なんでも探偵部!

きとまるまる

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98話「一年もあれば、色々と変わるもの⑤」

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 次の日、なんでも探偵部部室。時刻は18時を過ぎ、外は暗闇に包まれつつある。関は明かりもつけず椅子に座り、ただジッと天井を見上げている。


関「あーあ、締め切り時間伸ばされたって、入るやついなかったら結局意味ねぇんだよな...。このままじゃ、廃部...はな先輩にぶっ殺される気が...。」

関「...あんなカッコいいこと華先輩に言っといて、このザマかよ...。クソダッセェなぁ...。」

関「...間宮くんは、どこか無事に入れたかねぇ? 丸したとこなら、あの子でも大丈夫だと思うんだがな。つーか、あれが探偵部最期の仕事になるとはなぁ。まぁ、悪くない終わりだな。」

関「さぁてと、まだ締め切りまで2時間ちょいあるが...帰るか。これ以上は、もうどうにもなんねぇ。」

関「...これから、どうすっかなぁ?」


 関がため息を吐き出し、立ち上がる。と同時に、扉がドンドンッと力強く音を鳴らす。


関「ん? ダメガネか? おいおい、なんだよ? 煽りにきたのか?」


 頭を軽く掻きながら、扉を雑に開ける。「ひぃ!?」と、情けない言葉が耳に入る。


関「...ん?」

間宮「こ、こ、こんばんわ!!」

関「間宮くんじゃねぇか。どうした、困りごとか?」

間宮「あ、あの...。」

関「どうした? あ、そうだ...部活、決まったか?」

間宮「こ、こ、これ...! 判子、お願いします!!」

関「判子?」


 関の目の前には、くしゃくしゃになった入部届が差し出されている。間宮 傑と書かれた名前の隣には、なんでも探偵部という言葉が、歪みながらもしっかりと書かれている。


関「...お前、いいのか?」

間宮「ぶ、部活の冊子に、おススメってデカデカと丸してあったので!!」

関「あの言葉、信じてくれるのか?」

間宮「こ、子犬を助ける人の言葉です! 信じます!!」

関「...そうか。もう18時過ぎてるからよ、別のところ入っちまったと思って寂しかったぜ~。」

間宮「ご、ごめんなさい...遅れちゃって...。」

関「謝んな。勇気振り絞って、ここに来てくれたんだろ?」


 関は、差し出されたくしゃくしゃの入部届を受け取り、小さく震える間宮を見つめる。


関「怖かっただろ?」

間宮「......。」


 何も応えない間宮に、関はフッと微笑み、頭を優しくポンポンと叩く。


関「ありがとよ。俺の言葉、信じてくれて。でも、こんなくしゃくしゃの入部届けを生徒会に提出したら、怒られる気がするなぁ...。書類は大事にしろってよ。」

間宮「うぐっ...。」

関「でも...安心しろ、間宮くん! 入部届けなら、これでもかってくらいあるぜ!」


 ブレザーの内側に手を突っ込み、大きく手を天へ広げる。ばらばらと大量の入部届が舞い散り、二人に降り注いでいく。そのおかしな光景を見た二人は、小さく笑みをこぼす。


関「ほら、部室入ってゆっくり書いてけ。まだ時間はあるんだからよ。」

間宮「は、はい!」


間宮(M)何年も悩んでたことが、たった一日で吹き飛んでしまった。それだけ、僕の悩みはちっぽけなものだったのだろうか?

間宮(M)いや、違う...。この人がすごいんだ。

間宮(M)僕もいつか...この人みたいに...。



ーーー



 間宮は椅子に座りながら、部室の壁に掛けられている時計を見つめている。時計は20時25分を指している。


間宮「あ、あの...そろそろ生徒会に提出しに行った方が...。」

関「焦るな焦るな、間宮くん。こういうのは時間ギリギリに提出した方が、やつらにダメージを与えられるんだ。探偵部を潰せると思わせといてからの...地獄に叩き落としてやるわ、クソボケ生徒会どもが! はっはっはっ!!」

間宮「し、締め切りって、21時ですよね? あと、5分ですよ...?」

関「...ん? 5分? 間宮くん、時計はしっかり確認しろよ~まだ30分もーーー」

間宮「部室の時計、遅れてますよ。」

関「...は?」

間宮「ほ、ほら。」


 間宮は、机に置いてある自分のスマホの画面を関に見せる。時間は切り替わり、20時56分を知らせている。


間宮「あと4分...間に合うんですか?」

関「...やばい。」

間宮「え?」

関「急げ、間宮くんんんんんん! これはやばいぞ、マジでやばいぞ!!」

間宮「え!? えぇ!?」

関「あの頭カチカチ野郎どもは、一秒でも遅れたらアウトだ! 急げぇぇぇぇぇぇ!」

間宮「は、はいぃぃぃぃぃ!!」

関「こんな終わり方で、終わってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 関は机に置かれていた入部届をぐしゃりと力任せに握りしめ、二人は慌てて部室を飛び出していく。



ーーー



 生徒会室の扉が、コンコンと軽く音を鳴らす。書類に目を通していた生徒会長の猪山は、視線と眼鏡をクイッとあげ、真っ直ぐ前を見つめる。


関「失礼しますよ~ん。」

猪山「お前か。何しにきた?」

関「部活の活動記録をまとめて持ってきたんですよ。あなたが持って来いって言ってきたんでしょ?」

猪山「あぁ、そうだったな。」

関「はい、どうぞ。」


 関は、裏向けた状態で活動記録を猪山へと手渡す。猪山は受け取ると、表には向けず、そのまま机の上へと活動記録をおく。


猪山「ちゃんと活動しているみたいだな。」

関「えぇ。去年は全然でしたけど、今年は可愛い一年生が入りましたから。看板娘効果はすごいですよ~。」

猪山「そうか。その子目当てでやってくるバカどももいるかもしれないんだからーーー」

関「そういうクソ野郎どもは、私がお掃除するので大丈夫ですよ~。」

猪山「おい、こっちの仕事を増やすなよ。」

関「あなたたちに迷惑かけられるなら、ばんばんやっちゃいましょうかねぇ~?」

猪山「今すぐ、会長権限で廃部にしてやろうか?」

牛寅「会長、書類コピーしてき...げっ!? なんであんたがここにいんのよ!?」

関「やぁ、灯ちゃん。」

牛寅「気安く名前を呼ぶな!」

関「はぁ...中間テスト負けたの、まだ根に持ってるんですか? しつこい女は嫌われますよ~。ねぇ?」

猪山「なぜ、俺にふる?」

関「出すもの出しましたし、邪魔者はさっさと帰りますね。失礼しました~!」


 関は牛寅の肩を軽くポンポンと叩くと、そのままスキップしながら生徒会室を後にする。


牛寅「ぐぬぬぬぬ...! なんであんな男に、私は...! 期末テストは、絶対に負けないんだから...!」

猪山「ふっ...おまえらは、仲良いな。」

牛寅「え!? ちょっ、会長!? あいつと仲良くなんてないですよ! 変なこと言わないでください!」

猪山「そうなのか? いつもいつも会うたびにギャーギャー言い合ってるから、そうなのかと。」

牛寅「そんなことないです! やめてください!」

猪山「なぜ、そんなに怒る? もしかして、おまえ...。」

牛寅「ちょっ、会長? 今、絶対変なこと考えてますよね? 絶対そうですよね!?」

猪山「安心しろ。奴には口が裂けても言わん。」

牛寅「ぜっっったい言わないでくださいよ! 違いますから! 違いますからね!! 私が好きなのは...!!」


 牛寅は、ぎゅっと口を閉じ、猪山を見つめる。徐々に顔が真っ赤に染まっていく。


牛寅「す、す、好きなのは...。」

猪山「ほう、好きな奴がいるのか? 誰かはわからんが、応援しているぞ。頑張れよ。」

牛寅(う、うぅ...! め、目の前にいるのにぃぃぃ...!!)

牛寅「は、はいぃ...が、頑張らせていただきますぅ...。」


 猪山は微笑みながら、関から受け取った活動記録に目を通す。「今月も頑張りました。」としか書いておらず、その下には一枚の写真が貼ってある。


猪山「......。」

牛寅「会長、どうしました?」

猪山「あいつが持ってきた活動記録なんだがな...。」

牛寅「どれどれ...「今月も頑張りました。」なに、これ? 小学生じゃないんだから...。」

猪山「あのやろう...!」

牛寅「でも、貼り付けてある写真...すごく素敵ですね。」


 写真には、関が真ん中で両サイドにいる張間と間宮の肩を組んで笑顔でピースしている。張間も笑顔でピースしているが、間宮は写真が恥ずかしいのか、視線を外し眉を潜めている。


猪山「...楽しそうだな。」

牛寅「ですね。」

猪山「廃部にならなくてよかったな。」

牛寅「はい。」

猪山「......活動記録としては不十分だ。」

牛寅「え?」

猪山「灯、奴に再提出しろと伝えろ。もし次もこんなもの持ってきたならば、書くことがないくらい活動できてないとみなし、容赦なく廃部にするとも伝えておけ。」

牛寅「うふふ...! はい、了解しました!」

猪山「全く...いい加減なところは、いつまでも変わらんな...。」


 猪山は大きなため息を吐き出しながら、紙に貼り付けられた写真を剥がし、くしゃくしゃに活動記録を丸めゴミ箱へと放り投げた。















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