なんでも探偵部!

きとまるまる

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149話「秘密の想いは、当然打ち明けません①」

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 登場人物

 新沼 咲にいぬま さき:♀ 一年生。バドミントン部の部員。

 狗山 羽和いぬやま うわ:♀ 一年生。バドミントン部の部員。


ーーーーー



 放課後、張間を探し終えた狗山は、一人でとぼとぼと帰路を歩いている。


狗山「はぁ...今日は、なんだか疲れたっす...。なんでこんなに疲れてんすかね...?」


 歩きながら、疲れの原因を探るために今日の出来事を思い返していく。あれでもないこれでもないと、早巻で遡っていくと、新沼に言われた一言を思い返す。


新沼「ワンちゃんってもしかして...部長さんのこと、好きなの?」


狗山「...べ、別に好きじゃねぇし...ちょっとカッコいいなぁとかは、思ってるっすけど......ぬがぁぁぁぁ! あいつが変なこと言うから、なんか変に意識しちゃうっすぅぅぅぅ!!」

狗山「さ、最近ちょこちょこ会うこと多いし...話すことも増えてきたっすからね...。だからこその...なんていうか...うぅぅ...! 新沼のやろぉぉぉ!!」

新沼「呼んだ?」

狗山「へ? うぎゃぁぁぁぁぁ!?」

新沼「うるさいんだけど。」

狗山「い、い、いつの間に後ろに!? お前は忍者っすか!?」

新沼「そんなわけないでしょ。面白くない冗談言わないで。」


 冷たくなる新沼の視線に、狗山は屋上での出来事をふと思い出す。潰れる紙パック、滴り落ちる飲み物、恐ろしいほど眩しい笑顔ーーー狗山は、額からポタポタと冷えた汗を垂れ流し「あばばば...!」と小さく声を発しながら、ガクガクと震え始める。


新沼「もう怒ってないから。なにもしないわよ。」

狗山「よ、よかったっす...。」

新沼「でも、次また同じことしたらどうなるか...わかってるわよね?」

狗山「お、お前も同じようなことしてきたじゃないっすか! だから、おあいこっすよ!」

新沼「ワンちゃん♡ なんか言った?」

狗山「なにも言ってないっす。」

新沼「よしよし、いい子いい子♡」

狗山「おい、こら! 頭撫でるなっす!」

新沼「うふふ、怒ってるワンちゃん可愛いね。」

狗山「なんで怒ってるのが可愛いんすか!? 意味わかんないっす!」

新沼「ねぇ、ワンちゃん。」

狗山「ん? なんすか?」

新沼「今日、この後予定ある?」

狗山「この後っすか? 特にないっすけど。」

新沼「じゃあ、ご飯食べに行かない?」

狗山「いいっすよ。」


 狗山はスッとスマホを取り出すと、トントンと素早く画面を叩いていく。


狗山「「今日は、晩飯いらねぇ」っと。んで、なに食いに行くんすか?」

新沼「ワンちゃんは、何か食べたいのある?」

狗山「俺は、そうっすねぇ...今日は疲れたから、がっつり食べたいっすね。」

新沼「疲れた? 何かあったの?」

狗山「おい、忘れたとは言わせねぇっすよ!」

新沼「なんのことだか、わかんな~い。」

狗山「このやろぉ...!」

新沼「だって、あんな反応してたら誰だってそう思うじゃない? もう一回、動画見る?」

狗山「見ないっす! 早く消せっす!」

新沼「あたふたしてるワンちゃん可愛いから、どうしようかな~?」

狗山「だから、可愛くないっす!」

新沼「元気なくなった時に、あれ見て元気だそうと思ってるの。だから、残しといていい?」

狗山「あれ見て元気出るわけないっすよ! なに言ってんすか!?」

新沼「ワンちゃんがあたふたして慌ててるところ見て、あざ笑うの。」

狗山「ホントなに言ってんすか!? お前、ひどいやつっすね!?」

新沼「ほら、見てみて。」


 [お、俺とっすか!?!? いやいやいや!! 俺っすよ!?]


新沼「こことか、最高にアホみたいな顔してない? リピート確定。うふふふ♡」

狗山「おいぃぃぃ! もうやめろっすぅぅぅぅ!」


 顔を真っ赤に染めながら頭を抱え嘆く狗山を無視して、新沼は自分の手元にスマホを戻しジッと動画を見つめ出す。ただただ静かに、じっと見つめている。


狗山「......新沼?」

新沼「ん? なに?」

狗山「なんかあったんすか?」

新沼「なにもないけど。」

狗山「だったら、なんで動画をジッと見てんすか? 元気出したいんすか?」

新沼「......ねぇ、ワンちゃん。」

狗山「なんすか?」

新沼「ワンちゃんってさ...恋、したことある?」

狗山「ん?」

新沼「ある?」

狗山「うーん...ないことはないっすけど。」

新沼「いつ?」

狗山「ずいぶんと前のことっすよ? 小学生とかそこらへんっす。同じクラスだったやつのこと、好きになったことはあるっすよ。」

新沼「今も好きなの?」

狗山「いや、そいつ途中で引っ越して、それっきり会ってないっすから。今は、なんともないっすかねぇ。」

新沼「なんで好きになったの?」

狗山「なんだったかなぁ...? 多分、一緒に遊んで楽しかったからとかじゃないっすか?」

新沼「ふーん、単純だね。」

狗山「うるせぇ! 小学生とか、そんなもんだろ!」

新沼「......。」

狗山「新沼、どうしたんすか? というか、こんなこと聞いてなんなんすか?」

新沼「ううん、なんでもない。」

狗山「新沼は、恋したことあるんすか?」

新沼「うーん...ないかな?」

狗山「ないんすか。お前、可愛いからモテそうっすけどね。」

新沼「告白は結構されたことあるけど。」

狗山「だろうな。」

新沼「まぁ、周りから可愛いってよく言われるからね~。」

狗山「自分で言うなっす。」

新沼「ワンちゃんは、もし男だったら私と付き合いたい?」

狗山「中身がやばいから嫌っすね。」


 即答する狗山のお尻を、新沼は軽く蹴りあげる。


狗山「あだぁ!? なにするんすか!?」

新沼「今のは、あんたが悪いでしょ。」

狗山「思ったこと言っただけじゃないっすか!!」

新沼「...嫌か...。」

狗山「...お前、好きな人いるんすか?」

新沼「いない。」

狗山「ほんとっすか?」

新沼「いない。」

狗山「......。」

新沼「な、なによ?」

狗山「なぁ、新沼。飯、近くのファミレスでいいっすか?」

新沼「え? 別にいいけど。」

狗山「よーし! じゃあ、そこまで競争な! いくっすよ~!」

新沼「は?」

狗山「よーい......ドンっす!」

新沼「は!? ちょっ、待ちなさいよ!!」
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