の置き方からして、おそらく短銃を一丁、ナイフかダガーぐらいの大きさの刃物を一本、腰にぶら下げているのが分かる。

 少年ギャング団か何かに所属しているのだろうと推測する。

 人相、行動を見る限り、自ら博物館見学にやってきたようには見えない。

「……おい、何見てんだこら」

 あ、バレた。まあ隠れる気もなかったけど。仕方ない、一般人のフリをしよう。いや、まあ今はまだ一般人だけども。

「誰もいないと思ってたから、びっくりして」

 私がそう言って笑顔を浮かべると、その少年は一瞬顔を赤らめると顔を逸らしながら声を張り上げた。

「な、なんだ女かよ! ちっ、おい、お前ここ良く来るのか?」

 お前呼びとはいきなり馴れ馴れしいが、とりあえず会話は続いた。

「いえ、初めてなの」
「ちっ……お前、ジャンって名前っぽい顔の男をここで見かけなかったか?」
「ジャンっぽい顔ってどんなの?」
「知るかよ。とにかく俺はジャン・ポール・バチュータって奴を探しているんだよ!」

 その言葉を聞いて、私はスッと目を細めた。

 この人……多分私と同じだ。おそらく、アイギスを目指してきてチケット売り場の老人に同じことを言われたのだろう。

 問題は、それを彼に明かすかどうかだ。なんとなくだが、同じ目的だと言うと、彼は牙を剥けてきそう気がする。これから向かう先のことを考えると……安易に彼をのは悪手な気がする。

「えっと、じゃあ私も手伝うよ」
「……お前、良い奴だな」

 少年が私の提案を受けて、年齢相応の表情を浮かべた。そのはにかんだ笑顔が私は嫌いじゃなかった。

「そうかな?」
「じゃあ、俺は違う部屋を見てくる。もしかしたら、どっかに隠れているのかもしれねえな。ったくめんどくせえ」
「分かった。怪しいところ探してみるね」
「なんかあったらすぐに言えよ! 俺はマヒュー。ロッソファミリーのマヒューだ」
「うん。私は……。何かあったらすぐに呼ぶねマヒュー」
「おう!」

 ドタドタと足音を立てて走り去っていくマヒューの背を見て、暗殺者には向いていないなあと思ったが口にしない。ロッソファミリーとかなんとか言っていたので彼は大方ギャングの下っ端か何かだろう。

 ただ、少なくとも、ここまで来れたということは私のように何かしらの才能を見いだされたのかもしれない。

「うーん……誰も隠れているように思えないけどなあ」

 少しだけ獣化を緩めてみる。尻尾と耳が生えてくるが、マヒューが近くにいないのは分かっているので問題ない。私の強化された嗅覚と聴覚と視力を駆使しても、誰もどこにも隠れていないとしか思えない。

「つまり……これはきっとテストだね」

 暗殺者ギルドに辿り着くにはきっとこういう謎かけを解く必要があるのだろう。その程度の知性や機転がないとそもそも暗殺者になれない……ということなのかもしれない。

「となると……ジャンさんは多分……人じゃない」

 この博物館には今のところ、生きている存在は私とマヒューしかいない。それはこの三階まで上がってきた時点で確認済みだ。

 となると……。

 私はふと壁にある絵画の横の、作者名と絵画のタイトルだけが書かれた簡素なプレートが目に入った。

「そうか……ジャンさんは……作者名かもしれないのか」

 いや、絵画であれば作者名以外でも――名前がある場合がある。私は先ほどまでマヒューが立っていた場所にある肖像画を見つめた。そこには中世の貴族らしき男が描かれており、なぜか指をこちら側、つまり真正面へと向けていた。

「……ビンゴ」

 その肖像画の横のプレートを見ると、〝肖像画――ジャン・ポール・バチュータ〟と書かれていた。

「あっさり見付かったけど、……それでどうすれば良いのだろう」

 私は慎重にその肖像画の裏を覗いてみたりしたものの、壁しかないし、隠し扉の類いもない。

「うーん……ん?」

 私は肖像画のある壁にもたれかかって悩みながら前を向いていると、そこにもう一枚、絵画があることに気付いた。そこには勇猛な騎士らしき姿が描かれており、右方向へと剣を向けていた。

 もう一度肖像画を見直す。ジャン・ポール・バチュータ氏は確かに正面を指差しており、その指の延長線上を辿っていくと……その騎士の絵画があった。

「あっ……そういうことか」

 私は騎士の絵画へと近付き、剣の指す方向を見つめた。その先には別の部屋があり、今度は船乗りらしき男がラッパ銃を左斜めの方向へと向けている。

「ジャンさんから始まる……絵画の指す方向へと進めば良いんだ」

 私は剣の示す方向へと足早の進む。そして当然のように、船乗りのラッパ銃が示す先には別の絵画があり、そうやって私は絵画から絵画へと渡っていく。

 そして、最後に辿り着いたのは――異国の洞窟の中の絵だった。怪しげな男達が武器の手入れをしており、その顔には仮面を被っている。だが、描かれている人物達は誰もどの方向を指していない。

 だけど、私はここが終点だと確信があった。なぜなら、その絵画のプレートには――

の洞穴――作者不明〟、と書かれていたからだ。

「きっとこれが鍵だ」

 ハサンと言えば……暗殺教団の祖である。暗殺者のギルドの入口の鍵となるにはぴったりのモチーフだろう。

「おい、トリス。ジャンはいたか?」

 気配を感じていたので分かっていたけれども、マヒューが目敏く私を見つけたやってきた。ちょっとタイミングが悪い。

「いたよ」
「だよな……参ったよ……っていたのかよ!」
「うん、マヒュー君がいた最初の部屋にいるから、探してみなよ」
「っ! 嘘だろ!?」

 マヒューがジャンさんの肖像画の部屋へと走って行った。これで少しは時間が稼げる。

「問題は……これでどうやって暗殺者ギルドに行けるかだけど……」

 ハサンの絵画を見ても、示す先は見付からない。

「あと……ヒントと言えば」

 私はそういえばポケットに入れていた、あの銀貨を思い出した。

「……そうか」

 その絵画の端を見ると、一人の男が、銀貨をドクロが描かれた背表紙の本の上に乗せようとしていた。

「ドクロの背表紙の本……ヒントは本?」

 私はそういえば、二階に本棚があったなあと思い出し、マヒューに気付かれないように、静かに二階へと向かった。

 マヒューが、どこにもいねえぞ! と叫んでいるのが聞こえるが無視。

 二階の階段の踊り場に置いてある本棚を見つけて、ドクロの背表紙の本を探すも見付からない。

「ここ以外にあるのかな?」

 二階を一回りすると――不自然な位置にもう一つ本棚があった。妙に太い柱にぴったりとくっついたその本棚は部屋の入口の死角にあり、思わず見過ごしてしまいそうになった。

「きっと……ここだ」

 私は、その本棚の三段目に、あの絵画に描かれた物と同じドクロの背表紙の本を見つけた。さらにその背表紙には丁度銀貨が入りそうな穴が空いている。

 私はポケットから銀貨を取り出し、それをその穴に入れた。

 カチリ、という小さな音と共に、本棚がゆっくりとまるで扉のように外側へと開いていく。その先には、人が二人乗れるぐらいのリフトがあった。おそらく地下へと降りる為のものだろう。

「ふう。何とか……見つけられた」

 私は少しだけ安堵し油断していた。

「――てめえ。俺に嘘ついていたな」

 だから背後からそんな怒りの籠もった声が聞こえてくるまで――私は背後の存在に気付かなかった。

 ゆっくりと振り向くとそこには――怒りで顔を真っ赤にし、手にダガーを携えたマヒューが立っていた。

「君、本当にタイミング悪いね……」

 私はそう言う他なかった。
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