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94話「一年もあれば、色々と変わるもの①」
しおりを挟む間宮(M)僕が幸先輩を初めて見たのは、部活紹介の時。その時、抱いた第一印象は...怖い人だった。
一年前の4月上旬。お昼を食べ終わった一年生たちは体育館に集まり、座りながら壇上で行われている部活紹介を見つめている。
男子生徒A「なぁ、おい。」
男子生徒B「なんだよ?」
男子生徒A「司会してる先輩、めちゃくちゃ可愛くない?」
男子生徒B「まぁ、うん。めちゃくちゃ可愛いと思う。」
男子生徒A「だよな~! 可愛いし、おっぱいもデカいし、最高じゃね? あの人、生徒会だろ? 俺、生徒会に入ろうかな~?」
男子生徒B「そんな理由で入って、続くわけないだろ。お近づきになりたい気持ちは、わからんでもないが。」
男子生徒たちはヒソヒソと話しながら、壇上端でニコニコと笑みを浮かべている女子生徒を見つめる。部活紹介の司会進行をしている、二年生の生徒会会計、牛寅 灯は、紹介を終えて去っていく生徒たちを大きな拍手で見送る。
牛寅「ありがとうございました! では、続いての部活は遊部です! よろしくお願いしま~す!」
ニコニコ眩しくて可愛い笑みを後輩に向けながら、元気よく次の紹介を始める。牛寅の大きな拍手に導かれるように、一年生たちも大きな拍手で壇上に上がってくる先輩を迎える。その先輩を、列の後方から不思議そうな顔で見つめる男子生徒ーーー間宮 傑は、手元の「東咲高校、部活紹介!」と書かれた冊子へと視線を落とし、ペラペラとめくりはじめる。
間宮「遊部...一体、何をする部活なんだろう...?」
間宮(というか、必ず部活動しなきゃいけないなんて......もうちょっと、ちゃんと調べてからくるべきだった...。はぁ...どうしよう...? どこに入ろうかなぁ...? 運動部は絶対に嫌だし...文化部...どこか、いいところは...。)
ペラペラと冊子をめくっていく。めくるたびに、頭の中に浮かび上がる中学の頃の思い出ーーー部活の同級生が、先輩が、後輩が、ニヤニヤと自分を見つめる。ゲラゲラと自分を見て笑う。
間宮(だ、大丈夫だよ! 大丈夫、落ち着け...落ち着け...! 高校は、きっと違う...違うんだ...! それに、苦手な運動はしないから、きっと...。)
牛寅「ありがとうございました! 続いては野球部の皆さん、よろしくお願いします!」
間宮「え? あれ? 野球部?」
間宮(あぁ、聞き逃しちゃった! バカバカバカ! 何やってるんだ、僕は! ちゃんとしっかり調べなきゃいけないのにぃぃ!)
頭の中で、慌てる自分をゲラゲラと笑う男たちーーー壇上へ向けた顔が、床へ床へと落ちていく。
間宮(いや、どこに入ろうが中学の頃と一緒だよ...。僕なんかを歓迎してくれる部活動なんて...。)
野球部の元気で大きな声が体育館内に響き渡る。しかし、その大きな声も間宮には届いておらず、顔をあげることなくずっと床を見つめている。悲しそうに、苦しそうにしている間宮に気づくこともなく紹介は進んでいく。
牛寅「野球部の方、ありがとうございました! えー続いての部活はーーー」
「大人しくしろというのが聞こえんのかぁぁぁぁ!? 止まれぇぇぇぇ!!」
牛寅「...え?」
「うるせぇぇぇ! 離せ、このクソダメガネがぁぁぁ!!」
「誰が、クソダメガネだ!? 言うことを聞かんかぁぁぁぁ!!」
牛寅「あ、あの声は...! す、すみません、新入生のみなさん! 少々お待ちを...!」
壇上袖から聞こえた声で笑顔をかき消した牛寅は、慌てて袖へと駆け出そうとする。と、袖からマスクをした男子生徒ーーー二年生の関 幸が飛び出してきて、ギロリと牛寅を睨みつける。
牛寅「げっ!? やっぱり!」
関「おい、マイク!」
牛寅「あんた、なにやってんのよ!?」
関「いいから、とっとと貸せや! あっ、こっちのマイク使えばーーー」
「マイクを死守しろ、灯ぃぃぃぃ! やつにマイクを握らせるなぁぁぁぁ!」
牛寅「え!? あ、は、はいぃぃ!!」
袖から聞こえた命令に素早く反応し、牛寅は壇上の後ろへと移動させた台に置かれているマイクをサッと取り、関と距離をとる。
関「おいこら、てめぇ! 何やってんだ、おい!!」
牛寅のマイクを奪おうと、関はジリジリ距離を詰める。その関の背後から、眼鏡をかけた二年生生徒会副会長の猪山 光里が、額にしわを寄せながら壇上へと上がってくる。
猪山「貴様がなにやってるんだ!? 風邪引いてるんだろうが! とっとと家帰って寝ろ!! 新入生に菌をバラまくな!!」
関「新入生が集まってるこの機会を、逃すバカがどこにいるんだ!?」
牛寅「あんた、今日風邪引いてるから休みなんじゃないの!? 何してるの!?」
関「休んでねぇわ! ピンピンしてるわ! 猪山が勝手に休みってことにしたんだよ!」
猪山「貴様には、後日改めて紹介する時間を与える! 昼の放送でもなんでもいいだろう! とにかく、今はとっとと帰れ!」
関「昼の放送なんて、ちゃんと聞いてるやついねぇだろうが!」
牛寅「ちょっ、あんたねぇ! 他の部活の悪口をここで言うな! バカか!?」
関「というか、この機会逃して後日やったって、そのころにはほとんど部活に入ってるやつらばっかりだろうが! なんだおい、略奪してもいいのか!? そういうことなのか!? あぁん!?」
猪山「他の部活生を無理やり引き抜くなんて、認めるわけないだろうが!!」
牛寅「とにかく、あんたは休みってことだからぁぁぁぁ! 探偵部の紹介は、もう進行から外してあるからぁぁぁぁ! とっとと帰れぇぇぇ!」
猪山「後日、時間を与えると言ってるだろうがぁぁぁぁ!」
関「うるせぇぇぇぇ! 誰も入部しなかったら廃部にすんだろうがぁぁぁぁ! 調子乗ってんじゃねぇぞ、クソ生徒会どもがぁぁぁ! この機会を逃してたまるかぁぁぁ!!」
壇上に居残ろうとする関を、二人は袖へと引っ張っていく。が、関も負けじと力尽くで踏みとどまる。突然始まった先輩たちの攻防戦を、一年生たちはポカーンとした表情で見つめている。
間宮「な、なんなんだ、あの人...?」
関「おい、新入生の野郎ども!!」
間宮「ひぃ!?」
関「なんでも探ーーー」
猪山「させるかぁぁぁぁ!!」
猪山は、素早く関の口を手で塞ぐ。
猪山「なんの成果もあげんゴミを片付けるチャンスを、ここで逃すわけにはぁぁぁ!」
関「テメェェ! 潰す気満々じゃねぇかぁぁ!!」
牛寅「時間押してるんだから、さっさと去れぇぇぇ!! すいませんんん!! 他の方も手伝ってくださいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
間宮(M)その後、壇上で暴れていたあの人は...口にガムテープを貼られ、縄でぐるぐる巻きにされた後、屈強な男の人たちに運ばれていった。部活紹介が全て終わった後、入部する部活は決まらなかったが、これだけは心に決めた。
間宮(あの人には、絶対に近づかないでおこう....。)
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